フリークスアウト

異形のサーカス団対ナチスのバトルを描く空想冒険活劇

前作が日本のアニメ「鋼鉄ジーク」(原作:永井豪)をモチーフにしたダークヒーローもの「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」だったガブリエーレ・マイネッティ監督、その長編二作目は異形のサーカス団員とナチスの戦いを描いた空想冒険活劇です。

面白かったです(笑)。

異形のサーカス団

場所はイタリア、時代は第二次世界大戦のさなかです。イタリアにナチス・ドイツが侵略者として登場しますので、ドイツや日本と同盟を結んでいた枢軸国のイタリアでなぜ? とは思われるかも知れませんが、イタリアは1943年9月8日に連合国側に降伏したために、その後ナチス・ドイツが一気にほぼ半島すべてを占領したということです。

ユダヤ人の団長イスラエルが率いる5人だけのサーカス団「メッツァ・ピオッタ(100リラ硬貨の半分の意味)」の公演シーンから始まります。

トレーラーで団員4人の技?(術?)が見られます。

左から電気を発する光の少女マティルデ、触れると感電しますのでゴム手袋をしています。怪力男フルヴィオは多毛症で馬鹿力を発揮します。チェンチオは虫を自由に操ります。トレーラーにもありますが光を放つ虫はホタルということなんでしょうか。そして磁石人間のマリオ、体中にナイフやフォークをくっつけたりします。磁気を自由に出すことができるということで引きつけたナイフやフォークを解き放ちナチスをやっつけます。

という4人の冒険活劇です。

映画冒頭のサーカスの興行中にドイツ軍の爆撃があり、テントや道具が吹っ飛んでしまいます。団長のイスラエルはアメリカへ行こうと提案し、その手立てをするために皆のお金を集めて旅立ちます。しかし、なかなか帰ってこず、マティルデがドイツ軍に捕まったに違いないと心配しているにもかかわらず、他の3人はお金を持ち逃げしたんだと主張し、仕事を求めてベルリン・サーカス団を目指すことになります。

フリークアウトなドイツ人フランツ

ベルリン・サーカス団を率いるのは6本指を持つフランツ(フランツ・ロゴフスキ)です。

このフランツを演じているフランツ・ロゴフスキさん、結構注目している俳優さんで「未来を乗り換えた男」「希望の灯り」「水を抱く女」と見てきています。寡黙な役柄が似合う俳優さんですが、この映画ではちょっと危ない(フリークアウト)人物を演じています。こうした役もよく似合います。

フランツ率いるベルリン・サーカス団はフランツの、おそらく両手6本指による超絶ピアノ演奏が売りなんだろうと思います。フランツの演奏シーン以外のサーカスシーンはありません。演奏している曲はレディオヘッドの「Creep」とガンズ・アンド・ローゼズの「Sweet Child ‘O Mine」だそうです(IMDbから…)。どちらのも1980年代のグループです。

このフランツにはナチスの将校の兄がいます。フランツはその兄に対してかなりの劣等感を持っているようです。奇形のためにナチスに入党できないということじゃないかと思います。

フランツには未来が見えるという特殊才能があり、ナチスの敗北、没落、そしてヒトラー総統の自殺まで暗に予想しています。その未来を覆すためにはメッツァ・ピオッタサーカス団の4人、中でもマティルデが必要だと考えています。

そして、最終バトル…

140分というちょっと長めの映画ということもあり中盤に何があったか細かくは記憶していません(笑)。それでも飽きずに見られていますので成功している映画かと思います。

中盤で重要なことはレジスタンスの一団が登場し、マティルデを助けたりするなかで、レジスタンスのリーダーがマティルデにその能力でナチスをやっつけろと頻りに言うのですが、マティルデは自分の能力を人を殺すことに使うことを頑なに拒みます。しつこく迫るリーダーに、マティルデはそのわけを絞り出すように言い放ちます。「母を殺したの!」おそらく自分の能力に気づいていない幼いころにちょっとしたことで怒りが爆発し、それが母親に向かったのではないかと思います。

マティルデの能力は平常であれば電球を口にくわえたり手に持ったりすると点灯するくらいですが、何らかの怒りが増幅すると全身が発電所のようになり膨大なエネルギーを発します。

そのひとつ目、マティルデと3人はフランツに捕まり、焼き殺されるかというときに、その超能力を爆発させ拘束されていた部屋のドアをぶち破り、その際にフランツも吹っ飛びます。

そして最終バトルです。逃げ出した4人は、イスラエルが他のユダヤ人と一緒に列車で収容所に送られていく後を追い、追いつき助け出そうとします。そこに兄の制服を奪って(殺しています…)ナチス将校になりすましたフランツが駆けつけ最終バトルです。

この最終バトルシーンは結構長く見せていました。エキストラもたくさん使っていますし、かなり力を入れて撮ったシーンじゃないかと思います。そしてクライマックスです。それまで自分の能力を人に向けることを拒んできたマティルデの怒りが増幅し始め、体中から熱を発し、そしてついに爆発! ナチス・ドイツの兵隊たちを焼き尽くしてしまいます。

生き残ったフランツは、おそらくヒトラーがそうしたと思われる方法で自らのこめかみにバカ長い銃身の拳銃をあて自殺します。

そのバトルの最中にイスラエルは撃たれて亡くなっています。サーカス団と団長を失った4人はどこへ行くのでしょう。

マイノリティは自由を求める

基本、ヒーローは弱いものの味方です。この映画には明確なヒーローは登場しませんが、マティルデがその役目をになっています。ガブリエーレ・マイネッティ監督が「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」で描いたヒーローはどこか弱々しく、そして心やさしき人物です。同じような意味でマティルデも自分の超能力で人を殺すことを拒む心やさしき人物です。しかし、どうしても戦わなくてはいけないときには怯むことはありません。ナチス・ドイツに相対する集団を連合軍ではなくレジスタンスとしているものそうした意味合いがあるような気がします。

エンドロールに何枚ものデッサン画が映し出されます。映画のなかでフランツがなにかに憑かれたようにデッサンしていましたが、その流れのデッサンということだと思います。10枚くらいはあったと思います。反アパルトヘイトの闘士マンデラさん、ボクシングのモハメッド・アリ、天安門事件で戦車の前に立ちはだかった無名の戦士などなど、おそらく自由を求めて戦う人々というコンセプトで描かれたものなんだと思います。

などということは私の妄想かも知れず、とにかく楽しい映画でした。

なお、1932年に作られたアメリカ映画に「フリークス」という映画があります。多分意識しているでしょう。