リボルバー・リリー

アクション映画としてはダメだけれど、綾瀬はるかさんひとりでもつ映画…

綾瀬はるかさんは、「海街diary」、それも DVD で見ただけですが、台詞に力のある俳優さんとの印象を強く持ち、その後は注目していてもなかなか見たくなるような出演作がなかったという俳優さんです。

やっと、というわけでもありませんが、ハードボイルド系のアクションものもやるんだというちょっとした驚きとリュック・ベッソン風のビジュアルが目についたというわけです。

リボルバー・リリー / 監督:行定勲

綾瀬はるかさんの映画…

やはり、綾瀬はるかさん、いいですね。

思ったほどアクションシーンはなく、銃撃シーンの多い映画ですが、拳銃を持っている様にも違和感はないですし、立ち振舞が美しいです。それに、やはり台詞に力があります。また逆に台詞がなくてもその佇まいで持ちますので映画俳優さんらしい俳優さんと言えます。格闘シーンでは一部スタントが使われているとは思いますが、様になっています。すべてのシーンがドレス姿ですので、足を蹴り上げるだけでも大変じゃないかと思います。

時代が1924年、大正時代の話ですのでドレスは大正ロマン風、それがまたよく似合います。数着、もっとあったと思いますがどれも美しく着こなしていました。

ただ、ダークヒロイン「リリー」というほどのキャラクター感はなく、あくまでも綾瀬はるかさんの映画という感じではあります。でも、それでいいんです。映画の世界は自分自身を演じることが出来る俳優だけがスターになれる世界ですから(ちょっと古めの映画観ですが…)その素質があるということです。

映画自体は内容が内容なだけにツッコミどころは多いですし、かなりカットされているのではないかとの印象を持ちました。でも、2時間強、綾瀬はるかさんだけで充分に楽しく見られます。

リリー対帝国陸軍の対決

1924年、大正13年、関東大震災の翌年の荒唐無稽な話です(笑)。

あまりうまくいっているとは思いませんが、おそらく映画は2つの軸を交錯させてリリーこと小曾根百合(綾瀬はるか)のキャラクターを作り上げようとしたのだと思います。

ひとつは映画の現在軸である大正13年のメインストーリー、帝国陸軍の隠し金騒動にリリーが巻き込まれる話、そしてもうひとつが10数年から20年くらい前の台湾でのスパイ時代にリリーが我が子を失うという絶望の話です。ただ、過去の話があまり有効に現在に絡み合ってきておらず、たとえば、白髪の老女や死神のようにリリーにまとわりつく男の存在が曖昧過ぎてリリーのキャラクター造形に役立っていません。

まず、帝国陸軍の隠し金の話はこんな感じです。

帝国陸軍は大陸進出の野望のために裏金を投資に回し1億6千万を蓄財しています。国家予算の1/10と言っていましたので現在のお金に換算しますと10兆円くらいです。ちなみに2023年度の日本の防衛費の予算は6兆8219億円です。それを2023年度からの5年間で45兆円程度に増額しようとしているのが岸田政権です。

話を戻します。その裏金を運用していたのが豊川悦司(公式サイトにも役名がないのでゴメン、以下同様です…)で、豊川はそのお金を自分の息子(10代半ばだったか…)の指紋とパスワードを使って銀行に預けたまま持ち逃げしようとします。

帝国陸軍は秩父の豊川の住まいを襲い、豊川が逃亡したことを知ると家族を皆殺しにします(そんな必要はないんだけどね…)。息子は豊川の知り合い(らしい…)の石橋蓮司の家に逃げ、そこにいた父親から手ぬぐいに包まれた書類を託され、東京玉ノ井の小曾根百合のもとへ行けと命じられます。

その後、豊川と石橋は帝国陸軍に包囲され、豊川は自ら頭をぶち抜いて死亡(元スパイなんだからリリーのように戦いな…)、石橋は殺されて豊川の家族惨殺の犯人とされます。

リリーは玉ノ井で銘酒屋をやっています。リリーは、新聞で豊川一家惨殺事件の犯人が石橋との記事を読み、石橋がそんなことをするはずがないと秩父へ向かいます。リリーはこの時、この豊川が台湾時代の上司であり、自分が生んだ子どもの父親であるあの豊川であることをまだ知りません。

という設定で、リリーと息子が出会い、徐々に事情を掴んでいくリリーと帝国陸軍が対決するというのがメインストーリーです。その間に、リリーに死神のようにつきまとう清水尋也との対決や立ち位置不明のヤクザの二代目佐藤二朗との絡みがあるなどして、クライマックス(になっていないけど…)の対決へと向かいます。

リリーの過去、スパイ時代

リリーの協力者として弁護士の長谷川博己がいます。長谷川は元海軍士官であり、内務省や帝国海軍大将(のような描き方だが、実際には山本が大将になるのは10数年後…)山本五十六にも顔がききます。

