ガール・ピクチャー

日本の多くの同世代に見られることを望むのだが…

フィンランドの青春映画です。フィンランドの映画は結構見ていますが思い返してみますとかなり多彩です。どの国にもいろんな映画があるという当然といえば当然のことなんですが、つい最近の「コンパートメントNo.6」、これは大人の映画でオススメです。フィンランドの国民的画家ヘレン・シャルフベックを描いた「魂のまなざし」、クリーチャーホラーの「ハッチング―孵化―」、BDSMの「ブレスレス」、戦争映画の「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」、そしてもちろんアキ・カウリスマキ監督とミカ・カウリスマキ監督の映画も見ています。

ガール・ピクチャー / 監督:アッリ・ハーパサロ

金曜日の青春

そしてこの「ガール・ピクチャー」、3人の10代の女性の恋愛とセクシュアリティを描いた映画です。監督はアッリ・ハーパサロさん、40代半ばの方です。日本で公開されたのはこの映画が初めてのようです。

ミンミ、ロンコ、エマの3人は17、8歳の設定です。日本でいえば高校3年生ですので当然学校という生活環境が主かとは思いますが、学校らしきシーンは最初にホッケー、後半にバスケットの、それも体育の授業とも思えないような2シーンあっただけだったと思います。

その後はアルバイトシーン、モダンなアパートメントシーン、そしてパーティーシーンと続き、しばらくは家庭生活や学校生活が描かれることなく進みますので、いったいどういう生活環境なんだろうと不思議だったんですが、どうやら3度の週末、主に金曜日だけを描くことで思春期の恋愛とセクシュアリティに焦点を絞ったということのようです。

もっと他に考えることはないの、なんて思ったりもしましたが(笑)、妙に大人びたミンミが、実は幼さや不安定さを抱えているということがわかってくる後半になり、ああなるほどね、思春期とはこういうものだよねと納得した映画です。

ミンミとロンコ

ミンミ(アーム・ミロノフ)とロンコ(エレオノーラ・カウハンネン)は仲良しさんです。ふたりでスムージースタンドでアルバイトをしています。

ミンミは世の中を斜に見ているようなところがあり大人びています。ロンコは男の子にときめかない、でも恋愛もセックスもしてみたい(みたいなことだったと思う…)と言っています。この後、ロンコは客の男の子にデートに誘われますが曖昧な状態のまま断ってしまいます。一方、ミンミは友だちとともにやってきたエマ(リンネア・レイノ)をからかい怒らせてしまいます。ただ、ミンミの行動はエマに気があるがゆえのようにも感じられます。

というミンミとロンコの3度の週末が描かれていきます。「最初の金曜日」「2回目の…」とスーパーが入りますので金曜日の夜ということのようです。ただ、明確に切り替わるわけではなくそれぞれが連続した物語として描かれますのでなかなかウィークデイの学校や家庭内の生活がイメージしづらくなっています。

その後ふたりはアルバイト中にエマの友だちからパーティーに誘われて参加することになるわけですが、その前にモダンなアパートメントでメイクや着ていく服などでたわむれるシーンがあります。一体そこはどこなのと思いましたら、後にわかることですが、ミンミは、母親が再婚してその相手との子どもと暮らしているために独り暮らしをしているという設定のようです。もちろん生活費は親が出しているということでしょう。

ミンミとエマ

学校が終わり、その後アルバイトをして、家に帰り、お出かけの装いをして、そしてパーティーですから10時くらいでしょうか、それにパーティー自体がもう大人のパーティーの雰囲気です。何部屋も使っていたようですしバスルームのシーンもありますので、場所はどこなんだろうと気になってしまいます。大人は登場しません。

なんて心配をしていますと、この映画を理解するのは難しいかも知れません(笑)。

パーティーです。ミンミはエマをみつけ、話しかけ、率直に気持ちを伝えます。そして、ふたりはパーティーを抜け出しクラブで踊るうちにお互いに求めあってキスをします。そして、その日であったのか、次の週であったのかは記憶していませんがふたりは愛し合うようになります。

エマはフィギュアスケートの選手で欧州選手権に出るような実力です。しかし、演技の要であるトリプルルッツが飛べなくなっています。叱咤するコーチ、励ます母親、そうしたプレッシャーもあるのでしょう、出場権を争う競技会を前にスランプに陥り、その気持ちがますますミンミへの思いを強くし、それまで遅刻したこともない練習に遅刻したり、コーチとの諍いにもなってしまいます。そしてついにはスケートをやめるとまで言い放ってしまいます。

同じ頃、ミンミは母親と約束していた弟(母親と再婚した相手との子ども…)の誕生会に向かいますが、母親はその約束をすっかり忘れており、親子3人だけの誕生会を済ませて帰ってきます。

