ROMA/ローマ

キュアロン監督のクレオ(Liboさん)への愛情の深さを感じる映画

Netflixのネット配信でしか見られないのかと思っていましたら、先週からイオンシネマで劇場公開されたアルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA/ローマ」 です。映画の内容だけではなく何かと話題の多い映画なんですが、意外にも入りはよくありませんでした。ネット配信で見た人が多いのでしょうか。

ROMA ローマ

ROMA ローマ / 監督:アルフォンソ・キュアロン

以下、あらすじ的なことは全く書いていません。

かなりパーソナルな映画ですので映画として面白いかという点ではかなり微妙ですが、アルフォンソ・キュアロン監督はこういう映画を撮りたいんだということが感じられる映画ではあります。撮影まで自分でやっているようです。

あのシーンはどうやって撮ったんだろう? 実写なんだろうか? とか、映画の作りに多くの興味がいく映画でした。

まずは、65mmフィルムで撮られたらしい美しいモノクロの映像、下のインタビューによりますと、監督自身がこの映画は「90%が私の記憶」であり、その「3年の記憶を10ヶ月」に映像化したものだと語っています。

deadline.com

現実的にはこの映画の90%が、あの子供のひとり(長男?)であったキュアロン監督の記憶というのはありえないとは思いますが、おそらく強く焼き付いている風景であるとか、母親やクレオのモデルである Liboria “Libo” Rodriguez さんの記憶が共有されているのでしょう。

この方が Liboria Rodriguez さんですね。上のインタビューには、彼女はこの映画を見て泣いていた、そして、こうだった、こうだったと言っていたとあります。

映画は、家政婦であり乳母であるクレオをじっと見つめるような作りになっています。ですのでほとんどが引きの画、ロングショットです。クレオが町を歩いたり走ったりするシーンはそのまま水平移動で撮られています。

さらに引きの画である上に、それぞれのカットが結構長回しになっていますので、カメラがクレオを追っていてもその背景には様々なものが写り込んできます。逆に言えば、あえてそれを見せようとしているのだと思います。

ファーストシーンは、タイルの床をフィックスでとらえたままかなり長く続きます。タイルをこする音、水を流す音、遠くに雑踏、時々犬が吠えていたかもしれません。溜まった水に空を飛ぶ飛行機が映り込みます。

この飛行機の映り込みはかなり印象的に使われていました。中程の武術の先生の輪っかになった腕の中にも飛んでいましたし、ラストカットでもクレオが洗濯物をもって家の屋上へ登っていくところをカメラが上にチルトしてそのまま空をおさえたまま固定、そして飛行機が空を横切っていきました。このシーンで映画は終わります。

冒頭は床の水への映り込み、最後は空を飛ぶところの実写、そこに何を読み取るかは見る者それぞれですが、かなり意図したシーンだとは思います。

どうやって撮ったんだろうというシーンも多いですね。特に、海で子供二人が溺れ、泳げないというクレオが助けるシーン、ワンカットだった思いますが、荒れた海にクレオが入っていきますと波に揉まれた子どもが確かにいました。まさかあれが本当に子どもであったということは考えられませんのでどうやって撮ったんでしょう? ワンカットじゃなかったんですかね?

クレオが思わぬ妊娠をし、相手の男に会いに行く画のバックに人間大砲が写っていました。人間大砲自体はサーカスにありますので不思議ではありませんが、あれはどういう意図なんでしょう? 監督が子供の頃に見たサーカスの記憶なんでしょうが、あるいは実際にその時キュアロン監督もクレオ(Liboさん)について行って見た記憶とか?

書いていることがかなり雑然としていますが、結局この映画はそういう映画だと思います。つまり、キュアロン監督が、自分の子供の頃の記憶をこんなことがあった、あんなことがあったと話しているのを、われわれ映画も見る者が、へえそうなんだと聞いているような映画なんだと思います。

とは言っても、ただ単に思い出話をしているわけではありませんので、おそらくその3年くらいは現在のキュアロン監督をかたちづくる大きな要素となっているのでしょう。

クレオの妊娠と流産、両親の離婚、そして混乱の社会情勢、たしかにそのどれをとっても10歳前後の子どもが受ける衝撃はかなりのものなんだと思います。

別のインタビューではこんなことも語っています。

I was forced for the first time in my life to see her as a woman [and to see] the complexities of her situation — a woman that comes from a more disadvantaged social class, that also comes from an indigenous heritage in a society that is ridden by class — and, in the Third World, there is a very perverse relationship between class and race.(Hollywood Reporter

当時、キュアロン監督は、Liboさんを通して先住民である彼彼女たちが社会的に不公平な環境に置かれているを知ったということで、第三世界においてはそうした誤った人種や階級間の問題が存在していると語っています。

クレオが流産するきっかけとなった「血の木曜日事件」が1971年6月10日、その3年前の1968年には、「トラテロルコ事件」というものがあり300人もの死者が出たそうです。1968年といえば東京オリンピックの4年後メキシコオリンピックの年です。

クレオの相手の男やその集団が日本語で武術の練習をしており、なんだかのどかな風景にもみえましたが、とんでもないことで、拳銃を持ってデモ隊に発砲、実際逃げる人を撃ち殺していました。あれは民兵ですね。

民兵に追いかけられ逃げるデモ隊を建物から撮ったシーン、どうやって撮ったんでしょう? そういえばそもそもの町のシーン、あれはセットでしょうか? 町並み、車、人々、かなり大掛かりですし、きっとセットですね。

ということで、まだまだ、ああそういえばこんなのがあったというようなところがたくさんありますが、見終えて一番残ることは、キュアロン監督のクレオ(Liboさん)への深い愛情であり、映画を見る限り、それは母親へのそれと変わらず、それ以下ではないということです。

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