湯を沸かすほどの熱い愛

号泣必至の家族ファンタジー

夏休みということもあるのでしょう、公開される映画がアニメやら若年層向けの恋愛ものが多く、なかなかそそられるものがありません。

そうした中にもきっといい映画があるのでしょうが、見つけ出すのは難しいですね。

で、DVD を数本借りました。

その1本「湯を沸かすほどの熱い愛」、公開時に見ようかなと思っていた映画ですが見逃しています。

湯を沸かすほどの熱い愛 通常版 [Blu-ray]

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いやあ、泣きましたよ(笑)。

そういう映画だとは思いますが、それにしても盛り沢山ですね。ひとつひとつのエピソードに泣かせどころが散りばめられています。

まずはあらすじを公式サイトから

銭湯「 幸の湯」を営む幸野家。しかし、父が1年前にふらっと 出奔し銭湯は休業状態。母・双葉は、持ち前の明るさと強さで、パートをしながら、娘を育てていた。
そんなある日、突然、「余命わずか」という宣告を受ける。その日から彼女は、「絶対にやっておくべきこと」を決め、実行していく。

  • 家出した夫を連れ帰り家業の銭湯を再開させる
  • 気が優しすぎる娘を独り立ちさせる
  • 娘をある人に会わせる

出奔した父というのは、双葉(宮沢りえ)の夫一浩(オダギリジョー)、そして娘が安澄(杉咲花)です。

引用の2つ目の「娘を独り立ちさせる」を補足しますと、安澄は学校でいじめを受けており、絵の具を浴びせられたり、制服を盗まれたりしています。安澄は学校へ行きたくないといじめに負けそうになりますが、双葉が「逃げちゃダメ、立ち向かわないダメ」と安澄の背中を押し、見事に乗り越えさせます。

いじめの現場を知るわけではありませんのでどうこう言うのもなんですが、こんな双葉みたいな母がいたらいいのにと思いはしますが、おそらくこれはいじめを受けている本人目線の物語ではないでしょうね。

これは批判ではなく、この映画はそういう映画、言ってみれば家族もの、親子ものファンタジーだということです。

一浩を連れ戻すくだりにしても、探偵を雇い居場所を突き止めて訪ねてみれば、一浩は10歳くらいの女の子鮎子と暮らしており、その訳は、10年くらい前一夜限りの関係を持った女に再会し、この子はあなたの子よ、一緒に暮らしてと言われて暮らし始めたが、女はそのまま蒸発してしまったとのことで、双葉は、その子が一浩の子どもであるかどうかなど問題にすることなく家に迎え入れ、差別なく娘のように対します。

この一浩、調子がよく適当で憎めないキャラですが、オダギリジョーにぴったりですね(笑)。そんな夫だからこそ、双葉は余命2,3ヶ月であることを話すことができ、家に連れ戻せたのでしょう。

3つ目の「娘をある人に会わせる」がこの映画一番の泣かせどころとして作られています。

前半に2つの伏線が張ってあります。ひとつは、高足ガニを前にした食卓で、毎年、酒巻君枝という女性が高足ガニを送ってきており、その礼状を必ず安澄が書くことになっていると語られます。そしてもうひとつは、安澄が手話を使えることが(やや唐突には感じられますが)ワンシーン挿入されています。

で、後半、双葉が一浩に「全部話してくるね」と言い残し、安澄、鮎子を連れて沼津まで旅行に出ます。てっきり自分のことを話すのかと思いましたらまったく違っていました。

三人が沼津の食堂で高足ガニを注文します。おそらく夫婦でやっている店だと思いますが、注文を取りに来た女性はろう者です。食べ終わり、先に二人を外へ出した双葉は勘定を終えた後、その女性を平手打ちして出ていきます。

そして、車の中、安澄に今の女性が酒巻君枝さんで、お父さんと結婚してあなたを産んだ人よと話します。

安澄はショックを受け、挨拶してきなさいという双葉に抵抗して動こうとしません。双葉が言います。「あなたには出来る。だってあなたはお母ちゃんの子でしょ」と。

このシーンの宮沢りえと杉咲花はうまいです。それに台詞がいいです。かなり練り込んで余計なものを削ぎ落としており、二人の間合いもあって、多分劇場で見ていたらかなり引き込まれたでしょう。

さらに、その後の車の外から鮎子を撮ったワンカット、よく考えられています。

そして、安澄と君枝のシーン、筆談で尋ねる君枝に安澄は手話で答えます。驚いた君枝が「なぜ手話を?」と尋ねると、安澄は「母からいつかきっと役に立つ時が来るからと言われた」と答えるのです。

まあ号泣ですね(笑)。

全体にですがかなり細かく演出されており、この後のシーンでも、車の中で鮎子に安澄を連れてきてというところがありますが、鮎子が車を出るまでの間とか、車から駆けてゆく鮎子に一度立ち止まらせ振り返らせたりしています。

中野量太監督、脚本も本人のオリジナルのようですし、完璧主義者なんでしょう。

ただ、それゆえに物語としては作り過ぎ感が強く、パズルが最後にピタリを収まってしまうような感覚があり、泣いてはみたものの泣かされた感が強く残る映画ではあります。

また、物語のつじつま合わせ、たとえば、君枝が安澄をおいて一浩の元を去った理由に、(ろう者だから)安澄の泣き声が聞こえなかったことが耐えられなかったからとしているのは、まあ本人の言葉ではなく第三者である双葉の想像の言葉であるとは言え、ちょっとどうなんだろうとは思います。

と言った感じに、その他、旅の途中出会うヒッチハイカー(松坂桃李)と探偵(駿河太郎)にも、それぞれが抱える家族問題のエピソードをまぶしてしまうという徹底さです。

で極めつきが、実は双葉自身も母親を知らずに育っているという、まあこのあたりはこういう映画なんだなと分かってきていますのでさほど抵抗はないのですが、ただ双葉は自分の周りの家族関係は見事にその絡まった糸をほぐして旅立っていくのですが、探偵が見つけてきた自分の母を訪ねてみるも、子どもや孫に囲まれてしあわせ(そう)に暮らすその母からは、「私にはそんな子どもはいない」と突き放されてしまうのです。

ここがこの映画の裏テーマですかね。

で、ラスト、その前に一浩の愛の告白もあるのですがそれは省略して、双葉は苦しみながら旅立ち、残された幸せな人たちは、双葉を燃やした炎で沸かしたお湯に気持ちよさそうに浸かるのです。

そこまでオチをつける?とは思いますが、安心して泣ける家族ものファンタジーでした。

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