約束の宇宙

女性宇宙飛行士のちょっと異常な母娘愛

邦題と予告編でおおよその内容に想像がついてしまいましたのでスルーしていたのですが、「裸足の季節」の文字が目にとまり見てみました。ただ、その映画もあまり良い評価ではなかったんです。それによく見れば、このアリス・ウィンクール監督は「裸足の季節」では共同脚本でした。

約束の宇宙

約束の宇宙 / 監督:アリス・ウィンクール

映画の焦点(テーマ)定まらず 

母娘の強い絆? 女性宇宙飛行士へのリスペクト? 職業の男女差別? 育児の男女不平等?

この映画からはいろんなテーマが引き出せますが、だからといってこれ!というものがありません。強いて言えば、やはり母娘の強い絆ということになるのでしょうが、もしそうだとしますと、今の時代で言えば、このサラはワークライフバランス(ちょっと違うか)というものをもう少し考えたほうがいい人物になっていますし、もしその点で努力した結果のサラだとすれば、映画としては、育児の男女不平等をもっと強く打ち出さないと何の映画かわからなくなります。

つまり、サラと元夫トマスの間の親権や育児の取り決めを曖昧にしたまま、あたかもトマスが忙しいからサラに育児が押し付けられているかのような前提をおいた上にサラと娘ステラの愛情を描くのは(今の時代では)間違っているということです。

ラスト近くのシーンで隔離施設を抜け出すことも、ある種の異常な愛にしかみえません。

また、職業選択の男女差別や女性蔑視的な男の視線という点においては、この映画の描き方はもう古臭いです。マイクというアメリカ人の同僚クルーがその役割を担っているわけですが、サラに対してもっと訓練を軽くしてもらえと言わせたり、ボーイフレンドはいるかと尋ねさせたりしており、それに対してサラがどう描かれているかと言いますと、男に負けまいと過剰な訓練に耐えさせて後にトイレで吐かせています。もうこういうの止めてと言いたくなります。

ただ、マイクの人物像がかなり曖昧といいますか、中途半端な人物になっていますので、たとえば、マイクにミスをさせてそれをサラがかばったり、ふたりで買い物に行かせてステラへのプレゼントを選ばせたりしてマイクの男としての女性蔑視視線を帳消しにしており、何をどう描きたいのかとにかく曖昧です。

エンドロールにこれまでの女性宇宙飛行士の功績を流していましたが、そうしたリスペクトの意識があるのであれば、もう少し女性宇宙飛行士というものをリサーチして描くべきかと思います。

勢いで書きすぎたかもしれません(ペコリ)。

ネタバレあらすじとちょいツッコミ

サラ(エヴァ・グリーン)は欧州宇宙機関(ESA)に所属する宇宙飛行士です。火星着陸(って言っていたと思うが探査飛行だけかも)を目指す「Proxima(原題)」というミッションのクルーに選ばれます。

サラは7歳の娘ステラと暮らしており、元夫のトマスも同じくESAで働いています。ミッションに参加となれば約1年間の旅となり、ステラをどうするかが問題となり、トマスに相談にいきます。トマスは自分も忙しいし、相談ではなくもう決めたことだろと言い、あまり協力的にはみえません。

火星へ行くのに1年ということはあり得ないですね(原子力推進なら可能みたい)。それに、上にも書きましたが、これだけのプロジェクトならクルーが今日明日に決定されるわけはなく、少なくとも数年単位のスパンでしょうから、このシナリオはあまりにも不自然です。母娘愛を描きたいがための不自然な設定は、かえって職業選択の男女平等という点においてマイナスです。

クルーに選ばれた者たちのパーティーが開かれています。マイク(マット・ディロン)が仕切っており、サラを紹介しています。

このシーンも奇妙な感じでした。マイクの登場の仕方がプロジェクトのリーダーかと思いましたら、サラと同じクルーでした。マイクに男性優位社会みたいなものを象徴させたかったんでしょう。

組織には家族に対するサポートがあるようで、サラとステラが担当者にヒアリングを受けています。ステラは自分になにか障害があるようなことを言っていましたが、その後何も触れられませんのでよくわかりません。

このシーンも奇妙でした(くどいか…)。とにかく、サラのステラに対する気持ちの描き方が過剰すぎると感じたということです。

サラたちクルーの訓練が始まります。サラ(だけ?)には男性のバックアップ要員がいます。また、マイクがサラにもっと訓練を軽くしてもらえと言います。サラはムッとしています。

耐G訓練では9G(だったかな?)まで上げさせて、サラが男に負けるものかと(みたいに)耐えています。訓練が終わりサラはトイレで吐いています。

男女平等ってこういうことじゃないんですけどね。とにかく描き方が古臭いです。それにこの訓練期間中も一貫してサラのステラへの思いの強さが強調されています。

訓練期間中の休日でしょうか、サラがステラを訪ねることになっていた日、予定外の訓練が入ってしまいます。会えないとあきらめていたサラですが、ステラのほうが会いに来てくれます。

ステラが湖岸から湖の中での訓練をみるシーンであるとか、ホテルのプールの二人のシーンとか、この間、細かいシーンがいろいろありましたが(忘れましたので)省略です(笑)。

いよいよ出発までの隔離期間に入ります。その前日、ステラと会える最後のチャンスですが、ステラが飛行機に乗り遅れて来られません。しかし、出発日前日、ステラがやってきます。ガラス越しの再会です。

その夜、サラは(我慢できなくなって)基地の隔離施設を抜け出し、ステラのもとへ向かいます。サラは、ホテルからステラを連れ出し発射場へ向かいます。二人は荒野に直立するロケットを見つめます。

見落としていますが、公式サイトによれば、どこかでサラがステラにロケットを見に行こうと約束しているらしいです。我慢できなくなったのではなく(笑)、その約束を果たすために隔離施設を抜け出したということらしいです。

隔離施設に戻ったサラはヨードチンキ(多分)で体じゅうを消毒します。

マジか?!

本当は抜け出すことも、抜け出すことが可能なこともマジか?! です(笑)。

で、サラは飛び立っていきました。

ロケットの発射シーンはかなりリアルでした。実写映像? CG?

女性宇宙飛行士を称えることになるか?

この映画ではならないです。

誰がどうみても、このサラではProximaのミッションを果たすことは無理でしょう。ステラへの思いが募り情緒不安定になりミスを犯すでしょう。

実際の宇宙飛行士がどういう環境の中にいて、どういう訓練をしたりするのかはわかりませんが、少なくともその身体性において男女間で競い合うような価値観はないでしょうし、子どもに会いたいがために、あるいは子どもとの約束を果たしたいがためにクルー全員を危険に陥れるような行為は、そもそも頭に浮かびもしないでしょうし、実行することなどあり得ないと思います。

こういう時代のタイミングで今だにこういう女性の描き方をしますか(涙)。

裸足の季節(字幕版)

裸足の季節(字幕版)

  • 発売日: 2016/12/14
  • メディア: Prime Video