シェイプ・オブ・ウォーター

偏見や差別をはねのけることができるのは、やはり「愛」

この映画、アカデミー賞の13部門でノミネートされているそうですが、主演女優賞のサリー・ホーキンスさんは是非とも受賞してほしいですね。おそらく、彼女でなければ映画そのものがこの出来にはならなかったでしょう。

もうひとり目立つのが悪役をやっているマイケル・シャノンさん、残念ながらノミネートされていませんが、こちらも賞に値する演技です。

映画自体も、ファンタジーものには必須のシンプルさとテンポの良さで最後まで集中して見られます。

そして何より、この映画は、今世界中に蔓延する「偏見」と「差別」に対して、皮肉を込めた心優しきメッセージでもって静かなる抵抗を示しています。 

監督:ギレルモ・デル・トロ

公式サイト

声を出せなく手話でしかコミュニケーションをとれないイライザ(サリー・ホーキンス)、最も偏見に晒されやすい見た目が異形の半魚人(ダグ・ジョーンズ)、ゲイの隣人ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)、イライザを助ける黒人の友人ゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)。

こうして主な登場人物をみてみますと、皆、社会的に偏見と差別に晒されやすい人たちばかりです。さらに、職業の点でも、イライザとゼルダは清掃員であることで見下され侮辱されます。

差別する側は、といえば、典型的な50年代、60年代のアメリカ社会として描かれてはいますが、人を侮辱するひどい言葉、男尊女卑、職業差別、エリート優遇社会、硬直したシステム、どれをとっても今の現実社会と変わりありません。

そしてまた、この映画は、類型化した「美しさ」という概念をも拒否しています。

物語の骨格は「美女と野獣」的おとぎ話の世界観なんですが、イライザがシンデレラになることも、半魚人が変身することもありません。二人の愛はあるがままの姿で貫かれます。

という映画なんですが、ただ、それをことさら前面に出そうとしているわけではありません。基本的にはファンタジー・ラブストーリーです。

イライザと同僚ゼルダはアメリカ政府の極秘研究所(と公式サイト)で夜間の清掃員として働いています。夜間といっても研究所は昼夜関係なく稼働しているようでたくさんの研究員や清掃員が働いています。

ある日、その研究所にアマゾンの奥地で捕らえられた、現地の人たちが神と崇める半魚人(以下、「彼」)が警備責任者のストリックランド(マイケル・シャノン)とホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)と一緒にやってきます。

時は、ソ連との冷戦下であり、宇宙競争時代です。政府は「彼」を何らかの実験に使えないかと考えているようです。

という設定の映画ですが、なんせファンタジーですので、辻褄が合わないところはたくさんあります。でも、ほとんど気になりません。 

テンポがよく、展開がとても早いのです。それにカメラワークがうまいといいますか、カメラが常に動いていますので流れるように進んでいきます。ハンディで動くということではなく、(おそらく)ドリーやクレーンを使っているんだろうと思いますが、ひとつひとつのカットの中でズームやパン、ティルトも含め、動いていないカットはなかったのではないかとの印象です。それにかなり広角のレンズを使っていたように思います。

水中にいる感覚を出したかったのかもしれません。

始まってしばらくは、動き回るカメラに目がついていかず、人物を見なくちゃいけないわ、背景(に何があるか)を見なくちゃいけないわ、字幕は読まなくてはいけないわでかなり大変でした。

で、物語ですが、イライザはその「彼」に興味を持ち、そして惹かれ、ついには愛するようになります。こっそり食事(ゆで卵)を与えたり、音楽を聞かせたり、そして簡単な手話で意思を伝えようとしますと、「彼」は即座に理解し手話をまねるなど、イライザには安心して気を許すようになります。

一方、ストリックランドは、強圧的な人物ですので、最初から「彼」を服従させようとしたのでしょう、指2本を噛み切られます。それもあって、「彼」の生体解剖を主張します。

担当の科学者であるホフステトラー博士は、実はソ連のスパイです。秘密機関の指令で「彼」を生きたまま強奪しようと目論んでいます。

生体解剖の計画を知ったイライザは、「彼」を救い出すことを決心し、ジャイルズに協力を求めます。しかし、ジャイルズには出かける予定があり、また根が臆病であることもあるのでしょう、そっけない態度を示します。イライザの必死さは次第に体全体の表現になります。言葉では表現しきれない感情が溢れ出ます。ジャイルズが手話で語るようにと言うたびに手話に戻るのですが、すぐに体全体の表現に変わってしまいます。

このシーン、イライザの必死さに涙が溢れ出てしまいました。

兎にも角にも、計画は実行され、イライザはジャイルズとゼルダの、そして正義感からなのか後に強奪しようと思っているのかははっきりしませんが、ホフステトラー博士の協力も得て、自宅アパートに連れ出すことに成功します。

しかし、「彼」が地上で暮らすことはできません。イライザは、桟橋の水位が上がる雨の日に「彼」を海に帰す計画を立て、その日までつかの間の幸福を味わいます。

今思い返してみますと、この映画、「彼」を助け出してから海に帰すラストまでが意外に長く描かれており、そこに至る二人が心を交わすまでのシーンはあまりなかったですね。イライザは最初から「彼」を恐れませんし、すぐにゆで卵を持っていきますし、その後の救出するまでの二人のシーンも2シーンぐらいだったと思います。

そういえば、助け出してからの二人のシーンも2シーンくらいですね。あまり描くことがなかったんでしょうか(笑)。その代わりなのかわかりませんが、ホフステトラー博士とソ連の秘密機関の人物のシーンやジャイルズと彼をクビにした会社の上司とのシーンがいろいろ描かれていました。結構笑えるシーンもあり飽きることはありません。

それに、イライザとジャイルズのアパートは映画館の上にあり、上映されている映画の音声が常に流れていたり、「彼」が映画館で映画をみているシーンがあったり、50年代、60年代の映画と思しき映像がいろいろ使われていたように思います。

音楽も、ジャズのスタンダードっぽい曲が使われていました。音楽担当はアレクサンドル・デスプラさんという方で、経歴をみてみますと結構見ている映画の音楽をやっている方ですね。

で、物語は、ラスト、「彼」を海へ逃そうとするイライザたちと追い詰めるストリックランドとの緊迫する場面の後、波止場での対決となります。

結局、イライザと「彼」はストリックランドに撃たれますが、「彼」は不死身ですので、死んだかと思いきや、おもむろに立ち上がり、逆にストリックランドを一撃のもと喉を掻き切ってしまいます。

しかし、イライザは人間、生き返ることはなく、「彼」はイライザを抱えて海へ帰っていきます。

きっとイライザは幸せに暮らしたに違いないとのジャイルズのナレーションが入り、映画は幕を閉じます。

パチパチパチ、いい映画でした。ファンタジー系の映画をあまり好きではない私でも心から楽しめる映画でした。

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