全員ミスキャストに見えてしまう、それは監督の責任

河瀬直美監督の「」をついこの間見たばかり、といっても、もう半年くらい前ですね。

予告を見て、ん?光?と記憶に残っていたのと大森立嗣監督ということで足を運びました。こちらは、三浦しをんさんの原作があるようです。

光 (集英社文庫)文庫 – 2013/10/18 三浦しをん

読んでいないのですが、読書メーターとかをざっと見ますと、「暗い」「重い」「暴力」「悲劇」などの言葉が溢れています。そういうの嫌いじゃないですから期待ですね。 

監督:大森立嗣

三浦しをんの作品群で徹底的に人間の闇を描きファンを中で特別な評価を得ている一作「光」が大森立嗣監督の手によりついに映画化。井浦新、瑛太のふたりの狂気と怪物性、そして長谷川京子、橋本マナミの色気と母性が情熱を放つ苛烈なる人間ドラマが誕生した。(公式サイト

全然、暗くも重くもなく、暴力(の熱)も悲劇(の連鎖)もないんですけど…。

どうなっているんでしょう?

もちろん、殺人は描かれますし、暴力的なシーンもあります。なのに、まるでテレビの中の出来事、そうですね、茶の間(うちにはないし見ないけど(笑))で見る2時間ドラマのような軽さで人が死に、日常会話のように復讐や憎悪が語られていきます。

今の世の中、人を殺してみたかったとか傷つけてみたかったといった理由で殺人や傷害事件が起きるわけですから、もし殺人の軽さを描こうとしたのであればそれを否定しているわけではなく、そうした映画があれば評価されるべきかと思いますが、この映画は、25年の時を経てもなお消えない情念(のようなもの)が様々な出来事のベースとなっているわけですから、この軽さはまずいでしょう。

物語はさほど複雑ではなく、東京都の離島(映画ではわからなかった)美浜島で暮らす中学生の信之と美花は、セックスを伴う付き合いをしており、その日も神社で会う約束をします。しかし、信之が神社へ行ってみますと、美花は見知らぬ男と体を重ねています。美花の「助けて」「殺して」との言葉で、信之は男を殺してしまいます。

この二人の描き方がかなり中途半端で、結局それが後々まで尾を引いて訳の分からない映画になっているということです。公式サイトから引用しますと、

東京の離島、美浜島。中学生の信之は記録的な暑さが続く中、閉塞感のある日々を過ごしている。美しい恋人の美花がいることで、毎日は彼女を中心に回っていた。

という感じが全く感じられません。

暑さも、熱さも、閉塞感も感じられずあっさりしたものです。信之の美花への執着がこの映画の軸であるはずなのにです。

それに、美花の相手の男の台詞も演技もひどすぎます。この男、何言ってんの?って感じがしますし、殺人シーンも適当で、ちょっとは抵抗しろよ!ってことです。

物語を作っていくべき(だったんだろうと想像する)もうひとつの25年前の美浜島での怨念(?)に、信之を慕う弟のような輔(たすく)が父親から虐待を受けていたということがあるのですが、これ、私が見落としているのか、全く分かりませんでした。

確かに、輔は擦り傷やらのケガをよくしていることは言われていましたが、私は学校のいじめだと思っていました。それに、美浜島でその父親って出てきましたっけ?

まあ、そうした人間関係の中、ある日、地震が起き、津波がやってきて、美浜島の住人ほとんどが亡くなってしまい、たまたま高台にいた3人は生き残ることになります。

そして25年後、川崎市役所に勤める信之(井浦新)は結婚しており、妻南海子(橋本マナミ)と3,4歳の娘と暮らしています。美花は、篠浦未喜という女優(長谷川京子)として成功しています。輔(瑛太)は、解体屋のようなところで働いています。

と、舞台は整い、役者は揃ったということなんですが、この後に起きる様々なことが、かなりもたもたしておりイライラがつのります。

概要を書きますと、輔は25年後にやっと信之を探し出したのだと思いますが、美浜島での殺人の写真をネタに、まず美花を脅します。同時に、南海子を誘惑し不倫関係になります。美花は信之にお金を渡し輔を何とかしてと頼みます。ある日突然、輔の父親(平田満)が輔のもとにやってきて居着いてしまい、証拠の写真も父親の手に渡ってしまいます。信之は、輔に写真を探し出せと命じ、同時に父親を殺す算段をします。ところが、父親が飲み過ぎ(?)であっけなく死んでしまいます。で、あれ?なぜでしたっけ?(忘れてしまいました)、信之は輔を殺します。しかし、輔はそれを予想し、事前に事の真相と証拠の写真を南海子に送っておいたということです。

何、この、よく分からない話?

おそらくですが、こういうことじゃないでしょうか。

輔は、父親からの虐待もあり信之を慕う気持ちが異常に強く、信之を探し続けてきたのでしょう。25年後、やっと探し出したものの、屈折した気持ちから素直に会うことはできず、妻の南海子を誘惑し不倫関係になることや美浜島の殺人で脅したりすることで、25年前のように信之と繋がろうとしているのだと思います。

信之は、ごく普通に見える生活を送っているようにみえますが、美花への異常で強い執着を断ち切ることはできずに、現実生活にリアリティを感じられない人物なんでしょう。

美花は、異常に男を引きつける魅力があるのでしょう。

そして、そのすべてが25年前のあの美浜島の濃密な夏の日から始まっているという、そういう物語なんだと思います。

もしそうしたことを描こうとしていたとするならば、残念ながら、それは全く感じられず、もし見たとおりのあっさりした2時間ドラマ的殺人事件をやっているとするならば、そもそも見るべき映画を見誤ったということです。

結果的に全員ミスキャストに見えてしまうのは、やはり監督の責任でしょう。

光 (集英社文庫)

光 (集英社文庫)

 
光

  • 発売日: 2018/05/02
  • メディア: Prime Video