「映画作りに情熱を燃やす若者たちを描く70年代青春グラフィティ」という映画です。このコピーと映画のメインビジュアルを見れば内容はおおよそ想像がつきます。でも驚くのは、これを撮ったのが60歳の小中和哉監督であり、にもかかわらず、と言うのもなんですが、どちらかと言いますとノスタルジーよりも青春のみずみずしさが感じられる映画です。
宇宙船が撮りたい、って?
時代設定は1978年、その年に公開された「スター・ウォーズ」を見た高校生の広志(上村侑)が、自分もあんな宇宙船を撮りたいと思い、文化祭のクラスの出し物に映画づくりを提案し実現するという話です。
ツッコミどころではありませんが、映画を見て映画を作りたいではなく宇宙船を撮りたいという着想はユニークですね(笑)。これ、言葉の綾ということでもなく、実際、なんとか工夫して宇宙船らしきものを撮ってはみたもののカメラ屋のお兄ちゃんに、ストーリーは? と尋ねられポカーンという流れになっていました。
といった感じで始まり、喜男(福澤希空)と佐々木(桑山隆太)を巻き込み、文化祭の出し物に立候補し、一週間でテーマとストーリーを作り上げ皆の前で発表します。そして、ヒロインは誰? ということになり、広志がひそかに(でもないけど…)思いを寄せている夏美(高石あかり)を指名するということで青春ものには必須の淡い恋心(言葉がダサかったか…)描写も入ったりします。
青春映画と言いますと割と友情、別れ、旅立ちといった内容のものが多いのですが、この映画は映画づくりそのものが軸になっています。それがノスタルジーよりも青春のみずみずしさ、つまりは過去のことをやっているにもかかわらず現実感が感じられる理由かと思います。
映画の作り方、教えましょう
8mmで撮る自主制作映画であれ、製作費が億単位の大作であれ、映画づくりの基本は同じです(多分…)。構想(テーマ)があり、シナリオができ、資金調達ができれば、準備段階に入り、スタッフの確保、キャスティング、ロケハン、スケージュール調整と準備が整えばいよいよ撮影に入ります。そして無事撮影が終わればポストプロダクション、編集、音入れ、必要ならアフレコを経て完成という流れになります。
この映画はそれを実際に見せてくれます。さらに 8mmでの自主制作ですのでアイデアも必要です。いろんなアイデアを見せてくれます。広角レンズがなくても広角に撮る方法、リバース機能がなくてもリバース撮影する方法、一人二役シーンを撮る方法、特撮シーンを撮る方法などなど、こうした具体的なものがありますので結構見られる映画になっています。
ということですので、当然、完成するであろう映画のかなりのことが見ていくうちにわかってしまいます。これでラストはどうやって終えるんだろう、まさか全編は流さないよなあなどと考えていましたら、見事に裏切られ、映画「タイム・リバース」完全上映で終えていました。
お見事でした。
高石あかりさん
で、実はこの映画を見ようと思ったきっかけは高石あかりさんの名前を見たからです。1週間ほど前に「ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー」を見ており、そのレビューに
この会話シーンを引っ張っているのがちさとを演じている高石あかりさん、この俳優さん、いいですね。まだ20歳ですか…。思い切りがいいですし、なにか人を引き付けるものがあります。シリアス系の映画の主役級で見てみたい気がします。
と書いており、偶然にもこの「Single8」の紹介文にその名をみつけたということです。
シリアス系というわけではありませんでしたが、半世紀ほど昔の時代らしくヒロインという扱いの紅一点(笑)という存在です。マドンナなんて言葉もあります(ありました、かな…)。
で、その高石あかりさんですが、なんだかしっくりこない奇妙なリアクションをしていました。演技なのかどうなのかもよくわからない、演技と素がときどき切り替わるような感じとでもいいますか、夏美の中にときどきちさとが顔を出すような感じというとわかりやすいでしょうか。とにかく夏美としてどうこう以前に集中していない(ように見える…)印象でした。ラストに恋多き女なんてまとめがされていましたのでその感じを出そうとしたのかも知れません。
結局、物語としては、夏美はミュージシャンの先輩と付き合っているような終わり方で、つまり広志は振られたということです。