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金の糸

ネタバレレビュー・あらすじ・ゴゴベリゼ監督自身が過去の思いと折り合いをつける映画か…

2022/03/06

ジョージアのラナ・ゴゴベリゼ監督の2019年の映画です。現在93歳とのことです。公式サイトにはジョージアを代表する映画監督とありますが、この「金の糸」の前は1992年の「ペチョラのワルツ(Valsi Pechoraze)」という映画が最後であり、ちょうどジョージアが1991年のソ連邦解体後に独立しているころに符合します。理由はわかりませんが、それ以降は国会議員、欧州議会大使、駐仏大使として政治の世界での活動が中心だったようです。ですので27年ぶりの映画ということになります。

  • 監督自身の過去の思いの修復か…
  • 憎しみも時の流れとともに…
  • ジョージアの映画
金の糸 / 監督:ラナ・ゴゴベリゼ

監督自身の過去の思いの修復か…

物語の軸は、作家である79歳のエレネのもとに、ソ連邦時代に政府の高官として対立関係にあったミランダが同居することになり、エレネの葛藤が独白スタイルで語られていくという映画です。物語の背景としてはゴゴベリゼ監督自身の過去があるようです。

父レヴァンはグルジア社会主義ソヴィエト共和国人民委員会議副議長(1923−1924)、グルジア共産党中央委員会第一書記(1930)などを歴任した政治家だったが、1937年にスターリンの大粛清により処刑された。それに伴い母ヌツァも逮捕され、およそ10年もの間、極寒地の強制収容所に流刑された。残されたラナは孤児院に収容されたのち、おばに引き取られ育てられ、成長後、強制収容所から帰還した母と再会する。

(公式サイト)

エレネはジョージアの首都トリビアの旧市街で娘夫婦とひ孫と暮らしています。娘の夫の母親であるミランダが認知症を発症し始め、ボヤ騒ぎを起こしたために娘夫婦が引き取ることにしたということです。

エレネの両親もソ連邦時代に粛清されたようなことを言っていましたので、ミランダがその張本人ではないにしても、同居という設定はゴゴベリゼ監督自身が自分の過去と向き合うという思いの映画なんだと思います。

憎しみも時の流れとともに…

映画の設定を2019年としますとソ連邦崩壊からほぼ30年ですが、ウィキペディアなどを読みますと、当たり前と言えば当たり前のことですが、スパッと何かが変わるわけではなく、独立という一見大きな変化にみえても権力者は相変わらず権力者のままという状態だったらしく、この映画のミランダにしてもその後も政府の中枢にいたとの設定かもしれず、精神的に大きな挫折を味わったようには描かれていません。

そうしたことからか、態度は横柄とまではいかないまでも人を見下すような人物となっており、特にエレネに対してはいまだにソ連邦時代の栄光をひけらかすようなところがあります。たとえば、皆でテーブルを囲み食事の場面(だったと思うが…)で、エレネのことをこれでもよく知られた作家だったのよとさらりと言ってのけたりします。さらに、エレネは自分の作品が発禁処分になった過去を持っているのですが、その処分を出したのは私よとぬけぬけと言い放ちます。

こうしたミランダに対してエレネが表立って怒りをあらわすようなシーンはなく、なかなかエレネの心情が読めない映画です。

ミランダが過去にとらわれているとしますと、エレネも同じように過去にとらわれているということで、それが昔の恋人(なのかな)との電話による会話で表現されています。映画はエレネの誕生日から始まり、誰もそれを覚えていないとの本人の独白で始まり、そこに昔の恋人アルチルから電話が入ります。誕生日であることを覚えていたということです。それ以降頻繁に電話があり、映画としてもかなりの分量をしめています。ただ、とりとめのない会話ですのでほとんど記憶できていません。

このアルチルに関しても、ミランダが絡んできます。どういう経緯で電話の相手がその男だとわかったのかは記憶していませんが、ミランダが言うにはソ連邦時代、若き青年アルチルがしきりに自分に近づいてきていたとエレネの気持ちを逆なでするように言います。ただ、これに対してもエレネがなにか反応をしていた記憶がありません。

娘からミランダを引き取ると聞いた時には、ミランダが来るのなら私が出ていくとまで言っていたのですが、実際に来てみればエレネにはミランダへの怒りや憎しみのような感情はほとんど感じられませんでした。

ですので、「金継ぎ」という陶器の修復技術から着想したという「金の糸」ですが、そこからイメージされる「和解と修復」というテーマはあまり感じられなく、結局、人の思いというものはそれが憎しみであれ好意であれ、時の流れとともに消えていくものであり、さらに言えばそれでしか消えないものなのかもしれないと感じます。

もちろん、その前提となるのは憎しみの場合は謝罪があってこそであり、それがなければその憎しみも次の世代へとつながっていくものであることは言うまでもありません。

この映画では、ミランダからの直接の謝罪のようなシーンはありませんが、ミランダが自分の持ち物を処分して恵まれない子どもたちに送っていることをエレネが知ることをそのひとつとして表現しているのでしょう。

ジョージアの映画

このラナ・ゴゴベリゼ監督は知らない方でしたが、ジョージアの映画は数本見ています。

「やさしい嘘」
ジュリー・ベルトゥチェリ監督はフランスの方ですが、映画の舞台はトリビアです。2003年の映画で当時は国名がグルジアとロシア語読みで表記されていました。いい映画で、ジョージアという国を初めて意識した映画でした。

「放浪の画家ピロスマニ/ギオルギ・シェンゲラヤ監督」
1969年の映画のリバイバル上映でした。画家のニコ・ピロスマニさんを描いた映画で、ピロスマニさんのフランス人女優マルガリータへの愛のエピソードがラトビアの曲にロシア語で歌詞がつけられ、日本では加藤登紀子さんが「百万本のバラ」として歌いヒットしています。

「とうもろこしの島」「みかんの丘」
ジョージアが属するコーカサス地方一帯(だけではないけど)は民族的には簡単に国として線を引けるわけではなくジョージアの中でも自治共和国として独立状態の地域があるようです。

「花咲くころ」
トリビアで暮らす14歳の少女ふたりの物語です。2018年の映画ですが、今読み返しましたら1992年の物語でした。この映画もよかったです。

「聖なる泉の少女」
神話的かつ寓話的で美しい映画でした。

「葡萄畑に帰ろう」
原題(英題)が「The Chair」で、権力者の椅子を巡る皮肉にみちた映画でした。

「ダンサー そして私たちは踊った」
スウェーデン映画ですが、ジョージア国立舞踊団の話です。

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