ピンク・クラウド

ネタバレレビュー・あらすじ・感想・評価

世界中が、吸い込めば10秒で死にいたる「ピンク・クラウド」に覆われてしまい、誰も外に出られなくなってしまったという、新型コロナウイスルによるパンデミックを思わせる映画です。ただ、描かれるシーンは二人の男女とその子どもだけの密室映画です。

内容的に長編は無理じゃなかろうか

監督はブラジルのイウリ・ジェルバーゼさん、この「ピンク・クラウド」が初の長編で過去に短編6本がクレジットされています。

2021年1月のサンダンス映画祭でプレミア上映されています。シナリオは2017年に書かれ、撮影は2019年に終えており、パンデミックは編集段階に入っているときだったそうです。

当然ながらこの映画は、新型コロナウイルスによるパンデミックの現実を重ね合わせて見られることになってしまいます。監督本人に聞かなければわからないことですが、かえってよくなかったんじゃないかと思います。

おそらく最初にイメージされていたのは「大気汚染」でしょう。それに最初から長編の予定だったかどうかも疑問に感じます。二人の男女が監禁状態になって起きることはおよそ誰もが想像できる範囲内のことです。100分の映画にしては内容がなさすぎます。短編で緊張感あふれるぎゅっとしまった映画にすべき内容だと思います。

平常時と変わらぬ日常を見せられても…

ある朝、ジョヴァナ(ヘナタ・ジ・レリス)とヤーゴ(エドゥアルド・メンドンサ)が目覚めますと、外にはピンク・クラウドが漂っています。警報が鳴り響き、テレビでは吸い込めば10秒で死にいたるとアナウンスされます。監禁状態の始まりです。

この映画にはまったく緊迫感がありません。テレビのアナウンサーも落ち着いたもの、二人に動揺もありません。この状態が10年以上続くわけですが、食料も生活用品も嗜好品も問題なく提供され、金銭的なことが問題になることもありません。

パニックに陷ることもなくまるで平常時と変わりない始まりは非現実的でシュールでいいんです。このシュールさを生かす方法もあったんじゃないかと思いますが、残念ながらどうやらそれはシュールさをねらったわけではなく、単に緊迫感を出そうとしなかっただけのようです。これが最後まで続きます。そうなれば、これはもう日常です。100分間、男女二人の日常を見ているだけになってしまいます。

ヤーゴが子どもを持とうと言い出します。ジョヴァナはいっとき拒否(そんな強くではない…)しますが、結局同意したようです。

この映画、二人それぞれの内面の葛藤が描かれませんので、早い話、外に出られなくなりました、二人がセックスしました、子どもが生まれました、喧嘩をしました、家庭内別居となりました、仲直りしました、またセックスしました、みたいな映画です。

これ、日常でしょ。

順応する男、抵抗する女

男女の振り分けに意味があるかどうかはわかりませんが、男のヤーゴは外に出られない状態に順応し、生きているだけでしあわせだと言っています。女のジョヴァナは外に出られないことに耐えられません。

子どもはもう10歳くらいになっています。男の子です。生まれたときから監禁状態ですので、その状態が普通であり、そもそも監禁状態ではありません。ピンク・クラウドが消えないように祈ったりしています。

ジョヴァナは VRの世界に没入していきます。しかし満足できません。そして、自ら外に出ていきます。ジョヴァナが10秒数えカットアウトで映画は終わります。

パンデミックがなければ、シュールな世界観の映画になっていたかも知れません。