母との約束、250通の手紙

シャルロット・ゲンズブールが浮き、バランス悪さだけが目立つ

シャルロット・ゲンズブール、憑依型俳優に目覚めたか!?

というような映画で、ゲンズブールさんが悪魔に取り憑かれたような母親を演じています。ロマン・ガリーというフランスの小説家の半生を描いており、その母親がゲンズブールさんです。

母との約束、250通の手紙

母との約束、250通の手紙 / 監督:エリック・バルビエ

原題は「La promesse de l’aube」で、ロマン・ガレーの自伝小説『夜明けの約束』そのままのタイトルです。

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  • 作者:ロマン ガリ
  • 出版社/メーカー: 共和国
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  • メディア: 単行本
 

邦題の「母との約束、250通の手紙」のほうは内容を説明しているようで実はかなり的外れなタイトルです。たしかに手紙自体は映画のオチにはなっていますが、250通もという数に重きが置かれているわけではありませんし、映画全体からみても重要な要素ではありません。

冒頭、メキシコのシーンから始まったのには意表を突かれました。

なぜメキシコにいたんでしょう?

最後までわからずじまいですが、とにかく、メキシコシティーから何百キロっていっていましたか、そこのホテルで妻がガレーの部屋のドアをノックするも応答がなく、ホテルマンがドアを開けて入りますとガレーが倒れており、こんなところで死ねない、メキシコシティーへ行くとかいって妻とともにタクシーでメキシコシティーへ向かい、その車中で妻がガレーの原稿『夜明けの約束』を読むことで過去へ入っていくという流れです。

導入としてはかなり引き込まれましたが、結局最後までメキシコのシーンは意味不明でした。

1924年、ロマン・ガレー10歳くらい、現在はバルト三国のリトアニアですが、当時はポーランドのビルニュスから始まります。第一次世界大戦が1918年に終わったばかりです。

物語は細かく書く必要のないくらい一本調子で単調です。ニーナ(シャルロット・ゲンズブール)はロマンに、とにかくむちゃくちゃ異常なほど入れ込んでいます。

その理由がわかりません。それを描かずして何をしたいの?と思いますが、初っ端からニーナのロマンへの対し方は病的です。いうなれば精神的虐待です。10歳の子どもに向かって、いつも興奮状態で、あなたはフランス大使になる、有名な作家になるなどと言い続けるのです。

これは演出ミスだと思います。

ゲンズブールさんのインタビューエリック・バルビエ監督のコメントを読みますと、ゲンズブールさんがニーナを演じるにあたって、実際にタバコを吸い始めたり、体型を崩す必要があると考えたり、ポーランド訛りのフランス語にこだわったりしたとの記事があります。

記事をそのまま受け取れば、そうした役作りへの思い込みの強さがそのまま映画に出ています。最初から最後まで一本調子でそのままのキャラクターです。

始まってしばらくはすごいなあと見ていても、10分、15分すれば飽きてきます。またこれ? といった感じで、どんな人間でも違う面があるでしょうと思い始めます。

私には、ゲンズブールさんの思い込みを監督が抑えきれなかった結果の映画だと思います。

ビルニュスでは経営していたメゾンに失敗しフランスのニースに移ります。ニースではホテルの経営をするようになります。こうした生活面のことはあまり詳しく描かれず、印象としては人をうまく使って渡り歩いているといった感じの人物に描かれています。

ロマンは、年齢により3人で演じ分けられます。意外にも一貫してニーナに従順です。従順というよりも素直です。時々、反発したり反抗したり鬱陶しがったりはしますが、母親の愛情を疑ったり、拒絶したりすることはありません。

映画的には、本来ならそうした母の束縛がロマンの苦悩となっていくべきだと思いますが、そうしたシーンは少なく、結構素直に成長していくじゃないと思います。ですので、常にニーナだけが浮いた状態でとてもバランスが悪いです。ニーナはひとりなのにロマンは三人で演じられていることにも原因があるかもしれません。

大人のロマンを演じているピエール・ニネさん、きりっとしすぎです。あの母親であんなに真っ当に育ったのであれば何も問題ないんじゃないと思います。映画の中盤ではフランス軍の将校として英雄的な活躍シーンまで描かれます。

母親から離れようとしても、母親が(精神的に)離さないとか、自分自身も断ち切れないとか、離れようとするとパニックに陷るとか描き方はいろいろあると思います。もちろんそれはあの母親ならばという話で原作がどうであるかはわかりません。その点で演出ミスではないかと思うということです。

とにかく、そんな感じで、どう考えても異常と思える母親と意外にも素直な息子という関係で映画は進み、あれ? 250通の手紙はいつ出すの? と思い始めた頃、アフリカ戦線だったかと思いますが、ロマンが書き上げた『白い嘘』(だったかな?)がイギリスで出版されることになり新聞記事になります。どうやらそれまでもニーナからは頻繁に手紙がきていたらしく、その時の手紙には全く新聞記事について書かれていないことに奇妙だと思うシーンがあります。

そして戦争が終わり、ロマンはニースの家に戻ります。しかし、そこには見ず知らずの者が暮らしており、以前糖尿病で入院していた病院に行くもそのベッドには知らない男が寝ています。

このあたりのつくりもかなり雑ですが、まあとにかく、担当の医師を訪ねますと、母親は3年前に亡くなっており、手紙は書き溜めたものを知人に出してくれるよう頼んで亡くなったということです。

間違っても、「その手紙は5年間、毎週届き続けた。戦地で戦っているときも、生死の境目をさまようときも。しかし、その250通にも及ぶ手紙には思いもしない秘密が隠されていたのだった……。(公式サイト)」という映画ではありません。私が落ちていなければですが。

エリック・バルビエ監督さんのこのコメントにつきます。

しかし、僕はそれに反対だった。絶対にうまくいかないし、非現実的だと彼女を説得しようとした。でも彼女は引かなかった。(cinemacafe.net) 

ちなみに、メキシコ編でのロマン・ガリーの体調の悪さは自分からパンを耳の中に入れていたの原因でした…(涙)。

え? ほんと? 見間違えているかもしれません(?)。

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