そんなには褒めないよ。映画評

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生きうつしのプリマ/マルガレーテ・フォン・トロッタ監督

皮肉まじりの人間愛に満ちた大人の映画です。女の秘密の先には男の意外な結末が待っています(笑)。

2016/07/27

「ハンナ・アーレントの監督&主演の最新作」これがこの映画のキャッチになっているようです。

それだけ「ハンナ・アーレント」が良かったということなのでしょう。確かに、その後、本やネットで「ハンナ・アーレント」の名を目にすることが多くなった印象です。正確に言いますと、今まで読み飛ばしていたものに、目が留まるようになったということだと思いますが、その意味では、描かれた人物「ハンナ・アーレント」が記憶された映画だったということです。

それに比べますと、こちらは、映画として良かった、うまいと言えそうです。

「話があるんだ」と思いつめた声で父から呼び出されたゾフィは、ネットのニュースを見せられて唖然とする。そこには、1年前に亡くなった最愛の母エヴェリンに生き写しの女性が映っていた。彼女の名はカタリーナ、メトロポリタン・オペラのプリマドンナだ。父はどうしても彼女のことが知りたいと、ゾフィを強引にニューヨークへと送り出す。どうやら母には、家族の知らないもう一つの顔があったらしい──。(公式サイト) 

以下、完全にネタバレになりますのでご注意ください。

物語はサスペンス風に進みます。あらすじを書くのが趣旨ではありませんので、軸となるプロットのみ、上の引用の続きから書きますと、

ゾフィが NY で知り得たことは、カタリーナには母と呼ぶ女性ローザがいて、痴呆症で施設で入っていることと、そのローザがエヴェリンを知っているらしいということです。

ドイツに戻ったゾフィは、父パウルから、自分が結婚した時、エヴェリンはすでに妊娠しており、その相手が兄のラルフだと衝撃の告白をされます。

パウルは、エヴェリンからは堕ろしたと聞いていると言いますが、実はエヴェリンはイタリアで娘を出産しており、友人ローザに預けたということが分かります。

つまり、その娘がカタリーナであり、結局、ゾフィとカタリーナは、エヴェリンとパウル&ラルフ兄弟の間に生まれた異父姉妹というになります。(チャンチャン)

と、このネタバレだけを読まれた方は、「何だ、それは!?」とか、「横溝正史か?」とか、「ドロドロやね?」とか思われると思いますが、それがぜんぜん違うんです。

映画は、そんな感じを全く抱かせずに作られているのです。それが「うまい」ということの意味です。

この、あらためて考えれば、突っ込みどころの多い、たとえば、夫に気づかれずに出産できるのか?とか、著名なオペラ歌手であるカタリーナの楽屋へ見ず知らずのゾフィが入ることが出来るのか?とか、カタリーナは、隠すこともないのに、なぜあんなにも拒絶するのか?とか、なぜパウルはゾフィを NY へ行かせる前に告白しないのか?とか、カタリーナのエージェントであるフィリップが客席で鑑賞するか?などなど、今考えればいっぱい出てくるのですが、見ている時は、そんなことなど全く浮かんでこないのです。

展開がうまいんです。

ぐいぐい、ということではなく、見るものに違和感を感じさせない最適の端折り方と最短で次へ導く編集が見事なんです。

そして、重要なのは音楽です。

ゾフィのカッチャ・リーマンさん、カタリーナのバルバラ・スコヴァさん、二人とも生歌らしいです。

そうした音楽関連の情報がないかと公式サイトを見てみたのですが、全くありません。監督のコメントに、「この映画は俳優であり歌手である二人へのオマージュだ」とあるのに、なぜなんでしょう?

ゾフィは、小さなクラブで歌うジャズシンガーなんですが、ドイツでは、オーナーらしき人に「そんな陰気な歌をうたうな」とクビになってしまう、その同じ曲が NY では大受けになるという、かなり意図的で、かつ分かりやすいシーンがあります(笑)。

これがとてもいい曲で、調べましたらこれですね。CinemaCafe.net に「アメリカの歌手シクスト・ ロドリゲスの『サンレヴァ・ラバイー/ライフ スタイルズ』」とありました。


Rodriguez – Sandrevan Lullaby/Lifestyles

カッチャ・リーマンさん、結構な歌唱力でした。

一方のバルバラ・スコヴァさん、オペラ歌手はさすがに厳しいかとは思いましたが、それでも違和感はありませんでした。歌っていたのは「ノルマ」の中のアリアなんでしょう。

このオペラ「ノルマ」、ウィキでざっと物語を読んでみますと、結構意味深で映画に引っ掛けてありますね。カタリーナの台詞にも「ノルマを見なさい」みたいな意味ありげなものがあったように記憶しています。

で、あれやこれや、一見サスペンス調で進む物語が、終盤とんでもないことになります(笑)。

上のネタバレに書いたとおり、ゾフィとカタリーナは異父姉妹ということが明かされ、二人の父親であるパウルとラルフが何十年ぶりかに対面するシーンがあります。

弟パウルは、「兄は私の持っているものを何でも欲しがった」と妻エヴェリンを寝取られたかのように言い、兄ラルフはラルフで、「エヴェリンは私を愛していた」と言い放ちます。

で、何が起きるかといいますと、二人が取っ組み合いを始めるのです! 70歳を越えたかという大の大人の兄弟が取っ組み合いですよ! 呆れ返るを通り越して、何とも微笑ましいシーン(ホントか?)なのです!

さらに、その時のゾフィーの表情やケンカを止める振る舞いが、兄弟げんかに割って入る母親そのものなのです。

マルガレーテ・フォン・トロッタ監督、現在74歳ですか、どんな人生を歩んでこられたのか分かりませんが、74歳にして到達した「愛」についての悟りの境地がここにはあります。

「恋愛なんて一時の気の迷いよ」と。

あまりマジでとらないでくださいね(笑)。

ただ、その視点で見れば、ゾフィが生活費を稼ぐためだとやっているウェディング・プランナーのシーンや、カタリーナの元夫らしき男が呑んだくれにも関わらず割と大事にされていることや、ゾフィとフィリップが、互いに、恋愛が2年しか続かない、3年しか続かないと言いながら、結局愛しあうことになるのも、ああなるほどと思えてきます。

そして、ラストシーン、カタリーナとラルフの親子、カタリーナの二人の子ども、そして愛しあう仲になったゾフィとフィリップの6人が楽しく語り合う一方、パウルは、ひとり、妻エヴェリンの亡霊に悩まされ続けるのです。

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