バッド・ジーニアス 危険な天才たち

ネタ的にも、テーマ的にも、作りの上でもハリウッドスタイルのタイ映画

タイの映画、随分見ていませんねえ、「すれ違いのダイアリーズ」以来のような気がします。

「バッド・ジーニアス」、タイトル通り、学力優秀な学生がカンニングをする話らしく、面白そうではあります。

公式サイト / 監督:ナタウット・プーンピリヤ

物語の進め方や手法がハリウッドスタイルの映画ですね。

ですので、そこそこ面白いのですが、後には残りません(ペコリ)。

テーマの扱いもかなりハリウッドスタイルで、カンニングという不正行為でありながら、見る者にドキドキ感を味わわせ、感情移入させ、主人公たちを応援したくなるように仕向けるのですが、結局最後は、その不正行為は人の道に反することだよと教訓的に終わります。

カメラワークや編集テクニックも、ハリウッドのクライムものやアクションもの(あまり見ないので適当な意見ですが…)を模倣(学習)している感じです。

物語はほぼ中頃で切り替わっており、前半はタイの学内でのカンニング、後半はアメリカの大学に留学するための大学統一入試(STIC)が行われるシドニーでのカンニングとなっています。

この STIC というのは創作で、SAT のことなんですかね?

公式サイトに「中国で実際に起きた集団不正入試事件をモチーフに」とあるのは、何となくうろ覚えのこの事件のことなんでしょうか?

CNN.co.jp : 中国と韓国で大規模なカンニングか 米進学試験

学力優秀なリンが特待生として(多分有名な)進学校に転校してきます。グレースという、屈託なく自分は頭が悪いと話しかけてくる子と親しくなります。試験の日、リンは、頭を抱えているグレースを見るに見かねてカンニングさせます。

後日リンは、グレースの彼であるパットにカンニングで儲けないかと誘われます。

人物設定としては、リンは父子家庭で、父親は実直ではあってもお金はないという設定、一方のグレースとパットは裕福なのに学力が足りないという設定です。ただこれは、いわゆる金持ちは社会的成功が約束されており(そうでもないけど)、貧乏人は勉学に励んでのし上がっていくしかないというステレオタイプな社会認識を利用しているだけで、この設定が映画の中で大して意味を持ってくるわけではありません。

リンは迷うことなくあっさりとその誘いに乗り、自らカンニング方法を考案して主導権を取っていきます。 

そのカンニングの方法が結構ユニーク(かどうかは知らないけど)で面白かったです。テストはすべてマークシートで、A, B, C…と答える方式ですので、その答えをピアノのコード、というほどでもないかも知れませんが、リンが机の上でピアノを弾くタッチをして、それを皆が伝搬させていくというものです。

ところが、試験の日、リンたちはピアノ方式で準備万端と答案用紙に向かうのですが、なんと、問題用紙が2種類あるのです。

なるほど、サスペンス(ちょっと違う?)感を出すためにうまく考えたねと思ったのですが、え? でも、試験って順番をつけるためのものなのに問題が違っていたら比べられないんなないの? と…、まあ、そこに突っ込み入れるような映画じゃないということで(笑)…

で、リンはこの障害もものの見事に乗り越えてカンニングは成功します。しかし、疑いを持つ生徒が現れます。優等生のバンクです。

バンクの設定も、リンと同じく学力は優秀だが母子家庭で貧しい(ということでもないかな?)ということになっており、不正が許せないバンクは学校にバラしてしまいます。

というところまでが前半なんですが、ややもたつきを感じましたね。もう少し短く、テンポよくすれば、ぽんぽんぽんと後半につなげられたように思いますが、リンやバンクの家庭の話とか、学校への賄賂云々の話とか、社会派的なことにもこだわっているよということを見せたかったのか、焦点の定まらない中途半端さが感じられます。

後半です。

奨学金を取り消されたリンは落ち込むどころか、今度は自分からパットとグレースに STIC でのカンニングを持ちかけます。方法は、試験が世界各国で行われることを利用して、まずリンがシドニーで試験を受け、その答をタイに送るというものです。ただし、問題の量が多くひとりでは記憶できないので、バンクが必要だと言います。

バンクを仲間に引き入れるために、パットが一工作して、それが後にちょっとした波乱要素にはなるのですが、なんやかんやで結局バンクも仲間になります。

そしてシドニー、リンとバンクがオペラハウスの前で写真を撮ったりしてシドニーっぽさを出していました(笑)。あれ、合成に見えましたけど実写ですかね。地下鉄シーンもありますから、あのカットだけ合成にする必要はないか…。

カンニングの方法は、二人が半分ずつ答を暗記し、休憩時間にトイレに駆け込み、予め隠しておいたスマホで答を送るというもので、それを2度3度と繰り返すわけですが、当然あれこれ障害が発生し、バンクは途中で捕まり、リンはなんとか最後まで答を送りきります。

タイではパットとグレースが待ち受けており、送られてきた答を鉛筆にバーコードとして印刷して申込者に渡すということで、これまた当然、こういう映画ですので時間との戦いでハラハラ・ドキドキ感が演出されます。

カンニング作戦は成功したものの、バンクは退学、リンは…、どうなりましたっけ? 先生になるとかいっていましたから退学にはなっていませんね。それに二人とも大金を手にしているはずですがどうなっていましたっけ? 忘れてしまったのか、描かれていなかったのか…。

実は、そんなことはどうでもいい、まだ先があるのです。

今度は、退学の憂き目にあったバンクが、リンに他の試験でのカンニングで儲けようと持ちかけます。リンは断ります。バンクは、引き受けなければ STIC でのカンニングの首謀者はリンだとバラすと脅します。リンは「好きなようにすれば」(こんな感じ)と言って去ります。

そして、後日。リンは STIC の関係者の前に座っています。

おい、おい。自分が持ちかけたんじゃないの? それ、ダメでしょ!

という完全ハリウッドスタイルのタイ映画でした(笑)。

リンをやっていたチュティモン・ジョンジャルーンスックジンさん、結構いけるかもしれませんね。現在22歳、モデルで、この映画がはじめての演技経験だそうです。名前が覚えきれません(笑)。