つかのまの愛人

監督は娘のエステール・ガレルが撮りたかったんじゃなかろうか…。

こんな感情をあらわにする人間、特に女性を撮る監督でしたっけ? というのが、見始めてすぐ思ったこと。時々説明的に入る感傷的なピアノ曲やナレーションにもちょっと違和感…。

でもまあ見終えてみれば、そこに、その感情の発露である「熱さ」があるわけでもないので、やっぱりいつものフィリップ・ガレル監督でした。

公式サイト / 監督:フィリップ・ガレル

それに、一人目の女性アリアーヌ(ルイーズ・シュヴィヨット)のシーンは、感情というよりもセックスの喘ぎですし、二人目の女性ジャンヌ(エステール・ガレル)は泣き崩れてはいますが、どこか現実感の伴わないウソ泣きのようでもありました。

 公式サイトには、

本作は、ガレル監督の最新作にして、『ジェラシー』(2013)『パリ、恋人たちの影』(2015)に続く新たな愛の三部作完結編とも言える作品。

と前二作との三部作のように書かれており、この映画がどういう意味で完結しているのかはわかりませんが、一貫してやっていることは、物語自体は男女の愛憎、描き方はシンプル、というよりも現象だけ切り取ったような感じ、その現象の発露となる感情的なものは追おうとはしない、それにみな白黒映像でした。

ジル(エリック・カラヴァカ)は大学の哲学の教授、教え子のアリアーヌと一緒に暮らしています。ただ、アリアーヌが語るには、自分から積極的にジルに迫ったらしく、最初ジルにはその気はなかったようなことを言っていましたので、つい最近の関係なんでしょう。

映画は、二人が学内で示し合わせ、あれは講義の前なのか、後なのか、どっちだったんでしょう? とにかく、階段で待ち合わせて、待ちきれないようにキスをし、教員用トイレに移動、そしていきなりセックスです。で、アリアーヌの喘ぎ声となるのですが、多分こういうシーンはこの監督には珍しいんじゃないかと思いますので、かなり意識された始め方なんでしょう。

そして、もうひとりの女性ジャンヌはジルの娘で、恋人と一緒に暮らしていたのですが、本人曰く、突然出て行けと言われたらしく、先に書いた泣き崩れるワンシーンがあり、ジルのもとに転がり込んできます。

で、フランスですから(かどうかは知らない(笑))、皆悪びれることなどなく三人の同居生活が始まります。ひとつだけ、へぇ、フィリップ・ガレル監督って、こんなシーンを入れるんだって驚いたところがあります。

アリアーヌとジャンヌがいます。ジルが帰ってきます。ジルは、娘のジャンヌに先にキスをして、言い訳がましく「娘が先だ」と言いながらアリアーヌにキスをしようとします。しかし、アリアーヌはむっとして寝室へ入ってしまいます。

このシーンだけでも、え?と思ったのですが、さらに、その後、ジルが寝室へ行き、背を向けてベッドに横になっているアリアーヌに、食事しないかと声を掛けるも、アリアーヌは拒否するのです。

そこに、嫉妬やらちょっとした怒りやら、一方のジルの当惑やらが描かれているかどうかは微妙ですが、とにかく、私の見ているフィリップ・ガレル監督の映画ではこんな描き方見たことありません。

とにかく、いつものフィリップ・ガレル監督だけれども、何かが違うという感じがする映画です。

物語としては、アリアーヌ中心に進みます。本人が体が求めるのと言っていたような気がしますが、別の男とを関係を持つことで物語が展開していきます。

まず一人は、ジルのゼミの学生でしょうか、懇親会みたいな場でアリアーヌに誘いをかけます。アリアーヌはその気はないと突っぱねますが、後日、アリアーヌからその男に近づき、関係を持ちます。

このシーンの描写も、場所は男の部屋なんですが、(記憶違いでなければ)言葉をかわすカットもなく、キスするカットもなく、最初のジルとのシーンと同じ立ったままのセックスシーンで、ただひたすらアリアーヌの喘ぎ顔を撮っていました。

この浮気(といっていいのかどうかも?)はジルの知るところとなりますが、何となくうやむやで終わっていました。そもそも、この映画、男の存在感は薄いです。

そして二人目です。ここにジャンヌが絡んできます。

ジャンヌはかなり自意識過剰な女性として描かれており、そもそも本当に恋人に出て行けと言われたのかどうかも怪しく、その恋人によれば、以前そう言ったことはあるが、今回出ていったのはジャンヌ自らだと言っていました。

で、このジャンヌの演技が実に奇妙で、最初に「ウソ泣きのような」と書きましたが、演技の自然さという意味でみれば実に下手くそなんです。エステール・ガレルの名前の通り監督の娘で、この映画がデビューというわけでもなく、私も「君の名前で僕を呼んで」で見ていますが、この映画のような違和感を感じたこともありませんので、何か意図的にやらせているのだと思います。

ジャンヌは自殺未遂騒ぎを起こします。といっても知っているのはアリアーヌだけ、いきなり窓から飛び降りようとするカットから入っていましたのでどうだかはわかりませんが、あれは狂言でしょう。

という感じで、ジャンヌは父には言わないでなどと、アリアーヌと秘密を共有するような関係に自ら持ち込んだようなところもあり、比較的二人の会話シーンは多めだったように思います。

その二人の会話から、男性との付き合い方であるとか、浮気はしたことはあるのみたいなそんな内容だったと思いますが、ジャンヌが知り合いの男性の話をします。

その後、ジャンヌがアリアーヌと食事する際に、たまたま(を装って)その男性と出会い、三人で一緒に食事をする(学食?)ことになります。

後日、大学です。ジルが同僚と立ち話をしています。ジルがトイレへ行ってくると言って学内へ入っていきますと、(おそらく最初のシーンの)階段の影でアリアーヌとジャンヌが紹介したその男が、例によって立ったままセックスをしているのです。同じような喘ぎ声を上げています。

この書き方ですと、映画に女性への悪意があるのではと取られそうですが、フィリップ・ガレル監督ですから、そのようにはまったく見えません。そもそも、なぜアリアーヌがそうした行動を取るのかなどの意味については、映画は何も語ってはいません。ただそうした現象(ちょっと言葉が変)、人間の行為そのものかな、そうしたものを見せているだけです。

で、ジルはどうしたかと言いますと、別れます。

と言っても、その後アリアーヌは出てこなかったと思いますし、修羅場があるわけでもなく、ナレーションだったと思いますが、別れましたと語られるだけです(笑)。

ジャンヌがどうなったかと言いますと、元の鞘に戻り、恋人と一緒に暮らしています。

確かに、奇妙ではありますが三角関係の映画ということになり、ジャンヌの希望が叶ったということになるのでしょう(笑)。

ということで、この映画、三部作の完結編とか、そういうことがあるのかどうか、少なくとも私にはよくわからなく、結局、フィリップ・ガレル監督は娘のエステール・ガレルの映画を撮りたかったのではないかと思います。あるいは、自分自身の父娘関係を、かもしれません。

それにしても、エステール・ガレル、お兄さんのルイ・ガレルにそっくり、まあふたりとも父親にそっくりなのかもしれませんが、特に、目なんて、ルイ・ガレルそのものです。

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