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ローサは密告された

(ほぼネタバレ)フィリピン スラムのリアリティは異次元の映画だが、その先は…

2017/08/23

つい最近、フィリピン マニラのスラムを舞台にした「ブランカとギター弾き」を見たばかりですが、スラムのリアリティという点では、この「ローサは密告された」は異次元です。

多分ドキュメンタリーを意識しているのでしょう。カメラがかなり動き回ります。それを意識して撮られています。

ブリランテ・メンドーサ監督、知りませんでした。カンヌで監督賞を受賞していますし、「囚われ人」ではイザベル・ユペールさんが出演しているんですね。早速、DVD借ります。

監督:ブリランテ・メンドーサ

4人の子どもを持つローサは、マニラのスラム街で小さな店を持ち、地元の人々からも好かれている。彼女と夫のネストールは家計の足しにするため少量の麻薬を扱っていたが、そのことが警察に見つかり逮捕されてしまう。ローサの子どもたちは腐敗した警察から両親を取り戻すべく奔走する。(映画.com)(公式サイト)

とにかく、リアリティの一点で見せる映画です。

出だしから30分程度はかなり集中させられます。ローサ(ジャクリン・ホセ)が息子カーウィンとともにスーパーマーケットに買い物に来ています。持ちきれないくらい大量にお菓子を買い込んでいます。レジでは、小銭が切れているので代わりに飴をと言われますが、ダメと引き下がりません。

このシーンだけでローサのキャラクターが印象づけられます。

このことはかなり映画的なことで、他の表現形態ではなかなか出来ないことですので、そのことからしてもいい映画ということでしょう。

その後も続きます。結局、お釣りは諦めるのですが、路上でタクシーを拾い、住まいの近くに来ますが路地には入れないと拒む運転手とのやり取り、雨の中を息子と二人で買い物袋を運ぶ様、街の顔なじみとのやり取り、そのふてぶてしさとも見える貫禄はまるでスラムの顔役のようにも見えます。

家に戻り、買ってきたお菓子を仕分けしつつ、クスリをやっている夫を非難しつつ、売人からクスリを買い付けています。

どうやら、ローサ一家はスーパーマーケットから買ってきたお菓子やら雑貨を小分けして売る商売をしており、その裏ではこれまた買い付けた麻薬を小分けして辺りの住人に売りさばいて生活しているようです。

この後、警察に踏み込まれ、夫ともども連行されていくのですが、この夜のシーン、ずっと雨が降っており、とても印象的です。スラムの雰囲気が無茶苦茶出ています。

これ、ドキュメンタリーじゃないですから、あの街の人々もエキストラですよね。うまく撮れています。

とにかく、警察に連行されるまでの30分くらい(でしょうか)は印象的です。

で、公式サイトのストーリーにも詳しいのですが、この警官たちの立ち振舞いが何やら妙で、しばらくは、この程度の悪徳警官はいるよなあなどと見ていたのですが、あからさまにローサに釈放する代わりにお金を要求しています。

ローサにはお金などありませんから、自分が麻薬を買っている売人を売ることになります。

結局、その売人も捕まり、警官たちは今度はその売人にお金を要求します。どうやら、この警官たちは麻薬犯罪を取り締まっているのではなく、20万ペソというお金が必要でやっている行為のようです。

ローサたちは正当な(?)方法で逮捕されているわけではなさそうで、それゆえなのか、かなり自由に振る舞っています。

で、その部屋からひとりの警官が出て、建物の周りをぐるりと回るようにして警察署の表玄関から入り、署長室へ行くシーンがあります。このシーンには、なにこれ?とかなりの違和感を感じさせるサスペンスタッチの音楽がかぶっています。

同じようなシーンがもう一度あったと思いますが、どうやらこの警官たちは、理由は分かりませんが、汚職行為をやっているらしく、その親玉が警察署長だということが分かってきます。

このあたり、物語の展開としてはかなりドラマチックなんですが、そのようにみせる意図はまったく持っていないようで、徹底的にドキュメンタリータッチを貫いています。

これが成功しているかどうかはかなり微妙で、この中盤の警官たちのシーンが正直あまり面白くありません。

理由は何でしょうね。

ドゥテルテ大統領関連のニュースを見たりしていますとこういうこともあるんだろうという気がしてさほどインパクトがないこととか、警官たちに存在感が足りないとか、シーンに緊迫感がないこととか、結局、映画が進めば進むほど膜が張ったように遠ざかっていく感覚、かなり抽象的な言い回しですがそんな感じがします。

ま、話としては、売人の妻まで呼び出され、結局15万ペソは確保され、残り5万ペソをローサたちが要求されることになります。

で、後半は、子どもたちが親戚に借りたり、テレビを売ったり、体を売ったりして4万5千ペソをかき集めるシーンになります。

後半は再び面白くなります。このシーンはすべて昼間になっており、これまでのシーンとは対照的で、それも面白いと感じるひとつの要素ではあります。

この後半で、ローサを売ったのは同じスラムに暮らす顔なじみの少年(だと思う)で、兄だったか弟だったかが逮捕され、それを助けるために取引したということです。ただ、これがこの映画の中で重要なことかと言いますとさほどでもなく、そもそもローサも売人をいとも簡単に売っているわけで、映画はこのことに重点を置いてはいません。

じゃあ何に重点を置いているか?

正直、よく分からないのですが、多分、スラムのリアリティにこだわったドラマということしかないように思います。

それ自体はかなり成功しており凄いなあと思いますが、そこから果たして何が見えてくるかといいますとそれがはっきりしないというのがこの映画です。

ただ、昨年のカンヌで、ローサを演じたジャクリン・ホセさんが女優賞を受賞している通り、ローサだけではなく、どこか捨てがたい映画であることは間違いありません。

ラストは、ローサ自ら、残りの5千ペソを何とかするとひとり警察署を後にし、スラムに戻り、途中、キキアム(魚のすり身を揚げたもの)という串ものを口にするカットで終わります。ローサの顔には汗なのか涙なのか、何やら頬をつたうものが…。

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