そんなには褒めないよ。映画評

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残像

アンジェイ・ワイダ監督の遺作、心に残る映画です

2017/06/28

見終わって帰る足取りが重くなりました。

これ、映画としてはもちろん褒め言葉、内容的には、何というのでしょう、むちゃくちゃ重いシーンがあるとか、ドーンと心に響く(響きますが…)とかではなく、そうですね、過去の出来事だとか、他の国のことだとかと距離を取って見られない空気を今の日本に感じるからということかもしれません。

昨年の10月9日に亡くなられたアンジェイ・ワイダ監督の遺作です。90歳でした。

監督:アンジェイ・ワイダ

第二次大戦後、ソヴィエト連邦の影響下におかれたポーランド。カンディンスキーやシャガールなどとも交流を持ち、情熱的に創作と美術教育に打ち込む前衛画家ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキ。しかし、スターリンによる全体主義のもと、ポーランド政府が要求した社会主義リアリズムに反発したため、芸術家としての名声も尊厳も踏みにじられていく。(公式サイト)

何の衒いもない、シンプルで隙きがなく余計なものもない、ストレートな映画です。

ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキというポーランドの画家であり美術理論家の1949年から亡くなる1952年までの4年間が描かれています。

上のリンクにもありますように、第二次大戦後、東欧がソ連の支配下に置かれていく過程で、芸術までもが全体主義のもと社会主義リアリズムしか認められなくなっていきます。そんな中、芸術(だけではありませんが)は自由であるべきとの信念で、亡くなるまで権力に抵抗し続け、芸術家としての名声はもちろんのこと、仕事や配給証(ないと生きていけないよう)まで奪われ、いわゆる転向しなければ死という中で最後まで信念を貫いたという方とのことです。

経歴などはググってもあまり情報がなく公式サイトの「ストゥシェミンスキについて」が詳しいです。

映画は、教鞭をとっている大学の野外授業(だと思う)から始まります。「ウッチ・ストゥシェミンスキー美術アカデミー」でしょうか、ウィキペディアにありました。

ウッチ・ヴワディスワフ・スチシェミンスキ美術アカデミー – Wikipedia

このシーンは、まだまだ自由の空気が感じられます。

つづいて、ストゥシェミンスキ(ボグスワフ・リンダ)が室内で絵を描いていますと、突然窓が赤に染まり室内も真っ赤になってしまいます。スターリンの描かれた赤旗が建物を覆い始めたからです。

ストゥシェミンスキは窓を開け、赤旗を破り、光を入れようとします。そして、その行為が当局に見咎められたストゥシェミンスキは、真っ赤に染まったその部屋から連行されてしまいます。

この映画をワンシーンで表したような象徴的なシーンです。予告編でも見られます。

その後は、学生たちの展覧会が破壊されたり、ストゥシェミンスキ自身が大学から追われたり、収入のひとつでもあった(ような)壁画が剥がされたり、妻とともに開設したウッチ美術館も閉鎖されたりと事態は悪い方へ悪い方へと進んでいきます。

結局収入の糧までも奪われてしまい、いっときレストランだかの壁画制作の仕事を得るもののそれも途中で解雇され、最後まで事態が好転することはなく、ストゥシェミンスキは亡くなってしまいます。

そういう映画です。

映像は一貫して美しく、常に絵画的な切り取り方が意識されているように感じます。撮影監督はパヴェウ・エデルマンさんという方で、カメラ位置がかなり意図的で、屋外のシーンの多くが地をはうような位置から仰角で撮られたり、連行されるシーンなど室内は俯瞰で撮られることが多い印象です。

ストゥシェミンスキ以外の登場人物としては、娘のニカ(ブロニスワヴァ・ザマホフスカ)の出番が多くかなり印象的です。

ストゥシェミンスキは、カタジナ・コブロという彫刻家と結婚して、上にも書きました美術館を一緒に開設したとのことですが、映画ではすでに離婚しており、妻は登場しませんし、映画の中頃に亡くなったとのシーンがあり、娘ニカがここで暮らしいいかとストゥシェミンスキのもとにやってきます。

このニカがかなり気丈なキャラクターとして描かれており、またブロニスワヴァ・ザマホフスカさんがとてもいい感じです。2002年生まれですから当時14歳くらいだったということですね。むちゃくちゃ良かったです。

もうひとりハンナ(ゾフィア・ヴィフワチ)というストゥシェミンスキに尊敬と好意を持つ学生が出てきますが、こちらは映画のファーストシーンで印象的な登場のさせ方をしていますので、あるいは恋愛対象としてもう少し扱いが重要かと予想して見ていましたが、結果としてはそれほどでもなく、編集の段階でカットされたシーンも多いのではと想像します。

このハンナ、ストゥシェミンスキの未完の著書『視覚理論』のタイプ打ちなどで協力したかどで拘束されるのですが、そのシーンがもうひとつ不明確でした。

すでに住まいの鍵をも与えられているハンナが、ある日、盗んだか無断で借りてきたかのタイプライターを持って必死の面持ちでやってきます。ストゥシェミンスキはかなり気落ちした状況にあり、「思った以上に事態は深刻だ」といった感じのことをつぶやきます。それを聞いたハンナは、なぜか(と見えた)突如怒って、持ってきたタイプライターを手にし鍵を机に叩きつけて出ていきます。そして、路上で待ち受けていた公安か秘密警察かに拘束されてしまいます。

ここはちょっと分からなかったです。多分何か省略されていますね。

ストゥシェミンスキのボグスワフ・リンダさんもいい感じでした。自信と威厳と、そして疲弊していく表情も良かったです。あまり本数は多くないようですが映画監督でもあるようです。

とにかくいい映画でした。

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「菖蒲/アンジェイ・ワイダ監督」ポーランドの田舎町の風景が美しく、おしゃれなローカルさがたまらない
ありがとう、トニ・エルドマン
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