バーニング劇場版のチョン・ジョンソ、月夜に踊らず…
アナ・リリ・アミリプール監督の名にも、そのデビュー作「ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女」のタイトルにも、特に引っかかりを感じることもなく、なんとなく面白そうだということと「バーニング劇場版」のチョン・ジョンソさんが出てるということで見に行ったのですが、なんと、びっくり! 今サイト内を検索しましたら「ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女」を見ており、べた褒めしていました(笑)。
モナ・リサは超能力者のふりをする…
2014年のアナ・リリ・アミリプール監督のデビュー作「ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女」をべた褒めしていることを前提に言いますと、この映画では、やりたいことに映画的アイデアや構成力、演出力がついていっていないようです。
ひとことで言いますとありきたりで新鮮なところがないということです。
12年間精神病院(というよりも監禁施設…)に隔離されていたモナ・リサ(チョン・ジョンソ)が、相手の意志を操ることができる能力があることに気づき、病院から抜け出し、様々な人に会い、様々な経験(それほどでもないが…)をし、新しい世界に旅立つという話です。
相手の意志を操るシーンは、たとえば、精神病院のシーンでは看護師自ら手にしていたハサミを自分の腿に幾度も突き刺ささせたり、警官がモナに向けた拳銃を自分の足に発砲させたりするなどたくさんあるのですが、それらがみな同じパターンで、モナが相手を見つめて手を動かしたり、顔を振ったりすると相手が同じように自分の意志に反して、え?! え?! やめろ! やめろ! と言いながら手を動かしてしまいます。それも相手はみな素面でです。
コメディならまだしもなにか工夫がいるでしょう。これがなぜダメなのかはチョン・ジョンソさんを見ればわかります。それこそ素面で演技しているようにしか見えないのです。
ただ、このアナログ感と言いますか、奇妙なことがごく普通に起きるといった表現は、「ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女」を思い返す限りでは、アナ・リリ・アミリプールさんの持ち味のようにも思いますので、決して特別な映像処理が必要と言っているのではなく、何らかの方法でモナの意志が画として見えるようにしなければダメだということです。
それに結果としてですが、チョン・ジョンソさんが超能力を持つ役にはまっていないです。理由はアナ・リリ・アミリプール脚本監督にモナの人物像ができていないからでしょう。
モナ・リサ・リーは脱北者か…
モナは10歳のときに精神病院に入り12年間過ごした韓国系(北朝鮮系…?)の人物という設定ですが、それ以外は何もわかりません。言葉は明瞭に英語を話しますが、世の中のことはよく知らないという設定で会う人ごとに行動や言葉を吸収していきます。
トランプと金正恩の会談のニュース映像を興味深く見ていましたので北朝鮮から脱北者という設定かも知れません。
夜です。路上にたむろする男たちに声を掛けられ、そのうちのひとりファズ(エド・スクライン)と知り合います。ファズはモナを車に誘いキスをしようと言います。モナの超能力発動か? と思いましたが、このファズはラストのためにとっておかれており、結局いいヤツでした。
ストリップダンサーのボニー(ケイト・ハドソン)が喧嘩で取っ組み合いをしているところに遭遇し、超能力で相手をやっつけます。ボニーはモナを家に連れて帰り、モナの超能力を利用して金儲けをしようと考えます。客の意志に反して持ち金全部をチップに出させたり、ATMで出金しようとしている人物から50ドル巻き上げたりします。
ボニーにはチャーリーという10歳くらいの息子がいます。チャーリーは母親に嫌われていると思っています(さほど深刻にではない…)。ヘヴィメタを大音量で流しながらヘッドバンギングで気持ちを晴らしています。モナが興味を持ち、一緒にヘッドバンギングをしたりして親しくなっていきます。
チョン・ジョンソさん、ヘッドバンギングはあまりうまくなく、と言いますか、様になっていなかったですね。「バーニング劇場版」ではマイルス・デイヴィスの「死刑台のエレベーター」が流れる中、夕陽をシルエットにして踊る姿が目に焼き付いていますが、ヘッドバンギングには乗れなかったようです。
で、あんなこんながあり、ボニーとモナは警察に追われることになります。モナが最初に足を撃たせた警官が執拗に追ってきます。その追跡を逃れたモナは、ボニーの行為がひどいことに気づいたのか、チャーリーに一緒に逃げようと言います。モナの台詞は少ないですので、チャーリーが一緒にってこと? と聞くことに頷くしぐさで応えるという演出です。
チャーリーをやっているエヴァン・ウィッテンくん、うまいですね。アメリカ映画の子役は本当にうまい子が多いです。
ここでファズが再登場します。アブナイやつだと思ったかもしれないが自分は DJ だと言っていました。二人に食べさせようとキッチンで一生懸命なにか作っていると思いましたら、単に目玉焼き(1個ずつ…)でした。こういうシーンをもっと多くして非日常空間の日常性を強く打ち出せばいいのにと思います。
とにかく、ファズは二人の身分証明書を作ってくれ、飛行機の乗り方も教え、二人を空港まで送ります。警察の追跡が迫ってきます。チャーリーはモナを逃すために自分が確保されることで時間稼ぎをします。モナは無事に飛行機で飛び立っていきます。
ファズでしたっけ、この続きは続編でなんて言っていました。見てみたいとは思いますが、よく構想を練り上げて、おお! と驚きのあるものを期待します。
ニューオリンズとクラブ系ミュージック
映画の場所設定はニューオリンズです。どうしてもジャズの街を思い浮かべてしまいますが、映画で使われている音楽はクラブ系のEDMで、ラストシーンのモナが飛行機で飛び立つシーンはこの曲だったと思います。間違っていたらゴメン。
ベルギーの「Gry Bagøien」というミュージシャンの曲です。いわゆるクールでカッコイイ曲ですが、歌詞はともかく曲想としては飛び立つにはパワー不足で、ファズが大音量で聴けといっていましたが、ここはヘヴィメタでしょうなんて思って見ていました。アナ・リリ・アミリプール監督の趣味ではなさそうです(笑)。
次回作期待でしょうか。