幸せのバランス/イヴァーノ・デ・マッテオ監督

イタリアの公務員は、月収1,200ユーロ、1ユーロ140円として168,000円?

このところローマが舞台の映画を立て続けに見ています。「グレート・ビューティー/追憶のローマ」「ローマの教室で〜我らの佳き日々〜」「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」、それぞれ全く傾向が違いますが、この映画も、また新鮮です(やや笑)。

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ローマ市の職員で福祉課に勤め、妻(エレナ)と二人の子供と穏やかな生活を送っていたジュリオ(40歳)。同僚の女性との浮気がエレナの知るところとなり、夫婦仲は険悪に…。話し合いをして、子供のために、仲の良い夫婦を装うと努力することにしたが、ある日、ジュリオは、「君が正しい。私が家を出る」と宣言する。
思春期の娘カミラは、不器用な父親が心配でならず、部屋探しを手伝い、頻繁に連絡して、つながりを保とうとする。だが、限度を超えた借金をし、夜のバイトをしても支払いが追いつかない、ギリギリの二重生活の中で、ジュリオは疲弊し、次第に無口になっていく。それは、安定した職つき平穏に暮らして来たジュリオ本人にとっても、初めて直面する厳しい現実だった…。(公式サイトから一部省略で)

ということで、ジュリオが、ただただ救いもなくホームレスへ転落していく様が描かれていきます。

絶望して墜ちていくって話はいろいろあるように思いますが、ここまで世俗なことだけで自殺まで考える映画というのはどうでしょう? 多分ないでしょう。だって、そんな話、誰も見たいとは思わないでしょう(やや笑)。

まあ、映画ですから、ツッコミどころはたくさんあるのですが、基本的な設定は、今や日本でもかなりリアルにイメージできる内容です。

ジュリオの収入は、月収1,200ユーロ、1ユーロ140円として168,000円です。ジュリオもクリスマスに特別手当のようなものが出ると言っていましたし、調べるとイタリアでもボーナスのようなものがあり、6月と12月に1ヶ月分がもらえるという話もありますが、それでも年収235万あまりです。

妻のエレナも働いていますが、子供たちの養育費に家のローン、それプラス、別居する住まいに自分の生活費ですから、そりゃ大変でしょう。家を出たジュリオは、アパート探し、友人の家に居候、仕事を終えた後のアルバイト(違法?)、安ホテル(?)住まい、車の中の寝泊まり、ホームレス向けの炊き出しなどなどと、どんどん切羽詰まっていきます。見ていて楽しい話ではありませんが、ローマの現実、かどうかは分かりませんが、これは映画だと思えば、見ていて面白いですよ。くどいようですが、映画と思えばですよ(やや笑)。

で、ジュリオは公務員なのに!?と思いますが、イタリアではこうなんでしょうか? まあ、でも、よく考えれば、日本だって、一見公務員に見えますが、嘱託という名のもとに非正規で働いている人たちがたくさんいるようです。「官製ワーキングプア」でググればいろいろヒットしますが、ハローワークの窓口の職員や図書館の司書はほとんどが1年契約の非正規だという話が少し前の新聞にも出ていました。国であれ、地方であれ、公務員の天下り先や再就職先となっている外郭団体では、元公務員以外は全て非正規というのもありそうです。

さらに話はそれますが、国税庁の発表によりますと、2013年の民間企業の平均給与は414万円で、内、正規が473万円、非正規が168万円とのことで、さらにビックリすることは、データを取った人数が4645万人、そのうち非正規の人数の割合がなんと約22.4%、1/4です!

と、人ごとのように言っていられるわけではありませんが…。


映画『幸せのバランス』予告編

「救いもなく墜ちていく」と書きましたが、ラストはあるいは救いの手が…と思わせて終わっていますので、途中落ち込んで劇場から出ようとせず最後まで見た方がいいでしょう(やや笑)。ただ、仮に救われたとしても、ジュリアの金銭状態が良くなることはないのは目にみえています。

イヴァーノ・デ・マッテオ監督は、ドキュメンタリー畑の監督のようで、俳優でもあるとあります。映像的には、移動しながらのパンとか、縦方向や斜めからのパン(ティルトというらしい)がやたら目立っていました。オープニングシーンは、役所の資料庫のような広い部屋を何かを探すように移動しながらパンしていくのですが、なんだか動きがカクカクして見づらかったですね。スクリーンが近くてそう見えたのでしょうか? HDCAMとありますので解像度のせいでしょうか?

それと、この邦題!何考えているでしょうね!? 邦題ってよくやり玉に挙がりますので可愛そうなんですが、「幸せの」何とかで釣ろうとしたのでしょうが、かえってマイナスでしょう。原題の意味は「綱渡り」ということのようです。