霧の中の少女

(完全?ネタバレ感想)常人には理解不能のミステリー

イタリア、アルプスの山間の町で起きた少女失踪事件をめぐるミステリーです。

トニ・セルヴィッロさんとジャン・レノさんの共演が売りの映画かと思います。監督はこの映画の原作者でもあるミステリー作家のドナート・カリシさん、初監督作品とのことです。

霧の中の少女

霧の中の少女 / 監督:ドナート・カリシ

もし原作がミステリー小説として評価の高いベストセラーだとするならば、脚本、あるいは監督としてまだまだ力不足ということだと思います(ペコリ)。

かなり複雑な内容なんですがその複雑さに説得力がありません。謎の明かされ方が唐突でストンと落ちません。映画としての構成もいろいろ起きる割に平板で退屈です。

ちょっと言い過ぎちゃっていますね。

事件の舞台はイタリアの山間の町アヴェショー、以前はリゾート地として賑わっていたとあります。町に入る道路は一本で先は行き止まりです。クリスマスの夜、アンナ・ルーという少女が行方不明になります。

これが映画の軸となる事件で、普通であれば、それはおそらく誘拐であり、殺人であるわけで、その犯人は誰かの謎解きを見せていくことになります。ところがこの映画はかなり変則的なスタイルを取っています。

最初にネタバレしておきます。

この映画には3つの殺人事件が絡んでいます。ひとつは失踪したアンナ殺人事件、ふたつ目はその犯人が殺された(らしい)殺人事件、そして30年前の少女連続誘拐(殺人)事件です。

映画はほとんどひとつ目のアンナ殺人事件に費やされ、時間的にほぼ9割程度経たあたりで、どうやらアンナは殺されたらしいとわかり、そろそろオチやねと思っている矢先、唐突に、その犯人(を殺害)の殺人容疑で当の刑事が捕まり、え? あの人殺されていたの? と驚く間もなく、さらに唐突に、30年前の少女連続誘拐(殺人)事件の犯人は私ですと明かされて終わります。

は? と私も思いますので本当にこれがあっているかどうか確信は持てません(笑)。

こういうことです。

映画は二重構造になっており、まず、アンナ失踪事件後のどこかの時点から始まります。何日後かもわかりませんし、設定もよくわかりませんが、精神科医フローレス(ジャン・レノ)が、夜中(かな?)に警察から呼び出され、交通事故を起こした男を診察するよう要請されます。その男はアンナ失踪事件の捜査のために本庁(みたいなもの?)からやってきたヴォーゲル警部(トニ・セルヴィッロ)で、事件収束(解決ではない)後、本庁へ戻ったと思われていた(らしい)のです。

ところで、やたら括弧で説明や疑問が多いのはよくわからないことが非常に多い映画ということです。

で、フローレスが呼ばれたわけは事故のせい(かな?)でヴォーゲルが記憶を失っている(らしい)からで、この診察シーンはこの最初と中頃に1回(だったか2回だったか?)、そしてラストに事件の最後のひとつ前のオチのシーンとして出てくるだけです。

フローレスとヴォーゲルのやり取りから、そもそもの発端、アンナ失踪事件の捜査にヴォーゲルが関わることになった過去へと移っていきます。

正直なところ、この入り方もわかりにくいです。実際に映画の中で事故と言っていたのか、私が公式サイトを読んでそう思い込んで見てしまったのかわかりませんが、ヴォーゲルは怪我もしていませんし、フローレスも大したツッコミを入れていません。

フローレスがシャツについた血のことを言っていたと思いますが、あれはオチへの伏線だったのでしょう。でも、それですと、ラストのヴォーゲルを逮捕するシーンにしても、フローレスが刑事じゃないとおかしいですね。

この記事、無茶苦茶長くなりそうです(笑)。

アンナ・ルーはクリスマスの夜に行方不明になります。アンナの両親は厳格なキリスト教団の信者(常時十字架を首から下げている)で、その夜アンナは教会の集会へ行くといったまま行方不明になっています。

ただし、この設定、まったく絡んできません。アンナが殺される時に十字架のように両手を真横に広げていたり、どのシーンかは忘れましたが十字の光を入れたりと思わせぶりに宗教絡みの事件を匂わせていますが関係ありません。

同じく、町のロケーションもまったく絡んできません。町が山間で行き止まりであることを示すために、俯瞰で撮った町のミニチュアシーンを何回も入れていましたが大した意味はありません。閉鎖的空間ということも何も使われていません。

ヴォーゲルが捜査を始めるシーンで、カメラ方向を見上げ、次第にカメラがクレーンで上がっていき、防犯カメラがフレームインしてくるシーンもありますが、あれは何だったんでしょう? 防犯カメラの映像がどうこうなどというシーンはありましたっけ?

