夜明けの祈り

実話といいつつ、作られた物語性を強く感じる

アンヌ・フォンテーヌ監督、「オーギュスタン 恋々風塵」「ココ・アヴァン・シャネル」「美しい絵の崩壊」「ボヴァリー夫人とパン屋」と聞けば、ああと思い当たるのですが、なぜか一本も見ていません。

この「夜明けの祈り」は、マドレーヌ・ポーリアックという女性医師の実話にもとづく物語とのことです。

原題の「Les innocentes」は 「The innocents」でしょうから、「罪なき人々」といった意味でしょうか。

監督:アンヌ・フォンテーヌ

1945年12月ポーランド。赤十字に従事するフランス人医師マチルドは、見知らぬシスターに請われ修道院を訪ねる。そこでマチルドが目の当たりにしたのは、ソ連兵の蛮行によって身ごもった7人の修道女が、現実と信仰の狭間で苦しみにあえぐ姿だった。マチルドは困難に直面しながらも激務の合間を縫って修道院に通い、彼女たちの希望となっていく。(公式サイト

「罪なき人々」という意味であれば、生れてくる子どもたちのことを指しているのでしょう。

物語は、公式サイトから引用した上のあらすじの通り、第二次大戦末期、ポーランドに進駐したソ連軍の兵士が修道院に押し入り、修道女たちを強姦するという戦争犯罪を犯します。そして今、望まぬ妊娠してしまった7人の修道女が臨月をむかえています。

修道院の院長は、信仰上の理由なのか一般的な恥(と訳されていた)の意識なのかは分かりませんが、そうした一連のことが公になることを避けるため、外界との接触も厳しく避けているようで、修道女たちは日々大きくなってくるお腹を抱えて途方にくれているといった状態です。

朝でしょうか、祈りの儀式が行われている中、苦しみの叫び声が響き渡るところから映画は始まります。ひとりの修道女が思い余ってのことでしょう、修道院を抜け出し、うっすらと雪化粧した森の中を走り、遠く離れた赤十字病院に駆け込み、フランス人医師マチルド(ルー・ドゥ・ラージュ)をつれて帰ります。

駆けつけたマチルドは苦しむ妊婦を診察し、手術が必要と告げ、帝王切開で子どもを取り出します。元気な赤ん坊でしたので逆子だったのでしょう。

映画とは言え、往診カバンだけを持って駆けつけ、その場の触診だけで帝王切開を判断し、いきなり麻酔に消毒、そして切開という流れでしたので、ややびっくりしました。

とにかく、そんなわけで事情を知ることとなったマチルドがその後の何人かの出産を助けるという物語です。

そこに、院長(アガタ・クレシャ)の苦悩、副長のような立場のマリア(アガタ・ブゼク)との交流、そして赤十字での同僚医師サミュエル(ヴァンサン・マケーニュ)との恋愛などのエピソードが絡んできます。

扱っている内容がかなり重めな割には淡々としており、またマチルドを演っているルー・ドゥ・ラージュさんの落ち着いた演技のせいもあり、強く訴えられるというよりは、こういうことがあったんだよとお話を聞かされている印象です。

実話が元とはいっても、おそらく核となる事実を元に物語を組み立てたんだと思います。

その意味では、物語を組み立てることに主眼がいっているようですので、ひとつひとつの問題に対してのつっこみはかなり浅めです。

院長は、陵辱された事実や出産を隠し通すために、生れてきた赤ん坊を修道女の親元に預けたなどと嘘をついて森の中に置き去りにして(確か2人)殺してしまいます。それを皆が知る場面があるのですが、かなりあっさりめです。宗教的にも人道的にももう少し深く掘り下げるべきテーマではないかと思います。

実は院長自身も暴行されており、妊娠はしていませんが進行性の梅毒(と訳されていたと思う)で病に伏し、治療も受けず自らを罰するといった(かのような)設定はちょっとばかり安易ではないかと思います。

そもそものソ連兵の暴行にしても何とも中途半端な触れ方をしています。それがテーマではないのですから止めておけばと思いますが、マチルドが修道院から戻る途中にソ連兵に襲われ暴行されそうになり、それを上官が止めるというシーンを入れています。

問題はそういうことではないですね。戦争でのレイプというのは単に粗雑で乱暴な兵士が行ったということではなく戦争犯罪として捉えるべきことですので、こういうエピソードを入れるのは映画としてもかえってマイナスです。

それに、その後も3人(だったかな?)の子どもが生れますが、多くの修道女たちが子どもへの愛と執着をもつ描き方になっています。あれでいいんでしょうか?

それが暴行による結果であっても女性は生む子どもに母性を感じるということになってしまいます。実際にそうであるかどうかではなく、映画として、そうした描き方はどうなんだろうという疑問です。

ひとり授乳を拒否する修道女さんがいましたが、ここでもそれでバランスを取っているという安易さを感じます。

かなり厳しい内容になってしまいましたが、基本、映画はマチルドの物語だということでしょう。

ラストは、マチルドの提案で、生れた赤ん坊を町の孤児たちとともに修道院で育てれば誰の子どもか分からないのではということで、修道女と子どもたちが笑顔で写真におさまるというハッピーエンドになっていました。

おまけです。

マチルドの同僚で恋人的な役のヴァンサン・マケーニュさん、「メニルモンタン 2つの秋と3つの冬」以来でしょうか、久しぶりに見ました。製作年で言えば「エデンEDEN」以来ということになります。お気に入りの俳優さんです。

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