そんなには褒めないよ。映画評

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夕陽のあと

(ネタバレ)前半の完成度は高い、特に山田真歩さんがすばらしい。

2019/12/12

前半は賞をとってもいいレベルでした。

後半もダメというわけではないのですが、おそらく企画の性格上やむを得ないのでしょう、説明的なシーンが多くなりますし、話を前向きにまとめようという意図があからさまになってきます。

夕陽のあと

夕陽のあと / 監督:越川道夫

鹿児島県長島町という町の町おこし映画だったんですね。島の町のようです。

そんなことも知らず、越川道夫監督の映画ということでほとんど何も読まずに見に行きましたので、始まってしばらく続く小さな漁港の水揚げシーンにあれ?と思いながら見ていました。ドキュメンタリーのような印象の画だったということです。

映画が町おこしになるのかどうかは疑問の残るところですが、それでもこの映画は俳優たちがかなり町に溶け込んでおり、最初に感じたドキュメンタリーのようだという感覚が持続したまま中盤あたりまで進みます。

特に五月役の山田真歩さん、むちゃくちゃよかったです。

どのシーンでそれと気づいたかはっきりしませんが、最初の水揚げのシーンから町の人々の中にいたんでしょうね。

山田真歩さんを印象深く知ったのは「アレノ」ですが、一段と俳優として成熟している感じがします。茜(貫地谷しほり)が豊和を取り戻しに来たと知ったときの顔が一瞬にしてまさに鬼の顔に変わっていました。

前半の息もできないくらいの緊迫感はこの山田真歩さんによって作り出されています。

前半のシナリオもよくできています。生みの母がわが子を連れ戻しに来るという程度のことまでは知っていましたので、映画の中でやってくるのかと思っていましたら、もうすでに茜はその町の食堂で働いていました。

で、その茜が町の人々にも好かれている様子ですので、ん? どういうこと? と思っていましたら、町への移住募集(かな?)で一年前にやってきたことなどが、説明的な台詞にならないよう結構うまく処理されていました。

子ども役の豊和くん、太鼓の練習をするシーンでしたか、最初の登場から不思議に印象深く、それは子役らしくないのに妙に自然体の存在感あるという意味なんですが、この映画のためにオーディションで選ばれた地元の子どもということです。

衒いのないオーソドックスなカメラ、編集、物語の運びもとてもよかったです。

と、前半はそれらがとてもいいバランスで処理されていて息をつく間もないほど集中できました。

鹿児島県長島町。佐藤茜(貫地谷しほり)は一年近く前に都会からこの島に一人でやって来て港の食堂で働いている。自身について語ることはほとんどなく、謎に包まれた存在だ。
一方、島で生まれ育った日野五月(山田真歩)は、夫の優一(永井大)、義母のミエ(木内みどり)、7歳になる里子の豊和(松原豊和)と平穏に暮らしている。五月はかつて不妊治療を行なっていたが、児童相談所から当時赤ん坊だった豊和を預かり養育してきた。日野夫妻は豊和の戸籍上の親になるべく、特別養子縁組の申し立てを行う。
しかし五月たちは思いもよらぬ事実を知らされる。豊和は7年前に東京のネットカフェで起きた乳児置き去り事件の被害者だったのだ。そして懲役1年執行猶予3年の判決を受けたという豊和の母親の名は、佐藤茜だった。(公式サイト)

ところが、五月が豊和の過去を知りたいと東京へ行こうとするその日、出かける前の気持ちの整理をつける(のだと思う)五月のシーンになんとも不釣り合いな音楽がつけられていたことで一気に冷めてしまいました(笑)。

なにー、これはホームドラマか!?

一度引き離された気持ちはなかなか戻らないもので(笑)、後半になりますと、五月が東京で茜を過去を辿っていくわけですが、ネットカフェのシーンも画がどこかうそっぽく感じられますし、児相の職員には個人情報を漏らしちゃだめでしょとツッコミを入れたくもなりますし、自殺のシーンのおもちゃもあまりにもくさすぎますし、茜が更生のために働いていた企業では会社の書類を五月に渡していいのか!? などとよくないところばかりが見え始め(笑)るという始末です。

多分、茜の過去をつくりすぎているからだと思います。もちろんこういうケースがないと言っているわけではなく、DVにしても、ネグレクトにしても、ああした映像を入れるよりも、今いる茜の苦悩として描くべきだということです。

その意味では、貫地谷しほりさん、そういうシーンが与えられていないので一概に俳優の問題ということではありませんが、DV、ネグレクト、乳児遺棄、服役、そして後悔(もっと重いもの)という、人間の視野がもっとも狭くなるだろう体験や行為をほとんど演じきれていません。

結局映画は、生みの母親と育ての母親を対立させ、そのどちらかに、とは言っていないにしても、子どもは皆で育てる、海が育てるという極めて観念的なところへ帰着させています。

映画的に完成度の高いものとするならば、また前半の茜の気持ちからいけば、ラスト近く、五月と茜が対峙する場面、茜は「でも豊和を返して」と言うべきでしょう。

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