マイスモールランド

難民問題というよりも17歳サーリャの絶望の物語

日本で2020年に難民と認められたのは、難民申請した3,936人のうちわずか47人です(出入国在留管理庁2021/3/31発表による)。

クルド人の家族、父親と子どもたち3人の物語です。父親は難民申請をしていますが不認定となり在留資格(言葉の使い方は正確ではない)を失います。子どもたちは日本で育ち、さらに下のふたりは日本語しか話せないにもかかわらず、今のままでは大人になっても就労できない可能性があります。長女である高校3年生のサーリャはクルド語と日本語を理解し教師になることを目指していますが、将来への希望を失いかけています。

マイスモールランド / 監督:川和田恵真

嘆いていても始まらない

直接的に映画の話ではありませんが、この難民問題に対して日本国籍を持つ者が理不尽だと嘆いていても何も変わりません。どうすべきかの答えは出ています。

日本の難民認定率が極端に低いのは認定基準が厳しい云々以前に、そもそも長く続く自民党政権に難民を受け入れる気がないからです。政権を変えれば、一気に解決となることはないにしても一歩前に進める可能性が生まれます。

希望など持ちようがない

サーリャ(嵐莉菜)は17歳の高校3年生です。幼いころに両親とともに母国(多分トルコ)での迫害から逃れて日本にやってきたクルド人です。映画でははっきりとは語られませんが、妹のアーリンと弟のロビンは日本で生まれていると思われます。母親は亡くなっています。アーリンは中学生くらいでまったくクルド語を理解しません。ロビンには父親がクルド語を教えようとしているシーンがあります。

父親マズルムの在留状態は正確ところはよくわかりません。映画の前半では就労許可が出ているようにもみえましたが、あるいは不法就労だったかもしれません。2018年から難民申請中の就労許可の運用が変わってきているようですので、映画の年代をはっきりさせるなどもう少しこのあたりをはっきりと描いたほうがよかったと思います。

ただ見方を変えますと、この映画は、難民問題に関しては突っ込んだ描き方をするよりも、むしろこんなことがあっていいのかという情緒面で訴えようとしているところもあり、それはそれでいいのかもしれません。

映画の中頃で父親の難民申請が不認定となり、入管の職員が在留カードにハンドパンチャーで穴を開けて無効にしていました。仮放免状態となったわけですが、その場合でも在留カード自体がなくなることはないと思いますので象徴的に描かれたシーンかもしれません。

仮放免については、支援団体の弁護士が働かずに生きろとは無茶な話なのだがと言いながら、今後は働ことができないこと、つまり収入を得られなくなることや許可なく県外(埼玉県)に出られないことを説明していました。

サーリャたち子どもも同じことです。サーリャはそれ以前から県境を越えて東京都内のコンビニでアルバイトをしていましたが、後に解雇されています。大学への推薦もダメになります。教員免許をとることや任用されることには可能性がなくはなさそうですが、そもそも就労許可がなければ働きようがありません。

こんな状態のサーリャには希望など持ちようがありません。

映画のつくりには好感が持てる

監督は川和田恵真さん、1991年生まれですので30歳くらいのときの作品で、これが商業映画デビューとのことです。脚本も自ら取材をかさねて書き上げたそうです。

上にも書きましたが、難民問題を描くというよりも、サーリャに焦点を合わせて、不確かで先の見えない状態に置かれた17歳の心情を捉えようとした映画です。サーリャを演じている嵐莉菜さんがそれによく応えていますし、川和田監督も嵐莉菜さんのよさをうまく引き出しています。

サーリャがコンビニで知り合う同年代の聡太を演じた奥平大兼さんは「MOTHER マザー」の息子役の俳優さんでした。細部に気を使いとても丁寧に演じていました。2003年生まれですので撮影時はリアル高校生だったかもしれません。とにかくとてもよかったです。

と、映画の全体的なつくりには好感が持てますが、やはり個々の出来事の描き方が表面的過ぎます。難民問題はやむを得ないにしても、サーリャの学校生活、石に託されたクルドの思い、コンビニの店主の描き方、パパ活と称する行為、どれもごく一般的な視点で流されているだけに感じます。

いずれにしても、好感は持てるにしても、こうした描き方でサーリャに焦点を当てるのであれば絶望しかないことをはっきりさせるべきだと思います。