丘の上の本屋さん

『世界人権宣言』を読むきっかけにはなるかも…

クラウディオ・ロッシ・マッシミ監督、初めて目にする監督ですのでプロフィールをちらっと見ましたら1950年生まれとあり、現在72、3歳ということになります。なのに、過去に日本で公開された映画がないようです。

ということから興味がわき、イタリア映画でタイトルが「丘の上の本屋さん」であれば、きっとイタリア映画得意の抒情的なものだろうと予想して見てみたのですが…。

丘の上の本屋さん / 監督:クラウディオ・ロッシ・マッシミ

世界人権宣言を読んでみよう

どう表現していいのかよくわからない映画です。

イタリアっぽいと言えば、そりゃロケーションがチビテッラ・デル・トロント(チヴィテッラ・デル・トロント)という「イタリアの最も美しい村(I borghi più belli d’Italia)」に登録されている村ですので必然的にそうなりますが、映画としてはダイジェスト版のような映画です。まったく抒情的ではなかったです。

その点では「丘の上の本屋さん」のタイトルはどちらかといいますと釣りタイトルです。原題の「Il diritto alla felicita」は翻訳にかけますと「幸福への権利」という意味のようです。

古書店の店主リベロ(レオ・ジローネ)がブルキナソファからの移民の少年エシエンに本を貸し与えますと、エシエンは次々に読破していくということが軸に(一応…)なっている映画で、その最後の本が「世界人権宣言」ということで終わります。

最後というのリベロが亡くなるからです。亡くなると言ってもまったく感傷的ではなく、たしかに最初からその気配はあるのですが、ある日突然古書店が閉店になりましたと示されるだけです。

具体的にどういう関係があるのかははっきりしませんが、日本の公式サイトには unicef と共同制作となっています。出資しているということではなさそうで、逆に収益の一部が unicef に寄付されるようです(正確には未確認…)。

映画としてはなんとも言えない映画ですが、「世界人権宣言」を読み、あらためて「人権」という価値観を理解するきっかけにはなるかと思います。

多様な登場人物

古書店には様々な人物がやってきます。ただ、それぞれがどういう人物であるとかバックボーンが語られるわけではなく、その人物が古書店にやってきたというだけのことです。

人間、様々だということを見せている映画なのかもしれません。

エシエン

6年前にアフリカ、ブルキナソファからやって来たと言っていました。店主リベロがエシエンに貸したブックリストがあります。

それにしても『白鯨』ってのはどうよ? とは思います(笑)。

ニコラとキアラ

古書店の隣のカフェのお兄ちゃんニコラは暇をみつけては古書店にやって来ます。リベロは最も親しい友人だと言っていました。

キアラは家政婦をやっているんでしょうか、奥様(じゃなかったかも…)のために古書店にフォトコミックを探しに来ます。そんな本は古書店にはありません。常連です。

ニコラはキアラをデートに誘うためにネットでフォトコミックを探し、デートの約束を取り付けます。キアラは婚約者がいると言っていますが、防御のためだったようです。ふたりはうまくいきそうです。

ボジャン、教授

ボジャンは捨てられた本を拾って売りに来ます。教授も、蔵書でしょうか、切り売りして隣のカフェでなにか食べていました。ラスト近くでなにかに名前が出たと言っていました。ふたりは常連です。

BDSM女、スキンヘッド男、神父、蒐集家

なぜこうも独特な人物を登場させているのかはわかりません(笑)。みな一度きりの登場です。

店主リベロ

名前のリベロ(Libero)はサッカーやバレーボールでよく耳にする言葉ですが、イタリア語で「自由」を意味する言葉だそうです。

高齢ですし、早い段階に病院での検査の話が出ていますし、その検査結果をみて気落ちしたシーンがありますし、ニコラに尋ねられても答えませんので、いずれ倒れるなどの展開になるんだろうとの予想がつきます。

ただ、この映画最初に書きましたようにダイジェスト版映画ですので、リベロのラストシーンは、ニコラに今日は早く閉めると言ってとぼとぼと歩き、街角でどこかに入っていく(あれはどこへ入っていったんでしょう…)シーンがあり、次のシーンでは古書店に「閉店」の張り紙がしてあると言った具合にさっぱりしたものです。情に訴えようとしないところは徹底しています。

教育映画? プロパガンダ?

とにかく、目的や意図がわからない映画です。

教育映画にするのならもう少し面白みを加えないと飽きますし、いきなり最後に「世界人権宣言」と打ち出されてはアピール(プロパガンダ)映画にもならないような気がします。