ジュリエッタ

切実な愛の物語を期待していくと乗り遅れますよ。アルモドバル節に身を委ねればOK。

受賞はありませんでしたが、今年のカンヌのコンペ出品作品です。

今年のパルムドールは、ケン・ローチ監督の「わたしは、ダニエル・ブレイク」、来年の3月公開です。グランプリが、グザヴィエ・ドラン監督の「Juste la fin du monde」、こちらも来年の2月公開らしく、邦題は「たかが世界の終わり」みたいです。

どちらも楽しみですね。

で、アルモドバル監督の「ジュリエッタ」。

監督:ペドロ・アルモドバル

マドリードで暮らすジュリエッタは、ある日、偶然再会した知人から「あなたの娘を見かけたわ」と告げられ、めまいを覚えるほどの衝撃を受ける。12年前、ひとり娘のアンティアは理由も語らずに、突然姿を消してしまったのだ。ジュリエッタは、心の奥底に封印していた過去と向き合い、今どこにいるのかもわからない娘に宛てた手紙を書き始めるのだった……。(公式サイト)

いきなり、スクリーンいっぱいに「赤」ですわ(笑)。そして、Miquel Navarro の椅子に座る男の男性器がデフォルメされた彫刻。

初っ端から、アルモドバル全開です!

ジュリエッタ(エマ・スアレス)が、恋人ロレンソの誘いを受け、ポルトガル行きの準備をする場面から始まります。ロレンソは、「トーク・トゥ・ハー」のマルコを演っていたダリオ・グランディネッティさんです。ピナ・バウシュの舞台を見て涙していたシーンが思い出されます。

冒頭のこのシーンで、ジュリエッタの片付けていたダンボール(かな?)の中に「Ryuichi Sakamoto」の名前が入った何かがあったのですが、あれは何だったんでしょう? エンドロールにも「…Piano…」とクレジットされていましたし…? ん? CD? 坂本龍一のCDを持って行こうとしていたんでしょうか? ググっても出てきませんので、もう一度見ないと分かりませんね。

それはともかく、アルモドバル監督らしい色使いとシンプルな空間構成のシーンが続きます。さらに、この映画では服飾やヘアのファッションにも相当こだわっています。この現実離れした感覚についていけないと乗り遅れてしまいますので頑張りましょう(笑)。

一旦乗り遅れますと、この後のジュリエッタが語りだす過去のシーンでは、まず間違いなく、頭がぐるぐるしてしまいます。アルモドバル監督の映画ならどんな駄作でも許すという私でも、さすがに、鹿やら、自殺騒ぎやらの流れは、おいおい、大丈夫か?と心配になってしまったくらいですから。

ところがです。その後は、あっという間に引き込まれます。何なんでしょう?

もともと、アルモドバル監督は、人物の心理を丹念に追い続けるタイプではありませんし、この映画では、「オール・アバウト・マイ・マザー」や「トーク・トゥ・ハー」よりもさらにそうした人物描写は奥へ退いており、見方によっては、誰彼がこうしたああしたとあらすじを語られているように感じるかも知れません。

実際、12年前に姿を消した娘アンティアは、その後登場しませんし、なぜ姿を消したかが本人の口から明らかになることはありません。その他、ジュリエッタの「なぜ」も、ショアンの「なぜ」も、アバの「なぜ」も、マリアンの「なぜ」もはっきりしたことは何も分かりません。

それでもなぜか集中させられてしまいます。(もちろん、乗り遅れなければ…笑)

多分、テンポと迷いのない展開でしょう。

迷いがないとは、結局、アルモドバル自身が、「女性」、それも「母性」という生物学的性からしか生まれないものにこだわり続け、それを知りたいと思っているからでしょう。

原作本がでています。

ジュリエット (新潮クレスト・ブックス)

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