鵞鳥湖の夜は…いまだ明けず。
なんなんでしょう…、まったく心が騒がない(動かない)映画ですね。
動かないのは見ている方が悪い? いやいや、そうでもないでしょう、テレビのサスペンス劇場でも(見ていませんが)もう少し、この先どうなるんだろう? とか、誰が犯人なんだろう? くらいには心は動きます。
2014年のベルリン映画祭で金熊賞を受賞したディアオ・イーナン監督の受賞後の一作目です。
実は、その受賞作品「薄氷の殺人」でもボロクソに書いています。というよりも騙されたとか怒って何も大したことは書いていません(笑)。
その記事を読みながらあらためて思い返してみますと、とにかく、ん? ん? と首をひねる箇所が多すぎるということだったと思います。
この映画も首をひねる箇所が多いですね。
まず全体の構成は公式サイトのストーリーによれば、2012年7月17日から18日、19日と3日間の話となっており、19日を現在として過去2日間をフラッシュバックするという構成になっています。
プロットを公式サイトのストーリーと記憶をもとに整理しますと、まず舞台は中国南部の都市で、大規模なバイクの窃盗団があり、その内部ではチョウグループと猫目猫耳グループが反目しあっています。
17日の夜、チョウの手下が猫耳に発砲し怪我をさせます。その場をおさめるために両グループでバイクの窃盗競争をやることになりますが、その過程で抗争が激しくなり、チョウが誤って警官を撃ち殺してしまいます。
18日、警察はチョウに30万元(当時400万円くらい)の報奨金をかけます。この報奨金は猫目猫耳グループにとっても魅力的で警察と入り乱れてチョウを追うことになります。
一方、鵞鳥湖湖畔の水浴嬢と呼ばれる売春組織の元締めホアは、チョウ(の手下から?)から(何年も会っていない)妻と会わせてほしいとの依頼をうけ、水浴嬢のアイアイを妻のもとにやります。
チョウが妻と会いたい理由は妻に自分の居場所を通報させ報奨金を妻に贈るためです。
アイアイと妻は鵞鳥湖の某所でチョウと会う手はずでしたが、警察に踏み込まれます。実は妻が警察に通報していたからです(だったと思う)。
19日夜、チョウが妻と会う指定の場所に行きますと妻ではなくアイアイがいます。アイアイはチョウを妻のもとに連れて行こうとしますが、警察と窃盗団が入り乱れた追跡劇となり、ついにチョウは警察に射殺されます。アイアイがチョウを売ったのです。
後日、アイアイは報奨金を受け取り足早に歩いていきます。街角に女が待っています。チョウの妻です。二人は肩を寄せ合い時に笑みをもらしながら歩いていきます。
と、結構面白くなりそうな話なんですが、見ていてもあっちこっちで、ん? ん? とよくつまずきます。
まず映画は、19日の夜、あれは駅近くの高架下でしょうか、チョウが橋脚に隠れて誰かを待っているシーンから始まり、そこにアイアイが現れ、妻の代わりに来た(みたいなこと)と言い、あんた本当にチョウさん? と尋ねますと、チョウはいきなり2日前のバイク窃盗団の争いを話し始め回想となります。
オイ、オイ、学芸会じゃないんだから(ペコリ)そんな昔々…みたいな入り方はないでしょう。逆でしょう、お前こそ誰だ? でしょう。
ノワールものは相手を疑いながらもそんな素振りは露ほども見せずにある時突然裏をかいたり、敵か味方かわからないからこその緊張感を利用してピーンと張り詰めたシーンをつくっていかなければ映画になりません。
導入からこんな感じで映画が説明的です。
それに画に奥行きがないですね。冒頭のチョウとアイアイのシーンも、その後の窃盗団の抗争シーンも夜なのになぜかとてもクリアです。ライティングやカメラの選択ですから当然この画を良しとしてやっていることでしょうが、この点では「薄氷の殺人」の方が正解です。あちらは内容はともかくも画はノワールものとして成立していました。
この映画では、このシーンはこういう風に見せたいという意図で撮られたと思われるシーンがかなり多く感じられます。なかなか思い出せませんが、室内でスクリーン越しのシルエットで人の動きを見せるカットに…ああ思い出せない…、いくつかそう感じたシーン、あるいはカットがあったのですが思い出せません。思い出せずに言うのもなんですがどれも既視感のある画ではありました。
時間軸がかなりいい加減です。というよりも編集でしょうか、たとえば、チョウとアイアイは19日の夜に初めて会い、いきないチョウの回想に入りますが、その回想がどこまでとは判然としないまま現在に戻り、その後チョウの回想シーンというわけでもないのに過去のシーンが挿入されたり、チョウとアイアイは一度駅構内のセキュリティーを通り食堂に入りますが、その食堂のシーンの間に(多分)現在の他のシーンが挿入されたりします。
そもそも19日の夜が一体何時から始まっているのかがかなり曖昧ということが問題で、屋外は無人なのに室内でなにかの集会をやっていたり、別の場所では(ジンギスカン?)で踊っていたり、チョウとアイアイが船で鵞鳥湖に漕ぎ出てみたりとわけがわかりません。
そうしたシーンのつなぎで頻繁に首をひねることになる映画です。
それでも他になにか映画に集中させ引っ張っていく要素があればそれはそれでいいのですが、特にありません。
チョウをやっているフー・ゴーさん、アイアイをやっているグイ・ルンメイさん、おそらく演出だと思いますが、ともに感情表現を極度に押さえた演技をしています。それがあまり成功していません。結果としてふたりともノワールものとして魅力的ではありません。
俳優としてはどちらも日常もの向きの俳優さんです。
音楽もよくないです。打楽器のようでもありノイズのようでもある音楽がやたら入りますが、気を削ぐだけです。その音楽のイメージを俳優の演技と画の質感と内容で描くのがノワールものであり映画です。
ラストのオチももったいないですね。アイアイとチョウの妻、二人の女性がチョウも含めたしょうもない男たちを出し抜いて報奨金を手に入れるという話なのに、それを効果的に見せられていません。うまく描けばジャック・オーディアール監督の「預言者」のようなカタルシスを感じられるエンディングになったのにと残念ですね。
ということで、残念ながら見るものの感情も、そして思考も刺激することのない映画に終わっています。シナリオを誰かに依頼するか、他の眼を入れて共同にすべきでしょう。