SCRAPPER/スクラッパー

イギリスの労働者階級の父娘のリアルかと思ったものの…

昨年2023年のサンダンス映画祭のワールドシネマドラマ部門で審査員大賞を受賞している映画です。シャーロット・リーガン監督は1994年生まれの30歳くらいで、長編映画はこれが2作目かと思います。

SCRAPPER/スクラッパー / 監督:シャーロット・リーガン

イギリスの労働者階級のリアルか…

母親が亡くなった後もひとり暮らしを続ける12歳の少女ジョージーのもとに会ったこともない男が父親だと名乗って現れるという話です。

日本の社会環境で考えますとなかなか現実感を感じることは難しいのですが、イギリスの労働者階級の映画ですので結構リアルな話なのかもしれません。このドラマを日本社会の中でイメージしますと無茶苦茶重い話を想像してしまいますが、イギリスであればそうはならず、コメディっぽいところもある軽い映画になっています。

映画のつくりとしては、それぞれエピソードが中途半端に終わっており、なんとなく消化不良の印象を残しています。たとえば、母親との動画が入った大切なスマホをなくしたことはどうなっちゃったの? とか、ふたりがやや親密になる倉庫のシーンなんて演出が足りないんじゃないの? とか、ボイスメールを聴けといって出ていった父親ジェイソンがサッカーをやっているってのはドラマ的にどう? とか、ジョージーの秘密の部屋のスクラップタワーの扱いがもったいなくない? とかいろいろ思うところが多い映画です。

ことのついでにカメラワークやモンタージュについても書いておきますと、走る人物を追いかけるカメラの揺れはやりすぎでしょうし、また、たとえばジョージーとジェイソンふたりが会話しているシーンでジェイソンの子どもの頃のイメージを映像として挿入するモンタージュ(といっていいのかどうかはわからないけれど…)もダサい感じ(ゴメン…)がします。

シャーロット・リーガン監督について、日本の公式サイトには「10代から100本以上のMVの監督を務め」とあり、言われてみればそういうセンスなのかなあとは思います。

やはり、すべてにツッコミが浅すぎるかも…

ジョージーを演じているのは2011年生まれのローラ・キャンベルさん、撮影時もほぼ同年代と思われます。違和感なく的確に役をこなしています。

すでに母親は亡くなっているところから始まります。ジョージーがあまりにも気丈ですので、いったい母親はいつ亡くなったのだという疑問もわいてきます。

とにかく、ジョージーは唯一の友達アリを誘い、自転車を盗んで売りさばくことで生活費を得ています。

学校はどうなっているんだろうと考えていたんですが、夏休みの設定だったようです。

それに、ツッコミどころではないのでしょうが、母親はどういう亡くなり方をしたのだろうと思います。映画のラストにわかることですが、母親は、余命2週間(だったか…)と言われたとしてジェイソンに助けてと電話を入れているわけですから、母親の亡くなる前後はどういう状態だったんだろうと考えてしまいます。ちょっと想像がつきませんし、福祉事務所(的な行政の部署…)にはおじと一緒に暮らしているとごまかしていますが、かなり無理のある設定じゃないかと思います。

ジェイソン(ハリス・ディキンソン)が庭の塀を乗り越えてやってきます。ジョージーも、アリもさして驚くこともなく自然に受け入れ、ジェイソンは父親だと名乗り、そのまま居座ります。

で、父娘がどうやってお互いを認め合うかというドラマが始まるわけですが、特に何もありません。一緒に自転車を盗みに行き、警官に追いかけられたり、その際、ジョージーが大切なスマホをなくし、あれこれあって同級生と思しき女の子を殴ってその後母親が怒ってきたり、その謝罪にジェイソンが出かけるもののさしたる解決にもならず、それも有耶無耶のまま進みます。

そして、これはドラマ的にもかなり重要な要素かと思いますが、ジョージーは母親が空に行くと言って消えていったことに対して、秘密の部屋(多分母親の寝室…)に盗んできた自転車のパーツなどでタワーを作り、その天井にはぶち抜くと書いているわけですが、それを見たジェイソンは、その翌朝、自分のスマホに残されたジョージーの母親の最後のボイスメッセージを残して消えてしまいます。

やはり、ドラマ的な重要度に比して描き方があっさりし過ぎています。

そして、そのボイスメッセージには、母親の声で、自分は余命2週間だから帰ってきてジョージーの面倒をみてと残されています。それを聴いたジョージーはいなくなったジェイソンを探し回ります。

どうしたんだろう? と思ってみていますと、何のことはなく、ジェイソンは子どもたちとサッカーをして遊んでいます。

ちょっとずっこけます(笑)。

とにかく、そしてジョージーとジェイソンは父娘の絆を取り戻すのでした。いや、もともと絆はなかったわけですので、父娘の絆を深めていくのでした(多分…)。

冒頭に「イギリスの労働者階級の映画ですので結構リアルな話なのかもしれません」と書きましたが、雰囲気としてはリアルかも知れませんが、さすがに細部はリアルではないでしょう。作られたドラマということです。

ジェイソンのハリス・ディキンソンさん、結構見ていた…

ところでジェイソンをやっているハリス・ディキンソンさん、「逆転のトライアングル」や「ザリガニの鳴くところ」の俳優さんでした。