残されたもの 北の極地

マッツ・ミケルセンを生かせず単調に終わる

これはそもそもの企画が無理なんじゃないでしょうか。

登場人物は実質的にひとりです。北極圏のどこかに小型飛行機で不時着した男が救助を求めるが救助のヘリも強風で墜落、やむなく生存者の女性パイロットを連れて自力での生還を試みるという物語で、その女性は負傷して最後まで意識は朦朧で会話はできず、ただただ最後まで男のハアハアという息切れ音を聞くという映画です。

残された者 北の極地

残された者 北の極地 / 監督:ジョー・ペナ

ちょっと嫌味な概略になりましたが、映画の方向性がはっきりせず単調です。障害が次から次へと押し寄せる中の生還劇のようなドラマチックなものにするのか、孤独な中の人間性を描くようなテーマ性の強いものにするのか、どちらつかずになっています。

ただ、中盤まではなんとか持ちます。その理由はマッツ・ミケルセンさんですね。こういう役にぴったりです。最初のアップのカットなど本当に遭難者の顔でした。

映画は男がすでに遭難しているところから始まります。不時着した小型機をねぐらにしてサバイバル状態、雪原を掘って地肌の色で「SOS」と救助を求め、近くの氷に穴をあけ魚釣り(ワカサギ釣りの要領)の仕掛けを施し、無線機で救助信号を送って救助を待っています。

時折ピーピーとアラーム音がなりますので、それらの作業をルーティンワークとしてこなすことで不安と孤独に耐えているということかと思います。

そうしたルーティンワークや保存された魚の量からしますと遭難してそこそこ時は経過しているのではないかと思いますが、その割には「SOS」がやっと完成しましたという画になっていました。それに周りは岩場なのに魚を釣るあそこは海? 湖? ちょっと不思議でした。救助信号を出す作業もなぜあんな離れたところでやっていたんでしょう? 小石を十個程度積んだ小山の意味もよくわかりません。

ヘリコプターの音がします。必死に叫ぶ男、しかし辺りは吹雪です。墜落します。助けに駆け寄りますとすでに男は死んでいます。女の方は息がありますが大怪我で昏睡状態です。男は小型機の中に運び込み手当をし、かすかに意識を取り戻した女に話しかけますが言葉が通じません。

「わたしは…」って言っていました? その後は「パイロット」でしたね。それにあのヘリには日本、韓国、タイ、あと2カ国くらいの国旗が描かれていました。どういう設定なんでしょう? 女の持っていた身分証明書は多分タイ語ですね。「サワディカ」だったのかな?

とにかく、その女はそれ以降ほぼ昏睡状態のまま何も喋りません。

男は意を決して、女を連れて自力で生還しようと試みます。ヘリで見つけた地図で現在地を確かめ、人のいそうな観測所?を目指します。

ここまで映画の1/3くらいでしょうか、あとはただただそりに乗せた女を引いて目的地を目指すだけですが、映画ですから当然いくつかの障害が待っています。

とてもそりを引いては登れない崖に阻まれ幾度も挑戦するが失敗、やむなく遠回りを選択するも途中ビバークのために入った穴蔵でホッキョクグマに襲われたり、当然常時凍傷に悩まされ、飲み水は底をつき雪でしのいだり、持ってきたガスコンロの燃料が切れたりします。

男は女を見捨てることにします。

こういうところの描き方が下手です。しばらくは見捨てたようには見えず女が死んだのかと思いました。男の葛藤もはっきりしません。

見捨てて歩き始めた直後、男は穴(なのか何なのかよくわからない)に落ち、気を失ってしまいます。再び目覚めますと足が岩の隙間に挟まっています。無理やり引き抜きます。

それはどうよ? と思いますが、負傷しながらも女のところに戻った男はすまない、すまないと女に(というよりも自分に)あやまり、そりの重量を減らすためにあらゆるもの(ロープやらピッケルやらの道具)を捨て足を引きずりながら再び歩き始めます。

ここらあたりになりますと、そんなことをしたら生きるために歩いているのではなく死ぬための行動じゃないのと思いますが、映画はそのようには見えません。つまり、結末として助かることが決まっているのでそんなことが成立するというようにしか見えないということです。

結局助かります。男は遠くにヘリを見つけ、発煙筒をたき必死に叫びますがヘリは飛び立ってしまいます。 男は絶望し女の手を取り静かに雪の上に横たわります。眠ったように見える男の背後にヘリが着陸します。

この結末はどっちつかず映画の象徴でしょう。ドラマチックにするのなら生還の感動を描けばいいですし、そうでないのなら眠ったように見える男のシーンで終えればいいと思います。

マッツ・ミケルセンさんの演技でみせるにしてももう少しつくり手の工夫がいるでしょう。

偽りなき者(字幕版)

偽りなき者(字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video