タクシードライバー系? カジノもの? いやいやピュア・ラブストーリーでした
いまだに「タクシードライバー」や「ポール・シュレイダー × マーティン・スコセッシ」で売らなくちゃいけないというのはどうなんだろう、などと思いながら見に行きましたら…
いやいや、結構面白かったですし、びっくりしました(笑)。
タクシードライバー? カジノ? えっ?!
ポール・シュレイダーさんの脚本なんですね。やっぱり、うまいです。
タクシードライバー系か…と思わせ、いや、一発逆転のギャンブル系だったか…とひっくり返し、終わってみれば、なんとピュア・ラブストーリーでした(笑)。イルミネーション・パークでのデートシーンにはびっくり、と言いますか、ちょっと気恥ずかしくなりました(笑)。
ウィリアム・テル(オスカー・アイザック)はアメリカ中のカジノを渡り歩いて稼ぐギャンブラーです。でもモットーは少額の賭けでひかえめに勝つことであり、理由は目立ちたくないからです。
その訳は最初からウィリアム自身の独白入りのフラッシュバックで明らかにされています。
ウィリアムは8年間(10年じゃなかったと思う…)軍刑務所に服役しており、その間にカードカウンティングを身に付けたということです。自分自身、刑務所に入っていることに向いていると言い、ひたすらカードテクニックを身に付け、読書をする毎日です。なにせ読んでいる本がマルクス・アウレリウスの「自省録」ですから推して知るべしというところです。
そして、なぜ服役することになったかも早くに明らかにされます。
アブグレイブ刑務所の捕虜虐待事件
イラク戦争の際、イラクのアブグレイド刑務所でのアメリカ兵によるイラク人捕虜虐待が明らかになりましたが、ウィリアムはその加害者のひとりだっという設定です。
映画には当時のラムズフェルド国防長官の実写映像も使われています。ただ、映画はそれ以上この犯罪行為に踏み込んでいるわけではなく、ウィリアムの上官である少佐(ウィレム・デフォー)を悪役にして進みます。
少佐は拷問のプロ(というのも変だが…)であり、ウィリアムはその少佐の命によって拷問の加害者となり、虐待の事実が暴露された写真により特定されて有罪となったということです。ただ、現在のウィリアムは、当時たとえそれが命令であったとしても自分自身の意志で行ったことだと認識しており、それを悔いているわけです。そうした気持ちが目立たないようにとの行動に現れているということです。
そして、あるカジノでセキュリティ関係の展示会が開催されており、ウィリアムはそこで少佐のセミナーが開催されることを知ります。少佐は退役後、セキュリティ関係のコンサル(のようなもの…)として成功しています。
ウィリアムはそのセミナーでカーク(タイ・シェリダン)という青年から話しかけられます。
タクシードライバーか、ギャンブルサスペンスか…
カークはあなたのことは知っている、自分の父も同じように服役し、その後薬物に溺れ、自殺したと語り、少佐への復讐計画を打ち明けます。ウィリアムは、その計画に耳をかすことはありませんが、話の中でカークが大学をやめていることや借金を抱えていること、そして母親とは会っていないことを知ります。
ここで映画は、実はウィリアムが内心では少佐への復讐を考えているのではないかと思わせます。タクシードライバーの再来か(目的はかなり違いますが…)ということです。
ウィリアムは、以前からラ・リンダ(ティファニー・ハディッシュ)と名乗るギャンブル・ブローカーから出資者をつけてポーカーのWSOP(World Series of Poker)大会に出場しないかと誘われています。ウィリアムなら大きく稼げるはずだと踏んでいるということです。
ウィリアムはラ・リンダの提案を受け入れることにします。そして、カークにもそのツアーに同行するよう言います。
