そんなには褒めないよ。映画評

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ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

ネタバレレビュー・あらすじ:サンフランシスコ フィルモアへの愛がほとばしる

2020/10/15

かなり個的で地域性の強い映画ですので共感するかどうかという見方では難しいのですが、主人公ふたりの関係はとても面白いですし、映画のつくりに新鮮さを感じます。

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ / 監督:ジョー・タルボット
  • あらすじ
  • ジミーの街への愛情と郷愁
  • 演劇的なシーン
  • モントはジョー・タルボット監督の分身

あらすじ

主演のジミー・フェイルズさんが主人公のジミーを実名で演じており、物語もフェイルズさんが6歳まで暮らした家をめぐる話です。

フェイルズさんは1994年生まれの26歳です。

フェイルズさんが幼い頃に暮らしたサンフランシスコのフィルモア地区は、1906年のサンフランシスコ大地震以降、ユダヤ人、日本人、そしてアフリカ系黒人と、様々な民族が暮らす街として栄えたのですが、戦後の再開発でかなりの低所得者層が移転させられたそうです。

ただしこの映画の物語はそうした社会政策的なことを前面に出しているわけではなくあくまでもフェイルズさんが幼い頃に暮らした街への愛情と郷愁がメインであり、映画のトーンもファンタジックな感じで進みます。

ジミーは友人のモントとともにトンガリ屋根のあるヴィクトリアン様式の家(以下、勝手に我が家と表記)を眺めています。その家は、1946年(と言っていたと思う)にジミーの祖父が建てた家でジミーもそこで幼い時期を過ごしています。

しかし今、ジミーの家族は離れ離れでジミーもモントの公営住宅に居候です。

ジミーは我が家を取り戻したいと考えています。現在の持ち主である白人夫婦に構わず毎日訪ねてきては窓にペンキを塗ったりします。

ある日ジミーたちが我が家を訪ねますと引っ越し作業が行われています。相続の揉め事で無人となったことを知ったジミーは懐かしき我が家に大手を振って入り郷愁に浸ります。

ジミーがバルコニーに出ていますと、街のツアーガイドがこの家は18○○年(忘れました)に建てられたヴィクトリアン様式の家で…などと観光客に解説しています。ジミーはそうじゃない、自分の祖父が1946年に建てたものだと譲りません。

ジミーは家具一式を運び込み、隣人にまで挨拶をします。また、友人(と言っていいかは?)のコフィを招き、この家はサンフランシスコで最初の黒人である自分の祖父が建てたと話します。

ある日、コフィーが撃たれて死んだと聞かされます。

そしてまたある日、我が家を訪ねますと運び込んだ家具が道路に放り出され、「売家」の看板がかかっています。値段は400万ドルです。ジミーはお金を借りようと銀行を訪れ、自分は若くて貧しい黒人だが絶対に返済するからと言い募ります。しかし担当者はにべもありません。

モントが不動産屋を訪れ、ジミーの祖父が1946年に建てたものを1800年代に建てられたと広告しているのは誇大広告だから訴えると抗議します。不動産屋は登記簿を見せます。確かにそこには1800年代に建てられ、ジミーの父親が所有権を失っていることも記されています。

モントはコフィの死にまつわる戯曲を書いています。タイトルは「The Last Black Man in San Francisco」、友人たちやジミーの父や母を招きトンガリ屋根の屋根裏部屋で上演します。

上演後、モントは客席の皆にコフィについての一言を求め、ジミーは嫌なこともあったけど自分を助けてくれたこともあると語り、(ここの流れやや記憶が曖昧)それに対してモントはこの家はジミーの祖父が建てたものじゃないと皆の前で話します。

翌日、モントが済まなかったと謝りますとジミーはわかっていたと言います。

その翌日か後日、ジミーは、サンフランシスコを出ていく、親切にしてくれてありがとうとモントに書き置きを残していなくなります。

おまけシーンとして、ジミーがゴールデンゲートブリッジが見えるサンフランシスコ湾でボートを漕いでいます(笑)。

ジミーの街への愛情と郷愁

やけにあらすじが長くなってしまいました。

映画のつくりが基本ファンタジーということもあり、ひとつの筋の通った話しとして説明するのが難しいところがあります。ワンシーンワンシーンに、そしてひとことひとことに思いがこもっているような映画ですので実際に見ないとわかりにくい映画です。

冒頭、ゴールデンゲートブリッジを背景に黒人の青年(?)がビールケースのような台に立って再開発で街が変わってしまったといった演説をしています。道路をはさんだ土手のようなところにジミーとモントが座り、バスが来ないなあと物憂げに話しています。

「ゴドーを待ちながら」かと思って見ていました。実際にバスは来ず、ふたりはスケートボードで走って(滑って?)いきます。ジミーのスケートボードにふたりで乗ったり、モントが走ったりします。

とてもいいシーンでした。この冒頭だけではなく全体として編集や音楽の使い方にとても新鮮さを感じます。

映画のテーマとしては、とにかく、ジミー・フェイルズさんのサンフランシスコ、特にフィルモア地区への愛情と郷愁の思いが詰まった映画です。

演劇的なシーン

冒頭のシーンで「ゴドー待ち」を意識しているかどうかはわかりませんが、他にも演劇的と感じるシーンかなりあります。

撃たれて死んだとされるコフィ、あらすじには書いていませんが、コフィをまじえた数人の若者たちが我が家の前(他の場所もあったかも)に必ずたむろしており、いつも仲間内と感じられるやり取りをしています。

物語の展開にどういう関わりをもたせようとしているのか掴みづらいのですが、かなり重要な扱いになっていることは間違いないと思います。アメリカ社会を肌で知っていないとわからない感じがします。

カメラワークも正面からきっちりとらえた画が多く、それもどちらかと言いますと演劇的とも言えます。

モントが上演する「The Last Black Man in San Francisco」は、正直かなり中途半端です。もう少ししっかりしたものにすれば映画も随分違ったものになったのではないかと思います。かなり意味不明でした。

モントはジョー・タルボット監督の分身

モントがとてもいいです。演じているのはジョナサン・メジャースさんです。

特に何かをする人物ではありませんが、いつもジミーと一緒にいてじっとジミーを見ている人物です。その眼差しや行いがとても優しいんです。

屋根裏部屋の演劇は、コフィへの哀悼であったようですが、実は我が家の真実を知ってしまったがゆえにどうジミーにどう伝えるか迷いの行いであったかも知れません。

私が聞き取れていない、また字幕が表現できていないジミーとモントとコフィの何かがあったのかも知れません。

モントはジョー・タルボット監督の分身なんでしょう。

タルボット監督とフェイルズさんは10代のはじめに出会った親友とのことらしくその関係がモントの人物像に反映されていると思われ、また演じているメジャースさんもその監督の思いを実にうまく演じています。

ジミーの実体験と街に住む住人の夢を混ぜたようなハイブリッドなものを作りたかったんだ。街の片隅に追いやられた男が、自分の記憶にしか残らない家に巡礼の旅をするというオデュッセイアのような、ちょっとした冒険話にしたかった。(公式サイトPRODUCTON NOTE) 

実際、映画はそのように出来上がっています。願わくば劇中劇の「The Last Black Man in San Francisco」をきっちりやってほしかったとは思います。

The Last Black Man in San Francisco [DVD]

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  • 発売日: 2019/08/27
  • メディア: DVD
 
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