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悲しみのミルク/クラウディア・リョサ

はペルー映画なのでしょうか?

2011/06/08

2年前2009年のベルリン金熊賞受賞作です。あまり馴染みのないペルー映画が受賞と聞いて、ずーと待っていたのです


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全般的にはいい映画だとは思いますが、ただ何かしっくり来ません。

まず何をおいても、カメラワークが意図的すぎる感じがします。ファーストシーンの、まるで語るように歌う老婆のクローズアップで構成されたシーンは、その歌の悲しげな旋律と相まっていい雰囲気かなと思ったのですが、その後のいくつかのシーンを見ていくうちにどんどん違和感が広がってきます。

話はそれますが、その老婆、主人公ファウスタの母親が歌う内容はかなり強烈で、まだファウスタがお腹の中にいる頃、テロリスト(と訳されていたと思いますが、センデロ・ルミノソと思われます)がやってきて、夫を殺害し、自分は切り取られた夫の性器を口に押し込まれままレイプされた、といったおぞましい内容です。この歌の内容自体が事実かどうかは分かりませんが、これに類する話は現実にあったことのようですし、あるいはもっとひどいことが起きていたのかもしません。

で、カメラワークですが、その後、ファウスタの住まい(叔父の家なのか、皆で暮らしているのか)らしき家の庭をとらえた固定カメラによるロングショット、このシーンがとても長〜いんです。そして、ファウスタが現れ鼻血を流して倒れます。病院での医師とのやりとりはごく一般的なカット割りなんですが、病院を出るシーンが相当意図的です。カメラワークは一変し、手持ちかステディか、病院内の廊下を早足で歩くファウスタのおじさんの後ろ姿を追い続けます。どこかで見たようなカメラワーク。

その後も続きます。インカの遺跡を思わせる長い階段をとらえたフィックスされたロングショット、メイドとして働くことになったピアニストの家に初めて訪れた時のカメラワーク(これもどこかで見たような)、ピアニストの家への訪問者をのぞき窓から見るファウスタのクローズアップ、必ずやや俯瞰気味のロングショットで撮られる結婚式の模様といった感じで、シーン毎に様々な撮影技法が使われます。

で、どこかで見たような感覚が分かりました。撮影を担当しているのが「シルビアのいる街で」のナターシャ・ブレイアさんという人でした。自分のブログを読み返してみたら、笑ってしまいました。同じようなことを書いています(笑)。

やはり感じることは「意図的」です。カメラワークだけではなく、これが一番重要なことなんですが、クラウディア・リョサ監督の立ち位置がよく分かりません。ファウスタが母からの恐怖心を受け継ぎ、じゃがいもを膣に入れてレイプの恐怖から逃れるという話が映画の軸になっているのですが、そんな話が現実にあったことなのか、もしあったとするなら、この異様なことをするには相当な恐怖心が心に潜んでいると考えるべきですし、もしそうなら、あのファウスタの力強さはどこから来ているのか、またじゃがいもを取り出した、それもかたくなに拒否していた本人の意志ではなく医師の手により取り出された後のファウスタの生き生き感は一体何なのか、クラウディア・リョサ監督はそれらには答えてくれません。

で、ネットで監督インタビューでもないかと調べていたら、配給の東風にこんなのがありました。

どれほど辛い記憶にとらわれていたとしても、いかにもあっけらかんと明日がやって来るこの世界は、ときに苛酷でグロテスクでさえある。しかし、その残酷さと笑い、悲しみと喜びの共存にこそ「ペルー的感性」がある

文脈的には監督の言葉なのかどうなのかは定かではありませんが、ああそういうことなのかと納得がいってしまいます。この映画の紹介に「寓意」という言葉がよく使われていますが、上の引用からいえば、まさしくこの映画は寓意劇であり、クラウディア・リョサ監督はペルー社会を寓意的に描いたということになるのでしょう。

その意味ではいい映画と言えるのかも知れませんが、問題は、明らかにクラウディア・リョサ監督は映画の中のピアニストの側に属していると思われますし、そしてまた映画的にもヨーロッパ的感性を身につけてこの映画を撮っていることです。支配する者と支配される者、富む者と貧しい者を含む社会にあって、その両者に共有できる感性が本当に存在するのでしょうか?

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