仮想空間で繰り広げられる狂気の恋愛ゲーム
愛は狂気だ、って映画です。
ただ、時代の空気からなのか、この手の話をストレートにやるのは憚れるのでしょう、その狂気はギャグで包まれ、オチにしても、迷いなのか、ごまかしなのか、いくつものパターンで終えています。
とは言え、少なくとも、映画や演劇は、まだ狂気を表現できる、また、表現してもいいものだと再認識させてくれている点において評価は高いですしお勧めします。
松居大悟監督のオリジナル脚本とのことですので、本人の恋愛観が出た映画なのかもしれません(笑)。
ある男が、ある時、ある女と出会い、当初いいなあと思う程度であったのが、その時一緒にいたダチの勢いに乗り、その女の生活を盗聴、盗撮、尾行し続け、その間、その女と別れた元カレも巻き込みながら、10年が経るうちに、現実と妄想の境界がなくなり、相思相愛の仲となる夢を見る話です。
ある男は尾崎豊(池松壮亮)、そのダチはブラピ(満島真之介)、元カレは坂本龍馬(大倉孝二)を名乗っています。ある女は姫(キム・コッピ)と呼ばれ、韓国人で、病に伏している母親が日本好きであるため(だったように記憶している)日本に来ています。
つまり、男たちはそれぞれ架空の名を持ち、架空(妄想)の国に生きる騎士となり、女を架空の国の姫と妄想し、日々監視することは姫を守ることだと自らに思い込ませているということです。
10年前、(まだブラピではないが)ブラピが彼女に振られ、(まだ尾崎ではない)尾崎とふたりでカラオケで騒いでいる時、店員の姫と出会います。帰り道、姫が見知らぬ男たちに絡まれているところに出くわし、助けようとしますが、逆にボコボコにやられます。
姫がかたわらのビール瓶を叩き割り男たちに凄みますと、男たちは去っていきます。ブラピは一瞬で恋に落ちます。
この時、姫を見つめる尾崎のカットが入れられています。物語の流れからすれば、恋に落ちたのはブラピですので、おや?と思いましたら、伏線になっていました。
ブラピが、姫のマンションの向かいに建つボロアパートを見つけてきます。姫の監視が始まります。
ある日、おそらく尾行中だと思いますが、姫が、音楽は尾崎豊が好き、見た目はブラピが好き、そして生き方は坂本龍馬が好きというのを聞きつけ、それぞれその名を名乗ることします。
これ、仮想空間へ入るためのアバターですよね。
それに、この3人、多分監督の好きな人物でしょう(笑)。
監視を始めた頃、姫は日本語学校の教師(かな?)とつきあっており、のちにその男を振ります。尾崎とブラピは男を仲間に引き入れますが、当初は抵抗したのでしょう、首に鎖をつけ監禁して坂本龍馬を名乗らせます。
男たちは尾崎やらブラピやらになりきろうとしているわけではありません。実際、映画の中でもそのように振る舞ってはいませんし、その努力もしていません。尾崎を名乗り、ブラピを名乗るのは単に妄想へ入るためのスイッチ、アバターをクリックすれば済むのと同じです。
で、10年後の現在、ボロアパートの壁は姫の隠し撮り写真で埋め尽くされ、スピーカーからは盗聴マイクからの姫の声が流れ、窓はダンボールで覆い隠され、わずかに双眼鏡からの覗き窓があるのみです。
この10年間で姫の身にも変化があります。 ミュージシャンを目指す宗太(高杉真宙)と付き合うようになり、私が働くからあなたは音楽の道を目指してと、これまた監督の望みなのか、あるいは、あえてステレオタイプな設定にしたのか判断が難しい(笑)のですが、誰もが予想する展開通り、宗太は借金を作り、姫はキャバクラから風俗(までいったかな?)へとお決まりのパターンとなります。
尾崎をはじめ3人の男たちは、これら姫のすべてを知っているわけです。
でも、助けに行かなかったということです。行けなかったということです。
姫と宗太のもとに借金取りがやってきます。星野(YOU)と友枝(向井理)です。監視に気づいたふたりがボロアパートにやってきます。
ここまでのところまだ1/3くらいですが、この後、あまり笑えはしませんがギャグあり、ドタバタあり、シリアスありで進み、物語の展開以上にそうした微妙なところが面白い映画ですので、整理して書くのはかなり難しいです。と言うより、整理して書けるほど記憶していません(笑)。
ボロアパートに乗り込んだ星野と友枝は、ややアブナイ系ではあっても常識人ですので、その部屋の様子に、理解不能、何やってんだ?お前ら?集団ストーカーだろ!って感じで、罵倒しながら暴力的です。
(暴力はともかく)このふたりの視点は観客の代理でしょう。
次第に様子がわかってくるにつれ、星野は何かを感じたのでしょう、友枝につぶやきます。
「お前、これほど思われたことはあるか?」
友枝が返します。
「俺はフツウでいいッス」(適当に台詞を作ったけどこんな感じ)
で、姫を守る騎士なら、お前らが借金を払え!などとあり、そこに宗太がやってきてさらに混乱、そのうち、姫がいなくなったことがわかり、輪をかけて混乱していきます。
3人に変化が起きます。
龍馬が姫を助けようと仮想空間を出て現実に戻ろうとします。映画では、アパートの窓から姫のマンションに手を差し伸べようとし、その時、尾崎は龍馬を窓から突き落とします。脱落です。
このあたりから、尾崎こそがこの映画の軸なのだと見えてきます。
前後がわからなくなっていますが、どういう経緯だったか、姫がボロアパートにやってきます。部屋の様子を見て混乱します。なぜだったか、自分の髪の毛を切ります。
(もう一度見ようと思います(笑))
話はかなりイッちゃっていますので、これもどういう展開だったか記憶がありませんが、尾崎は姫が切り落としていった髪の毛を食べようと言います。姫に一目惚れであったブラピですが、どうしても食べられません。脱落です。
尾崎は食べます。
この瞬間、尾崎の仮想空間に姫が出現し、ひまわり畑でふたりのダンスがあります(笑)。
整理しますとこういうことでしょう。
この10年間、3人は姫と3人だけの国(仮想空間)を作り、姫を守る騎士のアバターとして生きてきたのですが、実はその国には、いまだ姫は存在していなかったのです。姫はあくまでも現実の存在、3人にとってはただ覗き見ることしか出来ない存在だったのです。
そこに現実にしか存在しない借金取りが乱入することで仮想空間に亀裂ができ、姫を垣間見ることが可能となり、現実では結ばれるはずもないにかかわらず、龍馬は境界を越えて脱落、ブラピには髪の毛が実在するものにしか見えず食べられず脱落、尾崎のみが髪の毛を仮想のものと認識する(思い込む)ことができ、ついに姫を仮想空間に呼び込むことが出来たのです。
その後の、ひまわり畑や空港や海辺のシーンはすべて尾崎ひとり見ることができた妄想、言い換えれば、恋愛ゲームという仮想空間における尾崎と姫のクリアシーンなのでしょう。当然、ハッピーエンドですわね(笑)。
…なんて、これこそが妄想ではないかと思うような文章です(笑)。
やはり、もう一度見てみよう。
姫にアイドル系ではないキム・コッピを配役しているのは、監督の個人的趣味もあるのでしょうが、映画を深くしていますし、YOUと向井理のキャスティングもいいですね。