パリタクシー

人生崖っぷちのタクシードライバーと人生終末の92歳女性が心を通わすファンタジー

タクシーを使ったフランス映画と言えば、ずばりタクシーがマルセイユの街なかを爆走するリュック・ベッソンの「TAXi」ですが、あれはカーアクションですし、街もパリではなくマルセイユです。

フランス映画というだけでまったく関係のない、それも正反対ともいえる映画を引き合いに出してしまいました(笑)。この「パリタクシー」のドライバーは暴走もしませんし、カーアクションもありません。

パリタクシー / 監督:クリスチャン・カリオン

タクシードライバーに人生を語る

引き合いに出すのであればせめて「人生タクシー」くらいにしておくべきでした。

タクシードライバーのシャルル(ダニー・ブーン)は人生崖っぷち状態です。具体的にはよくわかりませんでしたがお金に困っているようです。そうしたこともあるのでしょう、終始いらいらしっぱなしです。無線局からの依頼が入り、毒づきながらも依頼先に向かいます。

依頼主はそれなりの邸宅です。チャイムを鳴らしても応答もなくいらつくシャルルです。道路の反対側から女性が声をかけます。マドレーヌ(リーヌ・ルノー)92歳です。しばらく邸宅を見上げて車に乗り込んできます。

台詞など言葉では語られませんが、邸宅を売り老人ホームに入るためにタクシーを呼んだということです。老人ホームは街の反対側です。そこへ向かう間にマドレーヌが思い出の地をめぐりながら自分の人生を語り、それとともにシャルルのいらだちも収まり、心を通い合わせていくという映画です。

マドレーヌを演じているリーヌ・ルノーさんは1928年生まれですのでマドレーヌと同じ年齢です。そのことがシナリオ段階で影響しているのかどうかわかりませんが、本人にしてみれば撮影自体が自分の人生を振り返るような時間だったのかも知れません。著名な歌手、俳優であり、社会活動にも力を注がれている方のようです。

マドレーヌの壮絶な人生

語られるマドレーヌの人生は壮絶です。ただ、思い出話ですのでダイジェストですし現実感があるわけではありません。それに、いきなりマドレーヌが身の上話を始めていましたので、正直自分がタクシードライバーでこれが現実であれば、こんな客は耐えられないだろうという気持ちがわいてきます。この導入にはもう少し工夫がいるでしょう。いらいらしているシャルルの方から仕掛けるとか、それを受けてマドレーヌが諭すように身の上話に移っていくとか、とにかく導入はあまりよくありません。

1944年、パリ解放(ナチスドイツの占領からです…)、16歳のマドレーヌは進駐してきたアメリカ兵と恋に落ちます。数カ月後アメリカ兵は去ってしまいますが、マドレーヌはその男の子どもを宿しており、後に男の子マシューが生まれます。

マドレーヌの話とともに時にフラッシュバックが挿入されて描かれていきます。

その後、マドレーヌはレイという男と恋に落ち結婚しますがレイが暴力を振るうようになり、ついにはマシューにまで手を上げるようになったために、マドレーヌはレイを睡眠薬で眠らせ、溶接用のバナーでレイの股間を焼いてしまいます。

え? なに? どういうこと? と思いますが後に説明が入ります(笑)。まず溶接用のバナーがあったのはレイが溶接工だからであり、なぜ股間を焼いたかは、レイが自分の子どもをほしいと言っていたがそれだけは嫌だったということらしいです。

結構無茶苦茶な話なんですが、92歳のおばあちゃんの思い出話ともなればそんなものかなあとあまり気にはなりません(笑)。

別れればよかったのにと思いますし、シャルルもそう感じていたのではと思いますが、特になぜ?と尋ねるまでもなくマドレーヌがちゃんとそれに対して答えてくれます。1950年代は女が何をするにも男の許可がいる時代だったと語っていました。えー、そうなの? とも思いますが、たしかフランスでも多くの社会制度が変わっていくのは1960年代だったと思いますので実際そうだったのでしょう。

とにかく、マドレーヌは殺人未遂で起訴され25年(間違っているかも…)の禁固刑が言い渡されます。実際には15年で出所となり、息子マシューのもとに戻ってみれば、マシューはカメラマンとなっており、2週間後にベトナムへ従軍すると言い、なんとその後、マシューはベトナムで死亡したということです。

つくり過ぎの物語はどこへ行く…

ちょっとばかり物語を作り過ぎかも知れません。でもまあこれは映画ですので、このあたりに来ればいらついていたシャルルも穏やかになり、逆にマドレーヌをディナーに誘ったりと意気投合状態です。

ああ、ひとつ忘れています。シャルルは免停ぎりぎりで違反でもすれば人生終わりだといっている矢先、信号無視で警官に止められます。頭を抱えるシャルルですが、マドレーヌがこの子は孫で心臓病で先のない私を病院に連れて行ってくれるところなのと機転を利かせて(効かないと思うけど…)助けてくれます。

ついでに(笑)シャルルのことです。ときどきマドレーヌがあなたは? などと尋ねます。妻とは高校時代に知り合い、それ以来ずっと一緒にやってきており愛していると言います。でも、こうやって一日12時間働き、休みは週に一日、家族と話をする時間もないのに人生いっこうによくならないと嘆いています。

ふたりはディナーを楽しみ、免停を助けてくれたお礼だとシャルルが勘定を済ませ、そして車まで歩くあいだ、マドレーヌが手を組んでいいかと言います。もちろんと答えるシャルルです。

老人ホームに到着です。なにか言わなくちゃと思いながらも何も言葉が見つからないシャルルです。このシーンはよかったです。マドレーヌがはたと気づき料金を払っていないと戻ろうとします。シャルルは必ず面会に来るから、必ず面会に来るからとくり消し、その時でいいと言います。

さて、結末は…

後日、シャルルと妻がマーガレットをネット検索し、女性解放運動のアイコンよと検索結果の写真を見ながら話しています。また金策の件でしょう、妻が自分に残された実家の家を売ることにしたとも話しています。

そして、ふたりでマーガレットの面会に行きます。しかし、マーガレットは2日前に亡くなっています。職員の静止もきかずマーガレットの部屋に駆けつけ嘆き悲しむシャルルです。マーガレットの公証人を名乗る男がマーガレットからだと封筒を手渡していきます。そこにはシャルルへの感謝の言葉とともに邸宅を手放した101万ユーロの小切手が入っているのです。約1億5000万円です。

率直なところ、あまりのベタさにこれが日本映画であれば怒っているところでした(笑)。それにしても、最近日本で公開されるフランス映画はこの手のベタな感動(させよう…)ものが多くなっているように感じます。

「TAXi」でも見て気分転換しましょう。