レッド・ロケット

ポルノスターは社会の底辺で永遠の夢を見る…

タンジェリン」「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」のショーン・ベイカー監督、一昨年2021年のカンヌ国際映画祭のコンペティションに出品されています。「TITANE/チタン」がパルムドールの年です。

レッド・ロケット / 監督:ショーン・ベイカー

2016年はトランプの年

時代の設定をわざわざ2016年に設定し、テレビからトランプの選挙演説を流しているところがこの映画のミソですかね。ましてや場所もテキサス州の石油コンビナート地帯です。

ショーン・ベイカー監督がそこにどんな意味を込めているのかは映画からは読み取れませんが、少なくともこの映画に登場する人たちがトランプの支持基盤であることは間違いないでしょう。過去二作、そしてこの映画が取り上げている人々はアメリカ社会の支配層とは正反対の人々です。ポルノスター、マイキー(サイモン・レックス)がロサンゼルスで夢(とは言えないが…)破れて故郷のテキサスシティに戻ってくることも象徴的です。

2016年のアメリカ大統領選挙の結果です。

ElectoralCollege2016
Gage, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ポルノスターは永遠の夢を見る

ポルノスター、マイキー(サイモン・レックス)がロスからテキサスシティに戻ってきます。仕事がなくなったということでしょう。そして、別居中の妻レクシー(ブリー・エルロッド)の元に転がり込みます。

このマイキーがすごいんです(笑)。機関銃のように喋りまくり相手につけ入るスキを与えません。こういうのは天性の才能だと思いますが、それをサイモン・レックスさんが見事に演じきっています。初めて見る俳優さんですが、130分のこの映画、完全にサイモン・レックスさんのものです。よくもあれだけ台詞を自分のものにしたものだと思います。カンヌの男優賞をとってもいいのにと思い、その年は誰だったかを見てみましたら「ニトラム」のケイレブ・ランドリー・ジョーンズさんでした。

という、マイキーが故郷の街で引き起こすてんやわんやのひとり舞台の映画です。

マーキーが自慢気に何度も受賞を逃したといっていたのは「AVNアワード」というポルノ業界のオスカーと言われている(らしい…)もののことですね。レクシーも元ポルノ俳優ということですが、なぜ別居中の妻がマーキーが出ていったテキサスに家を持っているんでしょう。17年ぶりに戻ってきたということは、若い頃に結婚してお金のあるうちに家を買って妻と母親を住まわせたということなんでしょうか。まあ、あまり詰められていないのかも知れませんが…(笑)。

マーキーは仕事を探しますがことごとく断られます。結局、マリファナの密売を始めます。テキサス州は違法(2016年時点…)のようです。口先三寸の才能でそれなりに稼ぎ、レクシーと母親にお金を渡しますと、次第に関係もよくなり、セックスする関係にもなり、ソファーからベッドに移動です。

マーキーはドーナッツ屋の店員のストロベリー(スザンナ・サン)をひと目見て惹きつけられナンパします。ストロベリーは18歳、町を出たがっています。マーキーとセックスする仲になり、マーキーはストロベリーにポルノ俳優としての才能を感じ、ロスへ行こうと口説き始めます。

隣にロニーという青年が父親とともに暮らしています。マーキーと親しく話すようになりますが、車を持っていますので足代わりにしているということだと思います。ロニーにはどことなくマーキーに憧れているようなところもあり、また兵役を詐称していますのでそれを見抜かれた男たちに暴行されたりします。

そのロニーと車で走っている時、マーキーが喋りまくっていたからでしょうか、出口を見落とし、マーキーがいきなりハンドルを切ったものですから、後続の車の大事故となり、大々的にニュースにもなり、ロニーが逮捕されます。マーキーは同乗していたことをしゃべるな!と口止めし自分は逃げます。

という、とにかくマーキーのひとり舞台の映画で、後半はストロベリーとの描写が主になっていきます。要はストロベリーをポルノ俳優として売り出し自分も再度業界の表舞台に立とうとしているということです。ただ、マーキーはテキトウ男ですのでそのことに必死なるとか、あくどさは感じられず、とにかくそのテキトウさの才能に惚れ惚れするような映画です(笑)。

分断の時代

一作目の「タンジェリン」はトランスジェンダーのセックスワーカー二人とアルメニア移民のタクシードライバーの話でしたし、二作目の「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」モーテルでその日暮らしをする母娘の話でした。

この映画ではマーキー以外でも、レクシーは売春をして生活費を得ているといいますし、隣のロニーも働いていないようですし、マリファナの元締めは家族経営(笑)ですし、ストロベリーの元カレにされてしまう少年の両親もかなりいっちゃっている感じでしたし、そのストロベリーにしても、まあパターンではありますが、ここを出ればいいことがあると単純に思い込んでしまう人物です。

今どきアメリカがニューヨークやロサンゼルスのような都会の知識層だけで成り立っていると思う人はいませんが、こうやってアメリカの半分を占める(かも知れない…)階層を見せられますと本当に今は分断の時代なんだと思い知らされます。もちろん日本もそうなんですが、日本の場合はちょっと様相が異なっています。それはまた別のところで…(笑)。

で、映画の結末です。マーキーはストロベリーを口説き落としロスへ行こうということになり、レクシーに明日出ていくと告げます。レクシーは大麻家族の手を借り、マーキーが稼いだお金を取り上げ、素っ裸にして放り出します。マーキーは大麻家族の元締めに助けてくれと頼み込み衣服と20ドルだったかをもらいストロベリーの家に向かいます。マーキーはストロベリーがビキニ姿(だったかな…)でポルノ俳優的(だと思う…)な艶めかしいふるまいをする姿を見ます。

よくわかりませんが幻、永遠の夢ということかも知れません。過去二作ではわかりやすいオチで終えていましたが、この映画はやや中途半端な終わり方でした。サイモン・レックスさんで持つとの判断からでしょう。