アンラッキー・セックス またはイカれたポルノ

社会風刺も時にブーメランになる

昨年2021年のベルリン映画祭の金熊受賞作です。この時、銀熊の審査員グランプリを受賞しているのが濱口竜介監督の「偶然と想像」です。

1年前のことなのにコロナ(COVID-19)がどんな状況だったのかすっかり忘れてしまっています。日本は比較的落ち着いていましたが、ヨーロッパは大変な時期だったようでこの年のベルリンはオンライン開催でした。

アンラッキー・セックス またはイカれたポルノ / 監督:ラドゥ・ジューデ

ポルノは釣り?

釣りというわけでもないのでしょうが、ポルノ自体をどうこうという映画ではなく、教師がプライベートポルノ(という言葉でいいのかどうかは?)をネットに流出させてしまったがために、子どもの保護者から教師としての資質を問われるということがメインであり、その際に世の中に溢れる差別的なことが溢れ出るという映画です。

冒頭、教師エミと夫のセックスシーンがありますが、日本版は文字パネルのレイヤーでマスクしてあり、茶化しのコメントがいっぱい出てきます。「監督自己検閲版」という皮肉なんでしょう。音声はありますので逆にエロいと言えばエロいです。ただ、英語であったりルーマニア語であたったりするコメントを読んだり、字幕を読んだりでエロさに集中している暇はありません。どの程度翻訳されているかわかりませんが台詞はかなり際どい内容のようです。

その後は、3つのパートに分かれており、ひとつ目はエミがブカレストの街中を歩き回るところを撮り続けています。このパートでは通行人も皆マスクをしています。日本であれば日常風景ですが、ヨーロッパ感覚ですとそれだけでも終末感が感じられるのかもしれません。

カメラはエミを追いながら時々エミを外してパンしたりティルトしたりして、巨大な広告(女性を性的に扱っていたと思う)や建物を撮っています。またエミが、歩道に駐車している男を咎めると男が逆ギレして卑猥な言葉を投げつけてきたり、スーパーのレジで前の客が遅いと怒り出す女などで刺々しい社会の空気を見せています。

このパートからいろいろ読み取ることはできるのでしょうが、一番はコロナ禍の影響もあって他に撮れなかったのでしょう。

ふたつ目のパートは、「Short dictionary of anecdotes, signs and wonders(逸話、兆候、驚異の辞書)」のタイトルで、ほとんどスチルだったと思いますが、歴史や宗教や文化などの写真や画像にそれぞれ皮肉やブラックジョーク的なコメントがつけられています。

ひとつひとつにはいろいろあるのでしょうが、これも結局のところ苦肉の策でしょう。ひとつひとつにどんなに意味があってもそれを噛みしめている暇はありません。わかってやっていることでしょうから、このパートの意味合いとしてはその程度のものということです。

ところでこのパートのコメント、ナレーションもないのに字幕がついていましたが、オリジナルではどうなっているのでしょう。

そしてみっつ目のパート、保護者会です。エミが保護者たちから吊るし上げられるわけですが、映画の見せ方としては、特徴的なキャラの保護者に差別的な言動をさせ、社会風刺をしているように見せるというパターンです。

ただどの人物も煮えきらなく中途半端です。特に男性はどの人物をもやもやとはっきりしないです。ひとりひとりの人物造形がしっかりしていないです。映画としての力を注げるのはこのパートしかないのですからもう少しなんとかすればいいのにと思います。

そしてエンディングは3つのパターンで見せています。

ひとつ目は、保護者の中に不道徳を盾にエミを糾弾し続けるPTA会長風の女性がいます。ついにエミがキレて、その女性が不正をして子どもを入学させ賄賂を使って成績をよくしていると暴露します。そして二人の取っ組み合いで終わります。男の監督がよくやる女性に女性をぶつけて争わせるというパターンです。

ふたつ目は、エミが保護者たちの投票に従って素直に退職を申し出ます。

そしてみっつ目は、エミがワンダーウーマンのようなキャラに変身し、保護者たち、特に男たちをやっつけるというものです。

あからさまな社会風刺は傲慢さの現れ

映画をつくる方も選ぶ方もコロナ禍でおかしくなっちゃいましたかね(笑)。

こんなあからさまにつくり手のメッセージが表現された映画は見ていても面白くはないでしょう。映画製作者が時として陥る傲慢さの現れだと思います。言葉で語れるものをわざわざ映画にする必要はないということです。

それに、そもそもプライベートポルノの流出にしても、夫がカメラのスイッチを入れると興奮するとか言っていましたので、夫がそれ用のサイトに投稿しているんだと思われます。それなのに社会で糾弾されるのは女性である妻ということになります。この映画はそれを前提にして撮っている映画です。夫を主人公にしてこの内容の映画を撮ることを検討したかどうかということです。

結末にしても、それまできっちり論理的に反論していたエミにいきなり非論理的な暴露という手を使わせ、ましてやそれを女対女の取っ組み合いで見せるということには、女性をどう見ているかの視点が疑われますし、同じく3つ目も、セクシーさを売り物として作り出されたようなキャラが馬鹿な男たちを成敗しても始まらないでしょう。

ルーマニアのおすすめ映画

ルーマニアのおすすめ映画です。

4ヶ月、3週と2日」2007年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞しています。なにか書いた記憶はあるのですがサイト内を検索しても見つかりません。

汚れなき祈り」同じくクリスティアン・ムンジウ監督の2012年の作品です。これも検索しても見つかりません。

そして、