勝手にふるえてろ

意外にヨシカは健全じゃないの?

綿矢りささんと金原ひとみさんが19歳と20歳で芥川賞をダブル受賞し騒がれたのが2004年初めですから、そろそろ14年になります。芥川賞も、意図的かどうかは別にして、時々世間を騒がす(笑)ことをやらかしますが、この二人の受賞時もすごかったです。

ご多分に漏れず私も文藝春秋を買って読みましたが売り切れ続出だったと思います。

ただ、綿矢さんのその後の記憶は、受賞後、次の作品が出ないなあというものだったのですが、ちらっとググってみますとスランプに陥っていたようですね。

で、この映画の原作「勝手にふるえてろ」は、2010年発表の作品です。

監督:大九明子

原作は芥川賞作家綿矢りさによる同名小説。十八番とも言える毒舌さえわたる切れ味のいいモノローグで女性のリアルな感情を描き高い評価を受けている。監督は現代の女性を優しい視線で描いてきた大九明子。(公式サイト

監督の大九明子さん、なぜか名前は知っているのですが、作品を見るのは初めてです。意外と年齢いっている方(49歳)なんですね。もう一回りくらい若い PFF出の監督が撮っているのかと思って見ていました。

この映画、公式サイトでも「ラブコメ」という言葉で紹介されていますが、本来ならば、主人公ヨシカにとってみれば、どちらかといいますとシリアスな物語なのではないかと思います。

「本来ならば」というのは、原作はもっといやらしい感じじゃないの(読んでないけど)ということなんですが、映画の中のヨシカは極めて健全で、それはヨシカを演じている松岡茉優さんに欠点が感じられないことや演出のキレが良すぎるということから来るのですが、つまり、「ヨシカ、ほんとはイチのこと思い続けていないでしょ、自分にそう思い込ませているだけでしょ」という言葉が浮かんでしまうということです。

「イチ」という10年間思い続けている脳内恋人と、告白してきた同僚の「二」の間で揺れ動く24歳の女性の本音と、ん?なんだろう? 建前じゃないですね。ヨシカは建前で生きているわけじゃないですし、結構同僚のくるみにはズバズバ喋っていましたし、内気にも見えませんでしたし、ああ、そうですね、ほとんどヨシカの本音が映像化されている感じでした。

ヨシカ、結構本音で生きてるじゃんということです。 

物語としては、ヨシカが策略をねって同窓会を開き、その後東京に出てきている者だけの食事会を計画し、運良くイチと二人きりで話す機会ができ、互いの趣味でも盛り上がりますが、イチがヨシカのことを「キミ」と呼ぶことが気になり、尋ねてみますと「なんて名前だっけ?」と返され、あえなく撃沈ということになります。

え? 12年間思い続けてきて、何でそんなことで諦めちゃうの?

という感じがします(笑)が、とにかく、それが理由というわけではないにしても、その後、あれやこれや、嘘の妊娠告白で休職することになり、いったんは二とも断絶してしまい、誰も構ってくれなくなって寂しくなったヨシカは、二を呼びつけ、二と口づけをかわすという結末です。

何じゃそれ(笑)? とは思いますが、まあ普通でしょう。

映画のつくりはうまいです。いろいろなアイデアを駆使して面白く見せています。

ただ、本当に映画として面白くするには、もうひとつ突っ込んで、もっとヨシカを嫌なやつに見せることでしょう。

勝手にふるえてろ (文春文庫)

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蹴りたい背中 (河出文庫)

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