実話にもとづく70年後の感動物語と70年間のラブストーリー…
現在91歳のマイケル・ケインさんと残念ながら昨年2023年6月15日に87歳で亡くなられたグレンダ・ジャクソンさんの共演という映画です。さすがにこの年齢ですのでどちらも何本かは見ていますが、これといった映画を思い出せない俳優さんです(ゴメン…)。
実話:バーナード・ジョーダンさんの大脱走…
今年2024年はノルマンディー上陸作戦80周年ということで、当日6月6日にはウクライナのゼレンスキー大統領も参加して式典が行われました。そうしたタイミング(イギリスでの公開は2023年10月6日…)を狙ってということもあるでしょうし、また、忘れ去られてはいけないという思いもあるのかもしれません。10年前、2014年の同じくノルマンディー上陸作戦70周年の際に大きく話題になった(らしい…)実話が映画化されました。
リンク先の記事によりますと、2014年6月5日10時半頃(早朝ではないらしい…)、イギリス海峡に面したホヴ(ホーヴ)の介護施設で暮らす89歳のバーニーことバーナード・ジョーダンさんは妻アイリーン(愛称レネ)さんにだけに目的を告げて施設を後にします。目的はノルマンディー上陸作戦70周年記念式典に参加することです。
夕方、施設ではバーニーが戻ってこないために警察に捜索願を出します。その頃バーニーはポーツマスからフェリーでノルマンディーへ向かっていたのです。
そしてその夜、バーニーがノルマンディーにいることが確認され、また警察がこの件をツイートしたために大きな話題となり、バーニーの帰国後には介護施設の周りを記者たちが取り囲んだということです。
バーナード・ジョーダンさん本人は翌年も訪れたいと語ったそうですが、残念ながら翌2015年1月にお亡くなりになり、またアイリーンさんもその1週間後に亡くなったということです。
ところで、このジョーダンさんは市会議員(ホーヴのだと思う…)を長く務められた後、1年間ほど市長の職にもあった人物です。
バーニーの戦争秘話と70年後の感動物語…
という実話をもとに、映画は、なぜバーニー(マイケル・ケイン)が施設に無断で、また式典への参加枠が取れなかったにもかかわらず一人でノルマンディーへ向かったのかのエピソードとフェリーで出会った同じく退役軍人アーサーのもうひとつのエピソードを加えて感動的な物語に仕上げています。
このエピソード、2つともに映画の創作だとは思いますが、ただ、どちらも現実にもあり得ただろうと想像できる話ですのでそれだけに感動をもたらします。
バーニーは上陸用舟艇で戦車部隊のダグラス・ベネットと知り合います。敵からの砲撃を受ける中で自身恐怖を感じながらもダグラスを勇気づけて送り出します。しかし、ダグラスの乗った戦車は上陸後に敵の砲弾を受けて戦車は炎上しダグラスは戦死します。
Chief Photographer's Mate (CPHOM) Robert F. Sargent, U.S. Coast Guard, Public domain, via Wikimedia Commons/1944年6月6日、LCVPからオマハ・ビーチに上陸するアメリカ第1歩兵師団第16歩兵連隊E中隊
これはアメリカ軍の従軍カメラマンが撮った写真で歩兵の上陸ですが、その前に戦車が上陸するということなんだろうと思います。映画でもこうした映像のシーンがあります。
バーニーは自分がダグラスを死に追いやったかのような罪悪感を70年間感じていたということです。そしてそのことを妻のレネ(グレンダ・ジャクソン)にも語ることなく一人で抱えていたわけです。
そして70年後の6月6日、バーニーは初めてバイユー戦没者墓地を訪れてダグラスの墓の前でその死を悼みます。
フェリーで知り合った空軍の退役軍人アーサーのエピソードは、自らの爆撃で弟を失ったというものです。もちろん直接的にということではなくいずれかの誤爆でその可能性があるということですが、良心の呵責に苛まれてアルコール中毒になっているという設定です。
アーサーは、一旦はバイユー訪問の誘いを拒みますが、バーニーに説得されて同行し弟の墓に向かいます。アーサーもまた心の澱を少なからず溶かすことが出来たのでしょう。
そしてもう一つ小ネタですが、式典スタッフとして働くイラク戦争の帰還兵が、PTSD からだと思いますがバーで無理難題を言うシーンがあります。ちょっと無理のあるシーンではありますが、バーニーがなだめることでその場を収め、バーニーがノルマンディーを去るときにはその元兵士に自分をしっかり見つめて生きろと言い聞かせます。
戦争が引き起こす不幸は70年前のことだけじゃないよと映画は語ろうとしているのだと思います。
70年間のラブストーリー…
という感動物語とともに、バーニーとレネのラブストーリーもひとつの軸になっています。
戦時中の若き二人のラブストーリーは介護施設に残されたレネ(グレンダ・ジャクソン)の回想として描かれます。レネは自分の死期を感じているということなのか、身の回りを片付けながら若き頃の写真を見て思いにふけります。
ジルバのダンスシーン、踊り明かした翌朝の朝日を二人で待つシーン、そして6月6日の朝、何かの予感と不安にかられながらレネが二人で朝日を見た場所へひとり駆けつけるシーンが挿入されています。
そもそも、70周年記念式典への参加枠が取れなかったのは、レネが心臓疾患(多分…)を抱えているためにバーニーが参加を見送るつもりでいたものをレネが強く後押しして遅れて申し込んだためということのようです。レネは、終戦後バーニーが帰還したものの何かを抱え込んでいることは感じても何も聞かなかったようで、おそらくこれが最後の機会だということで自分のことはいいからと強く押したということです。
「大いなる脱走」からの帰還後のバーニーの表情に心の安らぎを見たレネは、私たちは1秒の時間も無駄にしてこなかった、70年間愛し続けてくれてありがとうと声をかけるのです。