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ロニートとエスティ 彼女たちの選択

(ネタバレ感想)苦しみながら選択することこそが人間に与えられた自由だということ

2020/02/08

「ナチュラルウーマン」「グロリアの青春」のセバスティアン・レリオ監督です。新作? と思いましたら、製作年は「ナチュラルウーマン」と同じ2017年になっています。

公式サイトによりますと、主演のレイチェル・ワイズさんの企画から立ち上がった映画で、レリオ監督はオファーをうけたということのようです。だからというわけでもないでしょうが、出来はもうひとつかと思います。

ロニートとエスティ 彼女たちの選択

ロニートとエスティ 彼女たちの選択 / 監督:セバスティアン・レリオ

まず物語の背景がかなり特異ですので、なかなか問題を今にひきつけて感じることができません。

ユダヤ・コミュニティ、ロンドンのシナゴーグが舞台です。シナゴーグというのはユダヤ教会を指す言葉のようですが、映画の中では宗教的に厳格なユダヤ・コミュニティとして使われていました。

宗教であれ何であれ、規律に厳格な社会と個人の自由は相反します。規律は服従を求めますので、自由を求めるものは「不服従 Disobedience(原題)」への決断を迫られます。そういう映画です。

ニューヨークで写真家として活躍するロニート(レイチェル・ワイズ)に父親の死の知らせがもたらされます。父はユダヤ教のラビです。ロニートは父やそのコミュニティの厳格さを嫌い、父のもとから飛び出してきています。多分20年くらいの時が過ぎているのではないかと思いますが、それ以来完全に関係は断っているようです。

まず、ロニートが父の死にショックを受けるシーンになるのですが、かなり説明的に描かれています。バーで酒を飲み、(多分)行きずりの男とトイレでセックスをします。

ぽんぽんぽんとそれぞれワンカット程度で流していますので許容範囲ではありますが、20年全く疎遠である上に、父の死それ自体が頭に浮かぶような年齢に達しているわけですから、現実的にはもっと冷めた感じではないかと思います。

ただこれは、ロニートがニューヨークでいかに自由に生きているかを、この後続くユダヤ・コミュニティとの対比で見せているのだとは思います。冒頭のロニートの撮影シーンのモデルが全身に入れ墨をし、その中にキリストの図柄が入っていることも同じ意味合いでしょう。

ロンドンに戻ったロニートは、幼なじみのエスティ(レイチェル・マクアダムス)とドヴィッド(アレッサンドロ・ニヴォラ)と再会します。ドヴィッドはラビであったロニートの父のもとで宗教者となり、エスティはその妻となっています。

映画はこの三人の物語です。宗教者として規律に厳格であろうとするドヴィッド、その規律に服従を強いられているエスティ、そしてその上下関係社会から逃げ出したロニートです。さらに、ロニートとエスティの間には愛情関係があります。そもそもロニートがコミュニティから逃げ出したわけはエスティとの性的関係を父親に知られ、(多分)勘当されたからです。

映画はこの過去には全く触れておらず、ロニートとエスティの会話と行為からそうだろうとわかってくるだけです。

エスティの性的指向ははっきりとホモセクシャリティとして描かれていますが、ロニートはバイセクシャリティのようです。ロニートに父親の死を知らせる段取りをしたのもエスティであり、ロニートに会いたいがゆえの行為です。ふたりが性的関係を持つときに、ロニートはエスティに、まだ女性が好き? と尋ね、エスティははっきりとうなずき、それにより性的行為のシーンとなっていきます。

エスティが、夫であるドヴィッドとの性行為を務めだと自分に言い聞かせていると想像できるシーンもあります。おそらくエスティはずっとロニートのことを思って耐えてきたのでしょう。しかし、ロニートにエスティへの思いがあったようには描かれていません。エスティがドヴィッドと結婚していることに驚きはしても、そこに愛絡みの感情的なものはみえません。

といったことから20年前を想像すれば、年齢は17,8歳くらい、自己主張ができるロニート、そんなロニートを好きになったエスティ、ふたりはいつしか性的関係を持つようになり、それを知った父親はロニートを咎め、激しく言い争ううちに、父親は出ていけ! 、娘は出ていってやる! となったんだと思います。

そして、20年後同じことが繰り返されます。

服従を強いるのはロニートの父に代わってドヴィッドです。ですのでこの映画のテーマ「不服従 Disobedience」を担う人物は、ロニートではなくエスティです。実際、ロニートを演じるレイチェル・ワイズさんに心の揺れは感じられませんが、エスティのレイチェル・マクアダムスさんの方は、愛を求める激しさや、後悔や、迷いや、決断など、どのシーンもとても素晴らしい演技です。

ロニートと性的関係を持った後、家に戻り、ドヴィッドの背中に自らの身を寄せるエスティ、こういうシーンを入れることができるのがセバスティアン・レリオ監督なんだと私は思います。

ロニートがエスティにニューヨークに来ればいいと促します。エスティの迷いのシーンが続きます。省略的な編集になっていますので正しいかどうかわかりませんが、エスティは妊娠しており(後に告白している)、堕胎を考え、薬局で薬を買い、どうするか迷うシーンが、カットつなぎでさらりと描かれます。

20年前のロニートの選択に比べ、エスティの選択は、歳を重ね人間関係が複雑になった分複雑です。エスティは絞り出すようにドヴィッドにむけて叫びます。

私を自由にして!

ドヴィッドも苦悩します。ロニートの父親の追悼式、ラビの後継者にと推されたドヴィッド、苦悶の表情が見て取れます。ドヴィッドは、師であるラビの言葉(映画の冒頭のシーン)を引き、人間は選択する自由を与えられている、しかしそれは苦しいものだ(みたいな感じ)と語り、エスティに向け、君は自由だ! と叫びます。

で、エスティはどうするんだろう? ということになりますが、どちらにも成り得る話ではあります。結局、エスティはドヴィッドのもとに残り母親となる道を選択します。

何を選択したかは重要なことではありません。悶え苦しみ選択することこそが自由だということです。

映画の出来はあまりよくありませんが、レイチェル・マクアダムスさんの演技とこの結末にはみるべきものがある映画だと思います。

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