この時のミンミの気丈なふるまいは切ないです。怒ることなく、弟にプレゼントを渡し、しっかりと弟をハグして誕生日を祝うのです。この時ミンミはエマを母親に紹介しようと思ったのでしょう、エマを連れてきていますのでエマもその成り行きを見ています。そうしたお互いの欠乏感からより強く惹かれ合うことになります。

このミンミの思春期にありがちな大人っぽさと子どもっぽさが同居しているような不安定さがこの映画を面白くしています。

ミンミはエマの自分への思いがフィギュアスケートの邪魔になっていると思い込み、エマに避けるようになり、これみよがしにクラブで出会った男たちと親しくする様を見せつけます。エマは怒って去っていきます。

こういうところが思春期っぽくていいですね。

ロンコ、さまよう

ロンコの物語、最初の金曜日のパーティーです。

ロンコは男の子と恋愛やセックスをしなくっちゃいけないと思い込んでいます。男の子にいきなり下世話な話(精子保存にムーミンのマグカップを使うとかのジョークだったかな…)をして引かれてしまい、落ち込んでバスタブに隠れていますと、カップルがやってきてあれこれあり、女の子が怒って出ていったしまった後に、私でどう?とあれこれ始めますが何もしっくりくるものがなく終わってしまいます。

後日、2回目の金曜日でしょう、そのことをミンミに話しますと自分がして欲しいことを相手に伝えないとだめと言われ、その日参加したパーティーで早速それを実行しようと相手にあれしてこれしてと求めますが、当然ながら(笑)、しばらくは求めに応じていた相手はマニュアルに従わされているようで気持ちが萎えると言い出ていってしまいます。

そして、3回目の金曜日なのかよくわからない後日、ロンコは最初の金曜日にデートに誘ってくれた男の子に、今度は自分から誘います。そして、デートをし、相手のことを考えもせず積極的にセックスに進もうとします。しかしその時男の子に向かって吐いてしまいます(お酒だったんだ…)。男の子は気を悪くすることもなく泊まっていけばいいと言い、そして翌朝、男の子はやさしくロンコにキスしようとします。しかし、ロンコは顔をそむけてゴメンと言います。

無理やり恋愛やセックスをしようとしてもダメだということに気づいたのでしょう。

ミンミとエマとロンコのその後

エマの競技会です。ショートプログラムが始まり、エマはトリプルルッツで転倒します。

ミンミとロンコはスムージースタンドで働いています。ミンミはエマとのことが気になっていますのでスマホで競技会の中継を見ています。ロンコがからかいます。ミンミは苛立ってスムージーのカップ(だったか…)をぶちまけます。ロンコが駆け寄り抱きしめます。

で、ここは何かがカットされているんだと思いますが、ミンミが警官に職務質問され、警官が母親に電話をしますと母親は来られないと言います。ミンミは母親が来るまで帰らないとすねます。

やってきた母親にミンミが「ママとふたりだった頃に戻りたい、私だけのママだった頃に…」と甘えますと母親はやさしく抱きしめてくれます。

あまりにも幼児返りっぽくって違和感を感じますが、思春期の不安定さの演出ということだと思います。

そして、エマはフリープログラムでトリプルルッツを成功させ、欧州選手権への出場権を手にします。

後日のパーティー、エマの祝賀会だったかも知れません、ミンミとエマとロンコが楽しそうにふざけあっている(じゃれあっている…)シーンで終わります。

日本の同世代はこの映画を見るのだろうか?

この3人がごく一般的なフィンランドのティーンの姿であればわざわざ映画にしていないわけですので、アッリ・ハーパサロ監督はじめ映画の制作者たちには、3人を肯定的に描くことで何らかのメッセージを発しているということになります。

目につくのは、女性がセクシュアリティについて話をすることに羞恥心を抱かないこと、男性が後景に追いやられていること、ヌードシーンがないこと、セックス(的なも含め…)シーンを執拗に描かないこと、レズビアンやアセクシュアル(ロンコがそうかどうかは分からないが…)をマイノリティ化しないことなどですが、残念ながら文化や社会的規範が大きく違う日本ではまるで異次元の話のようです。

実際、ネットはひどいものですのとりあえずおくとしても、いまだテレビでされ女性蔑視とも思える言動や映像が流れたりします。意識して気をつけないと知らず知らずのうちに自分も間違いを犯してしまいそうで怖いです。

ところで、私がこの映画を見た時間帯には3人と同世代と思える観客をほとんど見かけませんでしたが、日本の同世代はこの映画を見るのでしょうか?