さほど格差社会も人間の欲望も描かれておらず、サスペンスでもないのですが…
「見るべきか、見ざるべきか」なんて、大層な話ではありませんが、どうしようかなあと迷っていた思いを決断(?)させたのは、富豪の妻役バレリア・ブルーニ・テデスキさんです。
何と! 何と! あの「アスファルト」の看護師役のバレリア・ブルーニ・テデスキさんじゃないですか!?
ちなみに、バレリアさん、その名が示すとおり、あのカーラ・ブルーニさんのお姉さんです。カーラさんは、歌手でモデルで元フランス大統領のサルコジさんの妻です。CD持ってます。
サルコジさんは、来年の大統領選に再度挑戦するとか言っていますが、カーラ・ブルーニさんは、多分そんなこととは無関係なところにいるでしょうし、そうあってほしいですね。
監督:パオロ・ヴィルズィ
クリスマスイヴ前夜、イタリア・ミラノ郊外で起こったひき逃げ事故。これをきっかけに、経済格差のある3つの家庭に隠された秘密と欲望が浮かび上がる。投資ファンドで一攫千金を夢見る男。自分の居場所を見いだせない富豪の妻。愛に懐疑的な女子高校生。彼らは事故が起こったその晩、どこで誰と一緒にいたのか、真実を知る者は誰なのか? 細部まで練られた脚本と緻密な構成、一瞬たりとも目が離せないスリリングな展開、そして題名の真の意味が明らかになる衝撃的なラスト――。(公式サイト)
イタリアらしい映画で、楽しめると言えば楽しめるのですが、心に残るかと言えば、クエスチョンのつく、このところのイタリア映画です。
上に引用したのは日本の公式サイトのイントロダクションですが、率直に言って、これは日本人の考えた宣伝コピーで、そもそもそんな大層な話ではありません。もっと単純な、イタリア人が大人の余裕を見せたエンタテイメントだと思います。
経済格差などテーマになっていませんし、秘密や欲望が露わになったりはしません。衝撃の結末もありません。
そもそも人間の値打ちを図るような意図が映画にあるとも思えません。確かに、エンディングで、交通事故で死んだ人間の保険金が年収やら家族構成やらで計算されるというスーパーが入りますが、それは単なるチャンチャンというエンタテイメント的オチであって、そのことが3人、それまで3章にわたって描かれてきた3人、カルラ(バレリア・ブルーニ・テデスキ)、ディーノ(ファブリッツィオ・ベンティボリ)、セレーナ(マティルデ・ジョリ)の値打ちに波及するような意味合いなど全くありません。
夏のある一日と、クリスマス前のある一日、その日の出来事を上の3人の行動を通して描いていくという手法、つまり、同じシーンが3人の行動を通して描かれるということになります。決して3人の視点で描いているわけではありません。映画の視点は常に物語を作る作者の目ですので、まあ単純に言えばカメラ位置が変わっただけです。
で、物語は、ある夏の一日、3人のそれぞれの行動が引き起こした出来事が、クリスマス前の一日にクライマックスを迎え、その後、いつだかは分かりませんが、3人それぞれにオチがついたというお話です。
正直なところ、同じ時間軸を3回繰り返して描いていることにさほど意味は感じられず、そのことが逆に、サスペンスにしたいのであれば、逆効果になっています。
思うに、これは多分、あのイタリア的な、エンタテイメントにこそ哲学がある的な映画なのではないかと思います。