エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

基本は家族もの、低予算を逆手にとったキワモノか…

今年2023年のアカデミー賞に作品賞、監督賞、主演女優賞はじめ10部門11(助演女優賞2人)ノミネートされている映画です。

見ようか見まいかと迷って結局見なかった「スイス・アーミー・マン」のダニエル・クワン&ダニエル・シャイナートのダニエルズ監督です。

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス / 監督:ダニエルズ

基本の物語は家族もの

人生、行き詰まってきますと、あのとき違う選択をしていればこんなんじゃなかったなんて思うこともあります。そうした今とは違った人生がマルチバース(多元宇宙)で描かれていきます。シリアスではありません。コメディです。

そして、これは映画ですので、最後は丸くおさまります。

中国系アメリカ人のエヴリン(ミシェル・ヨー)は夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)とコインランドリーを経営しています。今その店が IRS(国税庁みたいなもの…)の税務調査を受けており、山積みの領収書を前にパニック状態です。

ウェイモンドはのほほん系で店の経営には役に立ちません。ティーンの娘はゲイ(レズビアン)でパートナーを連れてきますがエヴリンは気持ちよく受け入れられません。さらに中国から認知症ぎみの父親がやってきています。また、ウェイモンドが離婚を考えていることを後に知ることになります。

という設定でスタートする映画ですが、物語としての展開や進展は特になく、最後に家族の絆を確かめあって終わります。ああ、もうひとつあります。みんな争いごとは忘れて仲良くやろうよとも言っています。

マルチバース

かなり低予算の映画だと思います。数パターン(もっとあったかも…)のマルチバースで描かれますが、出演者の衣装やメイクを変えてのキャラ変更で演出されており、セットも IRS の室内がほとんどです。最新技術が使われているようでもありません。

ポストプロダクションがこの映画のポイントでしょう。

ダニエルズのふたり、ダニエル・クワンさんとダニエル・シャイナートさんのセンスなんでしょう、とにかく慌ただしい編集とエキセントリックなビジュアルとカンフーアクションで構成されています。それに下品です。

始まってしばらくは目まぐるしい編集で何をやっているのかさっぱりわかりません。

IRS の税務調査の日、とつぜんウェイモンドがアルファ・ウェイモンド(アルファ・バースのウェイモンド…)に変わり、エヴリンに事情説明し(笑)戦うんだ!(何と?)と指示します。

とにかく、よくわかりませんが、当面の敵は税務調査官たちということなんでしょう、カンフーアクションを使ったあれこれがあり、あまり脈略のないマルチバース移行でエヴリンのフラッシュバックが挿入され、エヴリンとウェイモンドは20年前、父親の反対を押し切ってアメリカに駆け落ちし、その後、娘ジョイを生まれたことが示されます。

エヴリンがカンフーアクションスターであったり、料理人であったり、石になったり…、思い出せない…といういろんなマルチバースがあります。

マルチバースのうち、一番のポイントはベーグル・バースだと思います。なぜベーグルかは、それがアメリカの象徴だから(か?…)でしょう(笑)。ベーグル・バースはジョイのエヴリンへの反抗バースです。このバースが最後まで残り、でも最後にはエヴリンとジョイが和解し家族の絆を取り戻します。

ウェイモンドは離婚しようと離婚届を持っているのですが、そもそもなぜ離婚しようと思っているのかが明らかにされませんので最後まで曖昧なまま進みます。どうでもいいという判断なんでしょう(笑)。

父親のこともよくわかりません。

ということで、お約束通り、皆円満に戻りました。

新手のマーケティング手法か…

この映画、昨年2022年の3月11日にサウス・バイ・サウスウエスト映画祭で公開され、3月30日に一部の劇場で一晩だけ公開されたそうです。そしてその後、その人気のためイギリス、そして再びアメリカと公開が広がり、アカデミー賞へのノミネートを記念して、今年2023年1月27日にはアメリカの1,400スクリーンで再公開されたとのことです(ウィキペディア)。

まったくの想像ですが、A24の新手のマーケティング手法かもしれませんね。

これでオスカーでもとればしてやったりでしょう。