ヴォーゲルの捜査手法はマスメディアを使って事件をセンセーショナルに仕立て上げ、犯人にストレスを与えてミスを冒させるということらしく、懇意にしている、がしかし最後には裏切られるテレビキャスターを使って事件を全国区の注目事件に仕立て上げていきます。

そして、浮かび上がってきたのはアンナの学校の教師マルティーニ(アレッシオ・ボーニ)です。

マルティーニは妻と娘とともに最近この町にやってきたらしく、その訳が妻の不倫(云々と言っていた)のこじれか何からしく(よくわからない)、結構意味ありげな扱いがされていたのですが、結局これも肩透かしでした。あえて言えば、マルティーニが犯人扱いされ、家にマスメディアが押しかけたりするあたりで夫婦間に亀裂が入るシーンがあったくらいです。

というヴォーゲルの強引な捜査が中盤まで続き、とにかく奇妙なミステリーだなあという感じはしてきます。

そんな時に、なにこれ? というシーンがあります。

時間経過がわかりにくい(というか、ない)のですが、マルティーニが容疑者に仕立て上げられてしまっているわけですからクリスマス明けでは早いですし、正月も過ぎ翌年ということでしょうか、マルティーニが授業中の講義で妙なことを言います。

「悪魔は模倣する」

妙に力が入っており、なぜか意味不明にその教室にずかずかとヴォーゲルが入ってきていましたので気になったのですが、これが結局アンナ失踪事件のオチでした。

このあたりの前後ははっきり記憶できていませんが、続いてヴォーゲルとマルティーニふたりのシーンがあり、その時もマルティーニは同じように「悪魔は模倣する」と捨て台詞のように言い、同時に、自分の血を机に残していきます。

アンナのリュックが発見され、それにマルティーニの血痕が付着していたとして逮捕されます。

そんな時、突然、ヴォーゲルに(初めて登場する)記者から30年前の連続少女誘拐事件の話がもたらされます。

唐突すぎます。映画の流れを変えるような重要なことならもっと早くに伏線貼っておかなきゃダメでしょう。それに、敏腕刑事のヴォーゲルならそんなこと知ってなくちゃ益々ダメでしょう。

その記者によれば、30年前、赤毛の少女が次々に行方不明になる事件があったそうです。未解決のままぴたりと止み忘れ去られてしまったのですが、自分は追い続けている、そして、このアンナ失踪事件はその犯人が再び動き出したのではないかと、まるで神託のような言葉を残して去っていきました(笑)。

もうこの後はなんだかよくわかりません。時間の流れの中に記憶できていません。私が悪いのか、映画が下手なのか…。

アンナの(裏)日記が見つかったり、どっかで出会った男のイニシャルの話が出てきたり、犯人からのビデオテープが出てきたりともうハチャメチャです。

あれ、VHSでしたので、この話は2、30年前ということのようです。ただ、携帯端末がタッチパネルでしたが時代考証は大丈夫なんでしょうか。

で、ヴォーゲルがそのビデオテープを頼りにアンナ殺害現場と思しき閉館したホテルに行ってみますと、もぬけの殻、突然キレたヴォーゲルはビデオテープのテープを引き出し破壊してしまいます。

と、突然隣の部屋から、あの懇意にしているテレビキャスターがカメラとともに入ってきて現場を押さえた!みたいな流れになります。

なんじゃ、これ!?

よくわかりませんが、こういうことなんでしょう。

アンナ殺害の犯人であるマルティーニは、動機は全くわかりませんが、ヴォーゲルをはめるためにその捜査手法を逆手にとって自分自身を容疑者に仕組ませるように仕掛けて、その悪辣さを暴こうとしたということになります。

マルティーニは釈放されます。

ですが、マルティーニは実際にアンナを殺害しています。クリスマスの夜、アンナが家を出たところで誘拐し、閉館したホテルで殺害するシーンがその後に流れます。以前はリゾート地として賑わっていたという振りがこういうところにこじつけられているということです。

マルティーニが「悪魔は模倣する」と言っていたのは、自分は30年前の少女連続誘拐事件を真似ているんだとヴォーゲルに宣言していたということになりますが、単にヴォーゲルを罠に誘い込むための台詞としたら妙に大層です。何か読み切れていないことが他にあるんでしょうか。

ということで、結局、アンナ失踪事件は、映画を見ている我々には、アンナは殺されており犯人はマルティーニでしたと明かされ、でも映画内の公には迷宮入りとして終わったということになります。

ヴォーゲルは意気消沈して本庁へ帰っていったということなんでしょうか。

ラスト前のラスト、フローレスとヴォーゲルのシーン戻ります。

はっきり記憶していません。なぜか、突然フローレスがヴォーゲルに向かって、マルティーニ殺害容疑で逮捕するみたいなことを言って、入ってきた警官たちがヴォーゲルを連行していきました。

そして本当のラスト、フローレスは家に戻り、車庫のどこかにしまってあったブリキ缶を取り出しおもむろに蓋を開けます。

そこには、小さく束ねられた赤毛の髪の毛がいくつか入っているのです。

30年前の少女連続誘拐事件の犯人はフローレスでした。チャンチャン。

常人には意味がわからないからミステリーなのだと思っておきましょう。

The Girl in the Fog: The Sunday Times Crime Book of the Month

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  • 作者:Carrisi, Donato
  • 発売日: 2018/10/30
  • メディア: ペーパーバック