スウィング・キッズ

コメディタッチのダンス&音楽映画でありながら背景はシリアス

映画関係のサイトを見たりしていますと、わりとよく「サニー 永遠の仲間たち」の文字を目にします。見てはいないのですが、そのカン・ヒョンチョル監督の映画ということで興味を持った「スウィング・キッズ」、タイトルやビジュアルからも音楽&ダンス映画だと思われ、おそらくハズレはないでしょう。

スウィング・キッズ

スウィング・キッズ / 監督:カン・ヒョンチョル

そのカン・ヒョンチョル監督、あまり日本語の情報がありませんので IMDbをみてみましたら、2015年の「ドラえもん のび太の宇宙英雄記」に、大杉宜弘監督とともに、監督、脚本としてクレジットされています。ただ、日本の公式サイトにはでてきません。韓国版でもあるんでしょうか。

で、「スウィング・キッズ」です。

序盤と終盤は音楽とダンスでテンポよく進めていますので飽きることなく見られるのですが中盤がもたつきます。もう少し中盤を整理して2時間弱にすればよかったのにと思います。物語自体はかなりベタ(批判ではない)ですので、あまり物語そのものにこだわりますとダレた感じになります。 

映画全体のトーンはコメディタッチであり、ジャンルとしてはダンスものであり、青春もの(的)です。ただ、時代背景が1951年の朝鮮戦争ですので、北朝鮮対アメリカ、共産主義対資本主義の戦争がベースにあり、それが物語を進める力になっています。

そもそもの物語の発端は、捕虜収容所の所長が、いかに捕虜を人道的に扱っているかをアピールするために捕虜たちでダンスチームをつくるように命じたことです。

その捕虜収容所は、現在、「捕虜収容所遺跡公園」となっている巨済島(コジェ)にあったアメリカ軍(国連軍?)の捕虜収容所で、当時、「北朝鮮の人民軍捕虜15万と中共軍捕虜2万人など、最大17万3千人(ウィキペディア)」の捕虜が収容されていたらしいです。

こちらの方のブログで中の様子が写真で紹介されています。

描写がめちゃリアル~!( ̄◇ ̄;)「捕虜収容所遺跡公園」見学してきました~( ̄^ ̄)ゞ | へんりーぽーとのブログ

炊事をするかまどやトイレの写真がありますが、映画でも同様のセットで撮影されていました。

この捕虜収容所では捕虜の間にかなり争いがあったらしく、1952年には暴動にまで発展したようです。捕虜の間に争い? と思いますが、当時、北朝鮮軍は南への侵攻中に南で若者を強制徴用したらしく、捕虜になったのは北朝鮮の人民解放軍の兵士だけではなく、南の徴用兵士もいたということのようです。

そのあたりの背景がダンスチームの人物構成に反映されているのでしょう。

中心となるのは北朝鮮の英雄的兵士のロ・ギス(D.O.)、そして、強制徴用された捕虜(のように思われる)カン・ビョンサム、中国の人民解放軍の兵士(だと思う)のシャオパン、唯一女性で南の一般人であるヤン・パンネの四人です。

ダンスチームをつくるよう命じられたのは黒人のジャクソン、演じているのはジャレッド・グライムスという有名なダンサーの方です。時代も時代ですので、アメリカ兵の中にもジャクソンをニガー(nigger)と差別的に呼ぶものもいます。

ジャクソンは命令はうけたものの、そもそもアジア人にはジャズやタップは無理だとやる気はみせません。それでも、ロ・ギスとはダンスバトルを経てその天性の素質を見抜きます。

こうした展開の映画でよくあるのは、才能を見抜き鍛え上げたりする師弟関係、あるいはぶつかり合いながら才能を開花させていくというパターンが多いのですが、この映画はそのあたりははっきりしておらず、ジャクソンがロ・ギスにタップを教えるようなシーンもなく、むしろダンスバトルで競い合うシーンを何シーンか入れていました。もう少しベタに展開してくれたほうがスッキリする映画ではないかと思いますが何か意図があったんでしょう。ロ・ギスは自力でタップをマスターしたような展開でした。

ということですので、日々の厳しい稽古を経てダンスチームが出来上がるというようなことはまったくなく、ジャクソンがタップを教えるシーンも、稽古を重ねるシーンもほとんどありません。いつの間にやら皆完璧なダンサーになっていました。

先に書いたように、映画の軸となっているのはそうしたダンスサクセスストーリーではなく、北朝鮮対アメリカです。

捕虜の中に北朝鮮の司令で暴動を企てるものがいます。その人物は無知を装い収容所の所長の雑用係となっています。ロ・ギスたちのダンスがクリスマスパーティーのアトラクションとして予定されているのですが、その際にロ・ギスに所長殺害を命令します。

いつでも殺害できるくらい近くにいるんだから自分でやればというツッコミはなしです(笑)。

ロ・ギスは北朝鮮の人民軍兵士ですので命令に逆らうことはできません。しかし、次第にタップダンスに夢中になっていきます。タップダンスはジャズと同じく黒人の音楽から生まれたものです。ロ・ギスが心躍るジャズのリズムやタップダンスに魅了されていきます。

ロ・ギスは自らが属する社会的しがらみと心と身体が求める自由の間で揺れ動きます。

そしてクリスマスパーティー、残念ながらハッピーエンドということにはなりません。ある意味、結末は絶望的です。

ベニー・グッドマンの「Sing Sing Sing」で盛り上がったダンス、ロ・ギスは所長殺害を決心し、行動に移そうとしたその時、いろいろあり、銃撃戦となり、ダンスチームのヤン・パンネ、カン・ビョンサム、シャオパンの三人は重なったままアメリカ兵の銃弾に撃ち抜かれます。そして、ロ・ギスは足を撃たれ、その後死にます。

エンドロールにはビートルズの「Free as a bird」が流れます。

実はこの映画、韓国映画でありながら、主体的な意味での韓国は登場しません。おそらくそれは今の韓国の置かれている立場を反映しているのでしょう。そしてまた、ヤン・パンネが叫ぶ「Fuckin’ ideology!」が今の韓国の多く人々、特に若者の本音ということなんだと思います。

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