トップガン マーヴェリック

トム・クルーズは映画が映画でなくなった時代の最後の映画スター

ハリウッド超王道! 見事です。2時間10分、あっという間でした。空中シーンでは知らず知らずのうちに拳を握っている自分に気づきます。

懐かしさを感じるのに古くない

見事と書いておきながらなんですが、特にすごいところがあるわけではありません。物語はハリウッドの定形ですし、映像的にもオー!となるようなシーンもありません。でも、見終えると、一本、映画を見たなあと感じます。

親子愛、友情、恋、勇気、挫折と復活、そしてハッピーエンド、過度にやればベタにもなるこれらのドラマパターンを過去のエピソードに絡めてとてもバランスよく盛り込んでいます。

一番の軸となっているドラマは、マーヴェリック(トム・クルーズ)と一作目の「トップガン」で亡くなった親友の息子ルースター(マイルズ・テラー)の確執(ちょっとオーバーだけど)と和解なんですが、これも実にハリウッド的で、絶体絶命的な危機を乗り越えることでいとも簡単に解決してしまいます。クラシカルな手法なんですが古く感じることはありません。アクションシーンがいいせいもありますが、間合いやテンポで古さを感じさせません。二人を擬似的な父と息子の関係で描くなんていかにも古いんですけどね。

この映画は、そうしたハリウッド映画の王道を守りつつ、アクションシーンの編集技術とドラマの間合いのうまさで成立しているということです。それと、当然ながらトム・クルーズさんの魅力に負うところが大きいとは思います。

トム・クルーズという映画スター

トム・クルーズさんの出演映画は、2000年以降は「オール・ユー・ニード・イズ・キル」しか見ていませんので、せいぜいテレビで見る来日の折のフレンドリーなファンサービスぶりから受ける印象ですが、トム・クルーズという俳優は映画が映画でなくなった時代の映画スターなのかもしれません。

言い換えれば最後の映画スターとも言えますが、今や映画も数あるコンテンツの中のひとつという時代ですので、いわゆる銀幕のスターなんていう存在は過去のものであり、クルーズさんのように、日常性を感じさせながらもなおかつ特別な映画俳優という存在であり続けるのは、21世紀の今では稀有な存在ということです。

一作目の「トップガン」の公開が1986年、35年(36年?)前ですから、その続編というにはあまりにも長い年月ではありますが、まったく違和感なく、マーヴェリックというキャラクターとして存在しています。

シナリオもうまく出来ています。オープニングの Danger Zone に乗せた空母での離着陸シーンは名シーンでしょう。その再現を新アレンジの Danger Zone でやっています。そして、マーヴェリックのバイクシーン、マッハ10超えの飛行、35年を経てもなお現役のアクションスター、トム・クルーズさんです。

ただ、いくら何でもそのままいけば陳腐にもなるところをとてもうまくトップガンの教官の立場として時の流れを示しつつ、やはりここぞというところでは見せ場を作りつつ、でも最後には現役のパイロットたちとのバランスを考えてうまく収めています。アクションシーンと言いながらも、戦闘機の操縦中は顔だけの演技であることも収まりのいい結果を生んでいると思います。

飛行シーンの映像などはおそらく様々な最新技術が使われているのでしょうが、ことさらそれを押し出すことなく、流れとしてはオーソドックスな空中の戦闘シーンとしていることもよい結果を生んでいると思います。編集技術がとにかく素晴らしいです。

しかし、これはやってはいけない戦争行為

と、映画としては見事とはいっても、この映画のアメリカがやっていることは明らかな戦争行為です。

マーヴェリックたちトップガンのパイロットたちが担う作戦は、仮想敵国(中国の戦闘能力を持った北朝鮮のイメージ)がすすめている核実験の前段階(ウラン濃縮?)施設を攻撃して破壊するというものです。

その施設は峡谷地域の地下にあるために、4機で出撃して敵のレーダーに補足されないように峡谷を地上スレスレに飛び、最初の2機が地上からその施設に穴を開け、その後後続の2機がその穴から攻撃して爆破するというものです。

冒頭に、知らず知らずのうちに拳を握っていると書いたように物語としては面白いですし、様々な飛行技術、それもおそらくまず不可能と思われる飛行が割と現実感をともなって展開されています。

でも、この映画のアメリカはやってはいけないことをやっています。

そんな野暮なことをいう映画ではないと思ったりもしますが、これが今自民党や維新がしきりに言い始めている敵基地攻撃能力(と同等)ってやつです。これをやったら、今のロシアと同じことになります。侵略者ということです。敵基地攻撃能力とはそういうことです。

この点においてこの映画をどうこういうつもりもありません(言っているけど)が、少なくともやっていることは戦争なんだということは忘れてはいけません。