楽隊のうさぎ/鈴木卓爾監督

この映画には、すぐれたドラマが持つ瑞々しく輝くリアルさがありますこういうのも映画の魅力の一面なんでしょう。どこかぎこちなく、ん?と思うところも多いのですが、でも結局、最後まで見られて、何となくいいなあと思ってしまいます。撮れそうで撮れない、なかなかここまでじっくり待てる監督はいないでしょう。


映画『楽隊のうさぎ』予告編-吹奏楽ver.

引っ込み思案(とちょっと違うと思うが…)の奥田克久(川崎航星)が中学生になり、何とはなしに吹奏楽部に入り、定期演奏会で演奏するまでの1年余り(だと思う)が描かれます。

いわゆる青春音楽ものなんですが、エンタテイメント性ほぼゼロのつくりです。もちろん、演奏がうまくいかなかったり、部員がやめたり、克久と幼なじみとのいざこざがあったりと、こうした映画の定番ものはそれなりに盛り込まれていますし、当然ラストは演奏会の成功で終わるのですが、それらをことさらドラマチックに仕立てようなどという意図はまるでないようです。

出演した中学生のほとんどが浜松在住の子供たちで、全員オーディションとあります。だからといって、全員が演技経験がない子供たちというわけではないでしょうが、演技臭さは全くなく、台詞も決められたものがあるのかないのか、あるいは、言い回しを本人たちにまかせたのか、聞き取りにくい反面、リアリティがあります。編集がややぎこちない感じがするのも、プロの俳優がからまない生徒たちの練習シーンなどは、カメラを回し続けて、使えるところをピックアップしたのかも知れません。多分、じっと待ちつつ、何かヒントを与えて、また待つの繰り返しだったんでしょう。

そうした苦労(かどうかは分かりませんが…)の結果、この映画には、ドキュメンタリーのリアルさとはまた違った、すぐれたドラマが持つ、瑞々しく輝くリアルさが生まれたように思います。

ただ、当然ながら気になるところも多いです。時間経過がはっきりしないことや台詞が聞き取りにくいことはまあ置くとしても、「うさぎ」の位置づけがよく分かりませんでした。こんなことを言うと身も蓋もなくなってしまいますが、「うさぎ」がいなくても映画として成立しているように思います。

それに、もう少し演奏を聞きたかったですね。ラストの演奏をのぞいて、途中にも、もう少し聞かせる場面があってもいいように思います。

それともうひとつ、先生役の宮崎将さんは、どういうキャラクターにしていいのか、迷いながらやっている感じがしました。生徒たちとのバランスを考え、あまり強い印象を残さないようにしたのか、特に前半などは、押さえた演技と曖昧さが、かえって何か曰くありげに見えましたがどうなんでしょう?