テンポのいいアクションものなのに爽快感なきハチャメチャ感がいい…
「ブラック・スワン」「ザ・ホエール」のダーレン・アロノフスキー監督のクライムアクションものです。他にどんな映画を撮っているのか知らない上での話ですが、いろんなジャンルの映画を撮る監督ですね。

ネタバレあらすじ
この映画、ハチャメチャな映画だとなにかで読んだ記憶があり、こりゃ見なくっちゃとなった映画です。今見てみますと、映画.com じゃないみたいですので公式サイトかなとイントロダクションを読んでもなにか違う感じが…いや、これですね。「ハンク」を「パンク」と読んだかもしれません(笑)。
多分、ちゃんと読まずにサイト全体のビジュアルなんかも含めて「ハチャメチャ」という言葉が浮かんだんだと思います。
でも、当たらずとも遠からずでした。思っていたようなハチャメチャではありませんが、人の殺し方がハチャメチャでした。
面白かったです。
原作があります。
コート・スティーリング
「コート・スティーリング(Caught Stealing)」というのは野球用語で「盗塁失敗」のことだそうです。主人公のハンク(オースティン・バトラー)が高校時代にはドラフトにかかるほどの野球選手だったにもかかわらずあることで夢破れたことと、バーテンダーをやっている現在のハンクが犯罪に巻き込まれてドツボにハマりまくることからのタイトルです。さらに「Caught Stealing」を直訳しますと「盗みで捕まった」となります。
1998年、ニューヨークのロウアー・イースト・サイド(LES)が舞台です。この地域は1990年代の前半までは麻薬取引が横行しホームレスも多く非常に治安の悪かったのが後半になりますと徐々によくなり始めた時期だそうです。
映画の中でも町が変わっていくみたいは台詞がありましたが、ドラマのそもそもの発端が麻薬取引の大金絡みですし、ハンクのアパートメントの前にはいつもホームレスがいますし、登場するのはロシア系ギャングにユダヤ人の無法兄弟、それに麻薬捜査官までがギャングの仲間という話です。
ハンクは LES でバーテンダーとして働いています。アルコール依存気味(理由は後で…)ですが、毎日母親に電話することだけは忘れません。合言葉は「Go Giants」、サンフランシスコ・ジャイアンツの話をするのが日課です。ハンクはイヴォンヌ(ゾーイ・クラヴィッツ)と付き合っています。
ある日、隣の部屋のラス(マット・スミス)が猫を預かってくれと置いていきます。これがトラブルのもとで、その後ハンクはわけも分からず、ラスを探しに来たロシア系ギャングに襲われて腎臓破裂で気を失ったまま緊急手術を受けるはめに陥ります。
死亡の可能性もあるような展開で大丈夫かと思いますが、そんな細かいこと(笑)を気にするような映画ではありません。次のカットでは病院のベッドで目覚め、看病のイヴォンヌが2日間眠っていた、腎臓を取ったと教えてくれ、確かに脇腹を見れば大きな切除痕が縫い合わされており、それでも働かなくっちゃと起き上がろうとするという映画です。
こんな感じでテンポよく進みますので細かいことは気にせず楽しみましょう(笑)。
ただ、すっきりしたり爽快感を感じることはありません。ハンクはほぼ最後までやられっぱなしですし、その間に悲しいこともおきますし、最後に仕返しはするもののハッピーエンドというわけではありません。
ダーレン・アロノフスキー監督らしいクライムアクションものということです。
爽快感なきハチャメチャ感
事情聴取にやってきた麻薬捜査官のローマン(エリース・ローマン)が事の経緯を教えてくれます。
ラスはユダヤ人の無法兄弟がやっている麻薬取引に絡んでおり、ロシア系ギャングとの間のいざこざで大金を持ち逃げしたということです。
と言っていたように思いますが、この映画そうしたことはあまり重要ではなく、早い話麻薬取引にはお金が絡みますし、そのお金を巡る争いだという漠然としたことだけで充分というスタンスだと思います。それよりも映画の展開のテンポとハンクを追い詰めていくことで作られている映画です。
ハンクはラスが置いていった猫トイレの中に鍵を見つけます。この後はロシア系ギャングとユダヤ人兄弟の間でこの鍵の争奪戦が始まります。ただ、ハンクは鍵に執着することもなく、その夜酔っ払ってしまい、鍵をどうしたかを忘れてしまいます。
