エルヴィス、我が心の歌/アルマンド・ポー監督

トリビュートアクターのカルロス(エルヴィス)さん、充実した人生だったと思いますよ

アルマンド・ポー監督というのは、「BIUTIFUL ビューティフル」「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督とともに共同脚本にクレジットされている方です。ただ、どちらも3人、または4人の共同監督のひとりです。

もともと CM 畑の人らしく、CM ディレクターとしてたくさん賞を受賞していると公式サイトにあります。

この映画では、「監督・脚本・編集・制作」となっていますので、これがやりたかったことだ!ということでしょう。

金型工場で働きながら、夜はエルヴィス・プレスリーのトリビュート・アーティストとしてステージに立つカルロス。娘にエルヴィスの娘と同じリサ・マリーと名付ける徹底ぶりに、かつて愛したはずの妻は娘を連れて別居してしまう。そんな中、予期せぬ出来事から娘の面倒を見ることになるのだが、彼には絶対に叶えなくてはならない夢があった。やがて妻と最愛の娘を残し、聖地<グレイスランド>へと向かうのであった―(公式サイト

著名なアーティストやバンドをリスペクトして、その曲や歌を演奏、パフォーマンスすることを「トリビュートアクト」というらしく、いわゆるコピーバンド的ではあるのですが、この映画を見ていても、若干印象が違っていて、もう少しアーティストして独立している感じです。もちろん日本の「モノマネ」とは別物でしょう。

この映画の、カルロス(ジョン・マキナニー)は、エルヴィスのトリビュートアクターで、昼間は工場、公式サイトには精密金型工場とありますが、映画の中で上司から、「1日かかって電子レンジ1個か!?」と罵倒されるシーンがありますので、日本にいう金型とはちょっと違いますが、まあとにかく工場で働き、夜はクラブやカジノで、エルヴィスのトリビュートアクトとして歌っているわけです。

冒頭のシーンは、そのパフォーマンスシーンを、カメラが、クラブの1階から階段をなめるように上がり2階の歌うカルロスをとらえるシーンをワンカットで撮っています。

結構こだわって撮っていていい感じだなあと見ていましたら、その歌のシーンが妙に短くカットされ、続く2,3シーンも、どんなシーンだったかは忘れましたが、なんだか妙に中途半端に編集されて、とても消化不良の出だしでした。

それに、エルヴィス・プレスリー自体をよく知らず、せいぜい「ハウンド・ドッグ」くらいしか耳に残っておらず、映画の中でカルロスの声がエルヴィスにそっくりだと言われていることも、そうなのかなあ?と、何となくモヤモヤとした感じがつきまとい、何ともハジケない映画だなあと、しばらくは眠気と闘いながらの鑑賞でした。

ただ、見ていくうちに、何だかはっきりしない映画だなあと思いつつも、冒頭からベースに流れている不穏なといいますか、何かありそうといいますか、やや暗めなトーンが気になりだし、あるいは?と思い始めましたら、やっぱり最後はあるいはでした(笑)。

カルロスを演っているジョン・マキナニーさんは、建築家であり、大学で教えながら、実際にエルヴィスのトリビュートバンドを組んでいるそうです。映画の印象がはっきりしないのは、ジョン・マキナニーさんの映画初出演(多分)ということがあるのかもしれません。

ですから、映画としては、こうしたいわゆる映画っぽいつくりではなく、もう少し違った迫り方、たとえばドキュメンタリーっぽい作りにするとか、他の手法のほうが、ジョン・マキナニーさんも、この映画の主題も活きたような気がします。

ややテーマと主題と俳優がうまく噛み合わなかった印象の映画です。

ただ、アルゼンチンの映画って、こういうどこか不思議な空気感を持った映画が多いような気がします。そこらあたり、あまり日本に入ってこないのが残念ではあります。この映画も2011年のコピーライトとなっていました。