この時点で、ウィリアムが考えていることは、WSOPでまとまったお金を稼いでカークを大学に戻し、復讐をあきらめさせることだとわかります。ただ、あるいはその後にひとりで少佐を殺害するつもりがあるのかも知れないと思えます。復讐ではなく、自分がけりをつけたほうがいいと思っているということです。
タクシードライバー路線3割、ギャンブルサスペンス路線7割といった予想で進みます(笑)。
ピュア・ラブストーリーかい…
しばらくはカジノシーンが続きます。ポーカーのシーンも2、3シーンありましたが、あまり緊迫感もなく、このあたりは残念なところです。
WSOPの常勝ギャンブラーとして星条旗柄の服を着た人物がいて、そのサポーターらしき集団がやたら USA! USA! と歓声をあげるのは皮肉だとしてもちょっとばかりセンスがない感じがします。
で、そんなツアーにカークが飽きてきているようです。そりゃそうでしょう。それに考えてみればカークは何を思ってついて来ているんでしょう。断られたもののまだ復讐のチャンスがあると思っているということなんでしょうか。
ウィリアムもそれを察したのか、ある時、カークにちょっと付き合えと言い、自分のモーテルに連れていきます。
ウィリアムはカジノのホテルには泊まりません。安モーテルに入り、まずすべての家具を白布で覆ってしまいます。過剰なものを受け付けないということなんでしょうが、異様ではあっても、こうして映像としてみますとあまりにも整いすぎて陳腐ではあります。
とにかく、ウィリアムはその部屋で尋問口調でカークを脅します。ここにお前と母親の借金を返し大学へ戻るためのお金がある、このお金を持って母親のもとへ行き、少佐への復讐は忘れろ、さもなくばここでお前を拷問する(拷問といったかどうかは記憶はない…)と言います。そしてまた、交換条件として、お前が従うのなら、自分はラ・リンダと寝ると宣言します。
なんのこっちゃという感じですが、一応、ラ・リンダはウィリアムに惹かれているという前ぶりがしてありますし、カークがウィリアムにラ・リンダのことが好きなんだろうというシーンも入れてあります。
で、この前だったか後だったかに、ウィリアムとラ・リンダのデートシーンがあります。WSOPのゲームが終了した後、ラ・リンダがこの後どうするの?と尋ね、いいところがあるのと言って出掛けたところが、なんと! イルミネーション・パークでした。
さらにそこでウィリアムは感動して来てよかったなどと言い、上のシーンの後、カメラは二人が後ろ向きで歩いていく手元のアップとなり、指先がそっとふれあい、そして互いに手を重ね合わせるのです。
その夜(だと思う…)、ウィリアムはラ・リンダのホテルに向かい、二人は結ばれます(ピュアな表現にしておきました…)。ただ、このシーン、ラ・リンダはあまり求めていなかったように感じました。今じゃなく、さっきでしょ、という意味です(笑)。
ロマンチスト、ポール・シュレイダーさん
WSOP決勝です。沢山の参加者がいて、負けたら徐々に抜けていくという流れのようです。そして、残るは USA! とウィリアムともうひとりかふたりいたと思います。何がきっかけだったか記憶していませんが、ウィリアムが突然休憩すると言いテーブルを離れ、控室のようなところでテレビを見ていますと、カークが少佐を襲い、逆に射殺されたというニュースが流れます。
ウィリアムは少佐の家に向かい、一対一の勝負(拷問合戦?)だと言い、二人で別室に入っていきます。互いの悲鳴だけが流れ、やがて血まみれのウィリアムが戻ってきます。
刑務所で読書するウィリアム、自分には刑務所暮らしが似合っていると独白が入ります。刑務官から面会だとの声がかかります。ラ・リンダです。
面会室の真横からカット、中央にガラス、ラ・リンダの手がフレームインして人差し指をガラスにつけます。反対側からウィリアムの手が入り、そこに人差し指を重ね合わせます。そして、その画をバックにエンドロールです。あれ、静止画ではありません。誰の手かはわかりませんが、二人はじっとガラスに手を添えていたということです。
ポール・シュレイダーさんはロマンチストなんですね。