わたしはロランス/グザヴィエ・ドラン監督

フレッドのスザンヌ・クレマン、可愛いですし、無神経なおばさんにキレるシーンは最高です

絶賛はしませんが、とても良い、そしてまたいろいろ興味深い映画でした。レストランでのランチのシーン、ロランス(メルヴィル・プポー)への無神経なウェイトレスのおしゃべりにフレッド(スザンヌ・クレマン)が啖呵を切るシーンでは、涙がこぼれるほど感動します。


映画『わたしはロランス』予告編

グザヴィエ・ドラン監督、24歳、いろいろなものを見て、聴いて育った世代なんだなあと感じます。映画だけではなく、あらゆるビジュアル的なものをという意味ですが、その意味で、それぞれのシーンの構図や色彩感や音楽に相当こだわって撮っているようです。

公式サイトのギャラリーを見るだけでもその一端は感じられると思いますが、印象的なシーンはいっぱいあります。宣伝用によく使われているカットですが、ロランスがフレッドにカミングアウトするシーン、2人が再会(再再会?)し雪の田舎町を歩いているところにカラフルな衣服が降ってくるシーン、ファーストカットの揺れるカーテンのシーンなどなど、これ以外の構図はない(もちろんドラン監督にとって)という感じで撮っています。

私が好きなのは、上の予告編の43秒あたり、フレッドが浮気をし、それに対してロランスが「君の欲しいものは一体何だ?」と離れかけているフレッドの気持ちを引き戻そうと懸命になるシーンの構図ですが、ややシルエット気味に2人が向かい合い、その向こうには大きなガラス窓、そして中央にアールヌーヴォー系(違うかも?)の図柄、その構図は基本シンメトリーですが、そこに背景としてひとり女性を置いているところが何とも言えずいいです。こういった基本シンメトリーを少し壊した構図が非常に多いです。多分、それがグザヴィエ・ドラン監督の美意識の基本ではないかと思います。

画面サイズも、最近の劇場映画では非常に珍しい 4:3、フィルムでいえばスタンダードサイズを使っています。それを一番美しく感じるのか、何かこだわりがあってのことでしょう。

いろいろな音楽が使われています。サティからヴィサージやデペッシュ・モードまで、その多くは80年代の曲ですから、リアルタイムで聴いたインパクトのようなものがあっての使用ではなく、物語の時代背景を考えてのことでしょう。つまり、このシーンには何が最適かと選曲したということだと思います。あるいは、先に音楽があって、その音楽に合った映像を撮ったのかも知れません。

カメラワークも、クローズアップを多用したシーン、移動カメラのシーン、固定カメラで絵画的に撮ったシーンと、かなり特徴的にそれぞれのシーンで使い分けているようです。

といったことが、何を示しているのでしょう。

非常に器用で多才なのは間違いありません。ただ、私はそこにオリジナリティをあまり感じませんでした。それぞれのシーンはとても美しいですし、絵画的な完璧さを持ったカットも数多くあります。しかし、それはファッション雑誌を見て「おお、カッコいいなあ」と思ったり、ミュージックビデオに引きつけられる数分間の集中に似ています。

ドラマとしては、2時間50分、やや冗長です。決して飽きるわけではありませんが、ロランスとフレッドのラブストーリーがとても良いだけに、その一点に焦点を絞った2時間弱程度のヴァージョンもありのような気がします。

ロランスのメルヴィル・プポーも良かったですが、フレッドのスザンヌ・クレマン、可愛いですし、冒頭に書いたレストランで無神経なおばさんにキレるシーンはもう一度みたいです。この俳優さん、日本で公開されたものはないようですね。誰かに似ているような気がするのですが、思い出せません…。

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