愛について、ある土曜日の面会室/レア・フェレール監督

長編デビュー作でこの映画が撮れますか!28歳にしてこれだけ多様な人間たちが描けますか!

長編デビュー作でこの映画が撮れますか! 2009年の作品ですから、当時28、9歳にしてこれだけ多様な人間たちが描けますか! すごいですね。


映画『愛について、ある土曜日の面会室』予告編

3つの物語が同時進行していき、ラスト「ある土曜日の(刑務所の)面会室」でそれぞれがひとつの結末をむかえます。

サッカー少女ローラ(ポーリン・エチエンヌ)は、バスの中で出会った少年アレクサンドルと恋に落ち、警官への暴行容疑で逮捕された彼に面会に行きます。ローラは望まぬ妊娠をしています。

アルジェリアで暮らすゾラ(ファリダ・ラウアッジ)は、息子がマルセイユで同世代の青年に殺されたとの知らせを受け、悲しみに暮れながらも、なぜ殺されたのかを知ろうとマルセイユに渡り、加害者の姉セリーヌに近づき、代わりに青年の面会に行くことになります。

真面目だが不器用なステファン(レダ・カテブ)は、仕事も恋人との間もうまくいかず悶々としていますが、ある日見ず知らずの男ピエールから、自分とそっくりな男が刑務所に入っており、多額の報酬と引き換えに男と入れ替わることを持ちかけられます。悩んだ末受け入れる決断をしたステファンは刑務所へ向かいます。

これらの3つの物語の設定がとにかくうまいです。それぞれ主役となる人物自体も魅力的ですし、3人のバランスもいいです。また主役に絡んでくる脇の位置づけの人物が、物語の構成上とても効いています。

ローラは未成年のため、ひとりでは面会に行けません。母親に同行してもらうわけにもいかず、偶然雨宿りした献血車の医者に頼み込みます。彼がなぜそんな面倒なことを引き受けたのかは語られるわけではないのですが、幾度か面会に立ち会ううちに(ローラだけはある土曜日以前に何回か面会に刑務所を訪れるシーンがあります)、イライラ感のつのるアレクサンドルの八つ当たりの対象になったりと、次第に妙な大人の存在感が生まれたりして、結果的にローラの決断を促すような立ち位置に置かれることになります。

大切な息子を殺されたゾラの表情は、当然ながら終始険しく、一方、加害者の姉セリーヌも相当弟を大事にしていたようで、突如感極まって泣き崩れたりとやや情緒不安定気味であり、そんな二人の出会いから、セリーヌがゾラに子守を頼み、互いに打ち明け話をしたりする過程は、結構ひやひやし、緊迫感が漂っています。二人の弱さと強さが交錯しながらの展開はかなり引き込まれ、特にゾラが面会に行く直前にセリーヌがゾラの素性を知るシーンはみごとです。

ステファンに入れ替わりの話を持ってくるピエールは、その内容からして相当あぶない人なんでしょうが、本人はそこそこ紳士的で、数人の子分らしき男たちを従えていることもありますが、それほど悪党とも思えないところもあり、これが結構うまい設定です。彼が何者なのか、刑務所に入っている男とどんな関係なのか全く語られません。ステファンの決断力のない優柔不断性と程よいバランスの人物像で、ステファンが最終決断に向けて変化していく様にリアリティをもたらしています。

ジャンル的には一種の群像劇と言えますが、面会室という場は共通していてもそれぞれが絡み合うことはなく、3つの物語を同時に見ている感じです。ラスト、抑え気味のクライマックスも程よい感じで後味はいいです。

ただ、冒頭にラストシーンのカットを使っており、これがあまりうまくなく、前半のもたつきの原因になっています。普通に始めても充分引っ張っていく力はあるのにと残念でなりません。

脚本はカトリーヌ・パイエさんとの共同になっていますが、多分ベースとなるものはレア・フェレール監督自身のものでしょう。これだけのものが書け、撮れるということは人間の観察眼が優れているということだと思います。