そんなには褒めないよ。映画評

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ある男

ネタバレレビュー・原作にとらわれすぎた脚本に問題あり…かな?

2022/11/18

平野啓一郎さんの『ある男』の映画化です。監督は「愚行録」「蜂蜜と遠雷」「Arc アーク」の石川慶監督です。えー、自分でもびっくり、長編はすべて見ています。

  • 安藤サクラさんが深いです
  • 映画は凡庸、脚本に問題あり
ある男 / 監督:石川慶

安藤サクラさんが深いです

出演は、妻夫木聡さん、安藤サクラさん、窪田正孝さんです。今注目の仲野太賀さんも出ていますが、台詞なしのワンシーンだけでした。原作もそんな感じだったと思います。

原作は4年くらい前に読んでいます。

平野啓一郎著『ある男』 城戸は偽善者との読後感になってしまった…

今読み返してみましたら、戸籍交換の部分が間違っています。正しくは、

  • 谷口大祐(仲野太賀)が曽根崎義彦(登場しない)と戸籍交換し
  • 谷口となった曽根崎がある男である原誠(窪田正孝)と戸籍交換し、
  • ある男である原誠が谷口大祐となって里枝(安藤サクラ)と結婚する

ということです。これ、ネタバレではありますが、映画はミステリーとしてつくられていませんので知って見ても問題ないと思います。それに、ネタバレが嫌な人がこれを読んでいるはずはありませんしね(笑)。

俳優の話からしますと、安藤サクラさんがむちゃくちゃ深い演技をしています。愛し合って結婚した男が死後に実は偽物だったとわかるという、かなり難しい役なんですが、それに見合うだけの感情を表に出せるシーンを与えられていないにもかかわらず、苦しい内面を抑制的にとてもうまく表現していました。

映画が、文房具店を営む里枝(安藤サクラ)のシーンから始まり、このシークエンスがかなり長く、原作を知っていますと、ん? なに? と戸惑いますが、安藤サクラさんと窪田正孝さんでなんとか持っている感じではあります。

窪田正孝さんはこういう役はハマりますね。父親が殺人犯であるために戸籍を交換して谷口大祐に成りすますという役なんですが、映画がその苦悩をもっと描いてればさらによかったんだろうと思います。ボクシングにのめり込むシーンはありますが、あれは谷口になってからですので、戸籍交換をする前の苦悩を描かなければ本来の苦悩じゃないです。ん? 原誠のときでしたっけ? ややこしいですね(笑)。言いたいことは戸籍を交換することに対する苦悩が描かれないとという意味です(笑)。

このあたりは原作どおりと言えばそのとおりで、原作も、谷口大祐となった原誠や谷口里枝の苦悩が小説の主題ではないようでほとんど描かれていません。

俳優の話に戻って、妻夫木聡さん、宝くじなんかでおちゃらけていますのでこういうシリアスな映画はもう無理でしょう。笑顔がにやけています。

映画は凡庸、脚本に問題あり

この小説、映画的にみえて映画化には向いていないんじゃないでしょうか。はっきり言えばおもしろくなかったということなんですが、ただ物語を説明しているだけで何に焦点を絞って描こうとしているのかわからない映画です。

戸籍交換の話はかなりややこしいのですが、そこが深く描かれるような、たとえばミステリーのつくりではありません。谷口大祐と原誠の戸籍交換の間に入っている曽根崎義彦も登場しませんし、そもそもなぜ谷口となった曽根崎が殺人犯の息子である原誠の戸籍と交換しようとしたのかもまったくわかりません。最初の谷口大祐にしても、兄との確執が戸籍交換の理由(映画ではそれも語られない)のようですが、その話も説得力がありません。

とにかく、シリアスな話の割には戸籍交換の理由にリアリティがありません。

それは映画(脚本と監督)にもわかっているようであまり深入りしない選択をしたんでしょう。じゃあ映画は何を描こうとしているのか?

原作は、序をのぞいて城戸(妻夫木聡)の一人称で進みます。序というのは、冒頭とラストのバーのシーンのことで、著者である平野啓一郎氏(もちろん虚構)がバーで城戸から戸籍を交換した男の話(つまり映画の本編)を聞いたというところから始まります。原作ではその城戸が最初は偽名を使って話しかけてきて、後に偽名だったと謝罪しあらためて城戸を名乗ったと始まります。

というようにかなり作り込んだ始め方をしている小説なんです。結局、原作が書いていることは戸籍や名前が個人を特定するとは限らないということで、人生の半ばに差し掛かった城戸(つまりは著者の平野氏)の迷いを描いているのであって、戸籍交換の話はそれを呼び起こすための周辺事情みたいなものです。

映画ではさわりだけ描かれ、かえって散漫になる原因をつくっている、城戸の妻香織(真木よう子)の浮気や谷口大祐(仲野太賀)の恋人であった後藤美涼(清野菜名)の城戸への好意が原作ではかなり重要な要素なんです。それを回収することなく放ったらかしにしている脚本がまずいでしょう。

原作にとらわれすぎた脚本(向井康介)が問題ということです。

序なんてやめてしまってミステリーに構成しなおせば面白い映画になったように思います。戸籍交換の謎の解明にのめり込んでいく城戸にして、その過程で城戸が今の自分は本当の自分なんだろうかと迷うことに焦点を絞ればよかったんだと思います。そうすれば、香織の浮気も美涼の好意もうまく生かせます。さらに言えば、そこから城戸の偽善者ぶりがあぶり出されれば一級のヒューマンドラマになっていたと思います。

中途半端に差別やヘイトクライムなどを入れ込んでいるのがマイナスでしょう。社会派であることの言い訳にしかみえません。

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