この長谷川の役割は、映画では描ききれないリリーの過去を内務省の吹越満に喋らせることと、山本に1億6千万円を渡す代わりに豊川の息子を保護してほしいと掛け合い、取引を成立させる役割です。狂言回し的な役割ということです。

この内務省のほうの説明シーンがとてもまずいです。フラッシュバックか二時代同時進行で描かないとリリーというダークヒロイン的キャラクターは生まれてきません。なぜこんな説明そのもののシーンにしたんでしょうね。

で、その吹越の話によりますと、リリーは幣原機関(と言っていたと思いますが幣原喜重郎を指したんでしょうか…)の元スパイであり、「東アジアを中心に3年間で57人の殺害に関与(映画.com)」したという人物で、当時の上司である豊川との間に子どもが生まれており、しかし、組織の内部分裂に巻き込まれて子どもを失い、その後豊川も肺病で亡くなったということです。

リリーが子どもと眠っている時に対立グループに襲われて子どもに流れ弾があたるようなシーンがフラッシュバックで2度ほど挿入されていました。過去のシーンはこれだけだったと思います。

死神のようにまとわりつく男清水はこの時の対立グループのひとりという設定かも知れません。やたらリリーに「死に囚われている…」とか言っていました。街なかで狐の面を被ってリリーを惑わすシーンがあり、私は亡霊なのかなあと思って見ていたんですがどうなんでしょう。池の中の決闘シーンもどこか違う次元であるかのような描き方に感じました。

とにかく、こういうドラマですのであまり突っ込んでも仕方ないのですが、やはり過去をきちんと描いていないことが映画としての面白さを半減させていますし、曖昧に小出しにしていますので物語も薄っぺらになっています。

アクション監督はいないのか…

アクション映画としてどうかということでは、2、3シーン程度ある格闘シーンは、綾瀬はるかさんであることから見られはしますが、シーンのつくりとしてはまあ普通です。

問題は帝国陸軍との対決シーンです。1回目は玉ノ井の銘酒屋が包囲されて、リリー、シシド・カフカ、古川琴音、そして長谷川の4人と軍人たちの銃撃戦になり、とにかくリリーたちは一発必殺で軍人たちは次々に倒れていきます。まあこれは1回目ですのでいいとしても、クライマックスとなるべきシーン、息子を海軍省に連れていくことになり、その途中の霧の中の銃撃戦や海軍省の前の銃撃戦はとてもアクションシーンとは言えません。

もう少しアクションシーンとしてのパターンを増やさないとダメでしょう。アクション監督はいないんでしょうか。

矛盾を抱えた存在、リリー…

随所に戦争、そして戦うことの無意味さを語る台詞があります。

そもそも幣原機関の内部分裂の発端は、豊川(本人名のままでゴメン…)が武力で戦うことの無意味さに気づき、これからは経済によって国を建てるべきだと思い至って、別人になりすまして密かに日本での活動を始めたということになっています。

あれこれツッコミどころはあるにしても、武力行使よりも外交みたいな話です。

リリーもまた、争いによって自らの子どもを失ったことからスパイから足を洗っています。リリーの場合は自分の存在がゆえに我が子を失うことになったという絶望感からだとは思いますが、それでも争いごとから遠ざかりたいとの思いからの現在でしょう。

しかし、リリーは常にリボルバーを持っています。これをたとえて言うなら、憲法で戦争放棄を謳っておきながら軍隊を持ち防衛費も増額しようとする今の日本みたいなものです。リリーは自ら戦いを仕掛けることはありませんが攻撃されれば戦い、相手を撃ち殺します。自衛戦争ということになります。

そして、そのリリーがクライマックスの帝国陸軍との対決に勝ち、海軍省の敷地内に立つ山本五十六にこの1億6千万円を何に使うつもりかと尋ねますと、山本は、戦争が起きるとするならば開戦を10年遅らせてみせると豪語します。山本が実際に何に使うかといいますとアメリカに対抗するための戦艦の建造でしょう。これを現代的に解釈しますと核抑止力ということです。

そして結局、日本はアメリカ(だけじゃないけど…)と戦争を始め、310万人以上の戦死者を出し、さらに中国や東南アジアで数々の虐殺行為も行ってしまったのです。そんなことを語る映画ではありませんが、これが現実です。

ラストシーン、汽車の中、刺客に襲われるリリーは相も変わらずバッグにリボルバーを忍ばせているのです。

という矛盾を抱えた「リボルバー・リリー」なんですが、その矛盾に気づかずに戦争の無意味さを語らせることに酔ってしまい、映画としての面白さを半減させてしまったということかと思います。

ただ、そんなことを考えて見る人はいないとは思います(笑)。