イヴォンヌが殺されます。そのシーンはなく、ハンクがもしやと思いイヴォンヌのアパートメントに行ってみますとすでに殺されています。
イヴォンヌは本当にハンクを愛している感じがよく出ており、えー、なんで? こんな映画ないよとちょっとショックでした。演じているゾーイ・クラヴィツさんもいい感じだったんですけどね。レニー・クラヴィッツさんの娘さんです。
こういうところがありますのでアクションものの爽快感はない映画です。麻薬捜査官のローマンがロシア系ギャングの仲間であることもなんとなくわかったのか、本人が明かしていたのか忘れましたが、特別大事と描かれず進みます。
その後はハンクが鍵を預けたというバーのオーナーがあっけなく殺されたり、ギャングの男が殺されたり、なんだかよくわからないままに人が死んでいきます。
さらにその後、ラスが戻り、鍵はトランクルームのものでそこに大金を隠していることを明かします。400万ドル、今のレートでは6億円強です。
そのラスも死に(こういうところもちょっと変わっている…)、ハンクがローマンに母親殺害をほのめかされて脅かされ、ついにハンクは自ら行動する選択をします。ローマンに鍵を持っていくと告げた後、抗争相手のユダヤ人無法兄弟にローマンを殺してくれたら鍵を渡すと申し出ます。
癒えないトラウマ
もう何の制限もありません。ハチャメチャです(笑)。
ローマンとの約束のクラブ、ユダヤ人兄弟はハンクを車に拘束したままマシンガンを手にクラブに入っていきます。路上の人にいきなりぶっ放し、クラブに入るやあたりかまわず連射します。
ハンクは逃げ出すローマンを目撃し、自ら拘束を解いて後を追います。クラブでは爆発が起きています。追いついたハンクとローマンの争い、そこにユダヤ人無法兄弟がやってきてローマン死亡です。あっけないです。
ハンクとユダヤ人兄弟が車で大金の隠し場所に向かいます。この映画、結構小ネタとしてギャグが使われています。車はユダヤ人兄弟のものですが、安息日云々ということでハンクが運転させられます。その道中、兄弟はハンクに10万ドルやるからその金で逃げろなどと話しています。兄弟のひとりがタバコを吸おうとライターを出します。
そのライターはイヴォンヌのものです。ハンクの目の色が変わります。
実はこの結末は映画中頃で予想できます。ハンクが悪夢を見て目覚めるシーンが2、3回挿入されています。有望な野球選手だった高校時代、友人を乗せて車を運転している時、ハンドル操作を誤って立木に激突、その友人を死なせているのです。それ以来、友人を死なせた罪悪感に苦しんできているのです。もちろん選手生命もそれで終わりです。
アクセルを踏み込むハンク、ガード下の鉄柱に激突します。ユダヤ人無法兄弟がフロントガラスを割って飛び出して死んでいます。
後日、モヒカン刈りにしたハンクが空港のチェックアウトカウンターにいます。ラスのパスポートを使い、変装したハンクです。いくらなんでもそれは無理でしょ、なんですがそういう映画で、そんなこと気にならない映画でもあります。ハンクは大きなバッグを預けています。
ハンクの母親のもとにの大きな荷物が届きます。言わずもがな、あのお金の半分です。
メキシコでしょう。ハンクが海辺で物憂げです。テレビではサンフランシスコ・ジャイアンツのバリー・ボンズが満塁の打席に立っています。プチンとテレビが消えます。
エンドロールでも遊んでいます。
感想、考察:オースティン・バトラーがいい
なんとも言えない後味の悪さ(ではなく、ちょっとよくない程度…)が残る映画です。なんとなくすっきりせず気が沈むという感じです。
ハンクにとってもハッピーエンドではありません。イヴォンヌもいません。この先、母親に会うこともかなわないかもしれません。ハンクただひとり、切なさしかありません。
これがハリウッド系のアメリカ映画であれば、イヴォンヌが死ぬこともなく、ラストはハンクと抱き合ってジ・エンドでしょう。でも、これ、ソニー系のコロンビア・ピクチャーズですからハリウッドなんですけどね。
オースティン・バトラーさんがいいです。
「ザ・バイクライダーズ」でも記憶に残っていますが、この映画でもいいですね。
ダーレン・アロノフスキー監督、過去に見ていいる2作ではあまりいい印象は残っていませんが、この映画はいいです。
クライムアクションものというよりも、ハンクのトラウマものと言ったほうがいいかもしれません。この先もハンクのトラウマは続くだろうという点においてです。