死体の人

もったいない。90分の長大な予告編のよう…

唐田えりかさんだからということでポチッと(劇場予約を…)した映画です。「未完成映画予告編大賞」受賞作だったようです。予告編を作って応募し、受賞しますと本編の制作費が出るというコンテストです。それは予告編じゃなくてあらすじの映像版じゃないの、というのは突っ込みどころじゃなかったですね(笑)。

このコンテストから生まれた映画は、過去に「猿楽町で会いましょう」と「ミラクルシティコザ」を見ています。「ミラクルシティコザ」は面白かったです。

死体の人 / 監督:草苅勲

唐田えりか

唐田えりかさんはミュージシャンの翔太(楽駆)に貢ぐデリヘル嬢加奈を演じています。こういうパターン化された役柄では唐田さんのよさは生きてこないですね。要は役柄がステレオタイプで単純すぎるということです。

この映画の内容や描き方にはそれ以上のもの(ステレオタイプな人物像以上のもの…)が求められているようにはみえませんのでなんだか窮屈そうな感じがします。

音楽をやっている男を好きになり、付き合い始めたものの結局その男はしょうもない男に変貌し、それでも男の過去にしがみついて別れることが出来ずに風俗で稼いで男に貢ぐという、もういい加減にこういう女性の描き方はやめたら!という人物像です。やめたらと思うのはミュージシャンの男の方の描き方もそうですけどね。

で、加奈はその男の子どもを身ごもり、一旦は堕ろそうと思ったものの、ラストではひとりで育てる決断をします。ただ、そのラストまでの経緯が描かれず、唐突にお腹も大きくなった数カ月後になっていましたので、唐田さんのよさを見られるシーンがなかった映画です。逆に言えば、端から男を捨てる結果はみえていたとも言えます。それに、実家に帰っていると言っていました。わざわざこういう台詞を入れないといけないと思う脚本監督の草苅勲さんの価値観がよく現れています。

いずれにしても、いいところまではいっていたのですが、後半のシーンが少なく、さすがにこの映画を唐田えりかの映画にすることは出来なかったということかと思います。

仕方ないですね、そもそもこの映画は死体の人広志(奥野瑛太)の映画ですから。

奥野瑛太

売れない俳優で死体役しか回ってこない男の話です。

広志(奥野瑛太)は大学の演劇研究会で作演出をやっていた座長なんですが、実社会に出てみれば、俳優としての道は遠く、今だに(何年くらいやっているのかわからない…)死体役しか回ってきません。それでも広志は死体役だからといって手を抜かず、台本を読み込み、たとえば死後何時間の死体だから死後硬直はこうなっているはずだからと役を作り込んで臨みます。しかしそれがいけません。やり過ぎて監督やスタッフからは敬遠されてしまいます。

と、これもある種のパターンで脇役の悲哀みたいな流れになっていきます。で、その悲哀が何で補強されるかといいますと、人間的な優しさと家族愛です。

母親が検査入院すると聞き駆けつけます。母親は大丈夫大丈夫と言い、検査の結果もひとりで聞き退院してしまいます。後日、母親が倒れて入院、広志が駆けつけたときにはもう虫の息、それでも母親は「広志、見ておけ、これが死に方じゃ…」(みたいな台詞…)と言いながら息を引き取ります。

そして後日の撮影シーン、広志は縊死体の役を演じています。監督のカットがかかっても動きません。助監督が「本当に死んでいます!」と騒ぎ始めます。広志が目を開けます。監督が「よかったよ」と声をかけます。

奥野瑛太さん、いいですね。人のよさや優しさがよく出ていました。

見たことある俳優さんだなあと思いながら見ていましたが、思い出しました。「グッバイ・クルエル・ワールド」で西島秀俊さん演じる元ヤクザの子分役の俳優さんでした。あれはこの広志みたいな演技でした。映画の全体のトーンからすればやり過ぎということです。もちろんそれは監督の責任です。

90分の長大な予告編

広志と加奈のからみはあるようでないような映画です。

広志が加奈を呼びます。広志は初めての経験のようで、加奈の言うがままにオプションをつけさせられていました。

そして後日、加奈が子どものことで翔太と言い争いになり、広志のもとに逃げてきます。追ってきた翔太がドアを叩き怒鳴っています。広志は一計を案じ、加奈が自分を刺したと見せかけるために加奈に小道具のナイフを持たせ自分は死体になります。翔太は驚いて逃げていきます。

中途半端な喜劇です。

とにかく、後日、広志はがんで入院し、お腹の大きな加奈がお見舞いに来て、すでに書きましたように子どもを生むことにしたと終わります。

唐突に広志ががんを患っているという流れはどういうことかと思いましたら、妊娠検査薬の陽性が前振りでした。広志は加奈が忘れていった妊娠検査薬を自分で試したみたところ陽性になります。その後、広志自身がどこかマジに考えているようなシーンはありますが特に映画的には進展はなく、ラストに唐突にがんになっています。

男性でも精巣がんを患っていると陽性反応が出ることがあるそうです。映画的にはこうしたことは説明したくなることだと思いますが、それをやらなかったのはこの映画はコメディだとの意思表示でしょう。

ということで、率直に言いますと、せっかくのアイデアをもっと深めた映画にしたほうがいいんじゃないかと思います。言い方をかえますと、この映画自体が予告編くらいにしか描くべきことを描ききれていないということです。90分の長大な予告編を見せられたような気がします。

で、そもそもの審査対象となった予告編はどんなものだったんだろうと見てみました。

面白いじゃないですか、この予告編の線でもっと深めるべきでしたね。

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