イントロダクション

ホン・サンス監督だと思ってみないとその良さは感じられないかも…

ホン・サンス監督は本当に多作の監督です。この「イントロダクション」が2020年の製作で、同時公開されている「あなたの顔の前に」が2021年製作となっています。ただどちらも66分と85分と短いですし、「あなたの顔の前で」は見ていませんのでおそらくですが、どちらもダイアログでつないだシンプルなつくりの映画です。

この「イントロダクション」は2021年のベルリン映画祭で最優秀脚本賞の銀熊を受賞しています。「アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ」が金熊の年です。

イントロダクション / 監督:ホン・サンス

ホン・サンス監督だから…

4年ほど前に「それから」を見て、先鋭化した映画スタイルにこれはラディカル・ホン・サンスだと書いたことがありますが、さらにそのスタイルが研ぎ澄まされてよくわかんなくなっています(笑)。

ホン・サンス監督の映画であるとの前提で見ないと何が何やらわかりませんし、映画としての評価もホン・サンス監督の名前を取ってしまうと同じような評価を得るのは難しいかもしれません。

3つのパートで構成され、それぞれのパートは2〜4人のダイアログだけで、その会話の内容もほぼ独立しており、3つのパートの時系列や関連さえ説明されることはありません。とは言っても、おおよそは人物の構成でこういうことかな程度にはわかります。ただ、事前情報を入れずに見ますとそこまでで、何かを感じるところまでいくのはかなり難しい映画です。

ヨンホと父

成人の男が神に祈りを捧げています。何かを叶えてくれれば全財産の半分を捧げてもいいと祈っています。そんな祈りってあるのか?(笑)とは思いますし、何を祈っているのかわかりませんでしたが、今から思えば息子のヨンホのことかもしれません。

ヨンホがジュウォン(恋人らしい)と歩いて来て、ヨンホがここだと言い、ジュウォンに待っていてくれるかと言い、その建物に入っていきます。

後々わかったことは、ヨンホの父親は鍼医であり、ヨンホは父親に呼ばれて会いに来たということです。両親は離婚しており、父親とはあまり折り合いがよくないようです。

会いに来たものの父親とのシーンはワンカット、父親は訪ねてきた旧知の俳優の治療で手が話せない(というわけでもなさそう)らしく、ちょっと待っていてくれと顔を合わせるだけです。代わりに父親の医院を取り仕切っているらしい女性とのシーンがあり、その女性はしきりに懐かしいと言っており、ヨンホがおもむろにその女性を抱きしめるカットがあります。その女性はヨンホに自分を愛していると言ったことを覚えている?と尋ね、ヨンホは笑いながら覚えているよと答えています。

ヨンホとジュウォン

ベルリンです。ジュウォンがベルリンに衣装(映画のだと思う)の勉強をしたいといって来ています。母親のつて(らしい)で画家の女性の家に間借りすることになります。

その3人の会話がいろいろ(というほどでもないが)あり、ジュウォンが母親にヨンホが訪ねてきたので会いに行っていいかと言っています。

母親はベルリン在住ということでもなさそうですし、ジュウォンが心配でついてきたのでしょうか、なんともよくわからない設定です。

とにかく、ジュウォンはヨンホとあいます。ヨンホはジュウォンを追っかけてきたということのようです。ふたりのよそよそしさを感じさせる会話があり、ヨンホがジュウォンを抱きしめます。ジュウォンも抱き返しています。

ヨンホと母

海辺の食堂でヨンホの母と最初のパートでヨンホの父親が治療していた俳優が飲んでいます。両親ともに親しい俳優ということのようで、その俳優は以前ヨンホに俳優に向いているようなことを言ったらしく、ヨンホは一旦は俳優を目指したのですが、今はやめる決心をしているようです。母親はそれを俳優に相談しているらしく、この場にヨンホを呼んでいるということです。

ヨンホが友人を連れてやってきます。俳優はふたりに酒を勧めながら絶対に酔うなと釘を差しています。

どういうことなのかよくわかりませんでしたが、説教したがりの大人を揶揄していたのかもしれません。そもそもの母親がヨンホを呼んだわけの俳優をやめる件についても、ヨンホが恋人役の女性とキスするシーンがあり、どうしても実際の恋人(ジュウォンということかな)を裏切るような気がしてできなかった、だから俳優をやめると言いますと、その俳優は興奮してヨンホに説教を始めます。ただその説教は、演技であろうが現実であろうが抱きしめることは愛なのだ!と支離滅裂で、ヨンホはそう感じるから演技できないと言っているのに、このおっちゃんは何言ってんだ?!状態です(笑)。

やっぱり説教好きの大人のしょうもなさを見せているんでしょうかね。

この後、海辺に出たヨンホが砂浜で海を見つめるジュウォンを見るけるシーンがあります。ただこれは現実ではないかもしれません。ジュウォンは死のうと思っていたと言い、またベルリンで結婚したドイツ人とは別れたと言っています。ここでもヨンホがジュウォンを抱きしめていたかもしれません。記憶がありません。

冬の海に入るヨンホ

ダウンジャケットを来ていますので冬だと思います。ヨンホがパンツ一丁で海に入っていきます。寒さに震えています。浜に上がってきますと一緒に来ていた友人が抱きしめて温めてくれます。

という映画です。

ラディカル・ホン・サンス

本当に映画スタイルが先鋭化してしまっています。ホン・サンス監督の映画だと覚悟してみないと何もわかりませんし、面白くもありません(笑)。

で、この映画で何をやろうとしたのかは私にはわかりません。公式サイトには「モラトリアムな時期をさまよう青年」であるとか、

三つの“抱擁”を通して、一人の若者の人生が紐解かれていく。誰もが経験する青年期の迷いや喪失、孤独を抱え、恋に夢に破れながらも、やがて心安らぐ温もりに満ちた瞬間が訪れる…。

https://mimosafilms.com/hongsangsoo/introduction.html#contents_wrapper

という説明もありますが、そう思ってみればそうなんでしょうが、そう思って見なければそう見えない映画でもあります。

それに、この映画もホン・サンス監督の若き頃の回想かもしれません。